自助努力の可否

皆が自助努力で頑張れば、制作はうまくいく。これは経験の浅い、もしくは初心者を抜け出た頃に陥る思考の、よくある例です。

 

実際のところ、自助努力のスコープはローカルに限定されます。つまり、自助努力の効果が発揮されるのは自分自身どまり(=自分の中だけで全ての采配が完結する範囲)であって、複数人数の自助努力を結集しても、制作進行はうまく進むどころか、無駄につぐ無駄を呼び、破綻すら招きます。

 

例えば、こなすべきミッションが‥‥

 

1、2、3、4

 

‥‥とあったとして、皆の自助努力のターゲットが、

 

Aさん 1、2、3

 

Bさん 1、2、4

 

Cさん 2、3

 

Dさん 1、2、3

 

Eさん 1、3

 

‥‥となった場合、結果は‥‥

 

1の合計=4

 

2の合計=4

 

3の合計=4

 

4の合計=1

 

‥‥と、ものすごい偏りがでることがあります。

 

ではなぜ、1、2、3に「皆の自助努力」が集中したのでしょうか。

 

1、2、3の作業がやりがいがあったり報酬が良かったりするからです。反して、4はめんどくさくて厄介な作業で「割に合わない」ので、だれもやりたがらずに放置されてしまったのです。

 

自助努力を集団作業に期待する罠」の典型も典型で、笑い話レベルです。

 

「5人もいて、なぜ、1人しか第4工程に着手してないんだよ!」なんていうのは、自助努力に現場を委ねたこともかなり悪いのです。

 

これはたとえエクセルで表をつけて、皆で状況を監視していても同じです。皆が「これ、だれがやるんだろう」と放置すれば、エクセルの進行表が公開されようと同じです。

 

作画で言えば、日常芝居の会話シーンと、モブが乱闘してビルが倒壊するシーンとで、どっちが先に「売れるか」なんて判り切ってますよネ。同じギャラなら会話シーンに決まっています。

 

これを自助努力でなんとかしようとしても、どうにもなるもんでもないです。‥‥そもそも、担当者が決まらないのですから。

 

 

未来に必要なのは、マネージメントシステムであって、自助努力の名のもとに皆が表計算のリストを眺めることではないです。

 

そして、そのマネージメントシステムがタフでダイナミックであっても、最後に決め手となるのは人間だと私は思います。マネージメントシステムは、スタッフとの会話の「声のトーン」から状況を把握できますか? ‥‥できませんよネ。

 

プロの現場で自助努力なんて言い出すのは、相当危ういです。その言葉が出た時点で、現場のコントロール機能は失われつつあって、統制を欠くことを意味しているからです。

 

10揃えば足りるところに作業者の自助努力で50も集まる一方で、10必要なのに1しか揃ってない‥‥なんていうのは、まさに「自助努力という名の現場放置プレイ」です。

 

高度なマネージメントシステムが確立されたとしても、そのバリュー=値をジャッジするのは、人間です。

 

要は、コンピュータだけでなく、人間だけでもなく、コンピュータと人間で制作を支えていくのが、未来の制作スタイルだと思っています。

 

 


自分のジャンルと他人のジャンル

なぜ、人は「他のジャンル」になると、今まで自分が積み重ねてきた労力や努力を忘れ、「どうせ簡単なことだろう」と思いがちだったり、その逆に「想像が及ばない凄くて近寄れないもの」と思うのでしょうネ?

 

絵を描く時、プロなら、その描線の1つ1つが積み重なって、プロの絵になることを熟知しているし、痛感しているはずです。線1本を軽視すると全体像は思うようにならずに崩れるし、線1本に固執しすぎて全体に目がいかなければ全体像はバランスを欠きます。

 

地道な積み重ねがプロをプロたる技術へと押し上げますし、様々な視点をもって広範囲に観察するからこそ色々な絵が描けるようにもなります。

 

そうした、自分が心血を注いで築き上げてきた「自分のジャンル」に対して、他者から浅い見識と軽率な状況把握によって不当に低評価を下されたりすれば、ものすごく不快な気分になるでしょう。

 

逆に、まるで神様扱いされて、「あなたの生まれながらの才能は素晴らしい」なんて言われても、「何もわかっちゃいない。センスだけでここまで技術を高められるわけないだろう? 相応の努力をしてきたんだよ」と、同じく不快な気分にもなるでしょう。

 

でも、自分のジャンルではなく、他のジャンルに対して、同じことをしがちになる人は、結構存在するのです。

 

本当によくありがちなのは、「絵で描くのは大変だけど、『デジタル』や『3D』だと簡単なんでしょ?」と思う作画の人間ネ。

 

なぜ、自分のジャンルを築くに至った今までの苦労と格闘の経緯を、他のジャンルに対して思いやれないのでしょう?

 

自分の関わるジャンルだけが尊いでも思っているのでしょうか。

 

 

思うに、そうした「自分のジャンルはすごい」「他者は楽してるんだろうから、他のジャンルは大したことない」と考える人間が、ワークグループに存在する時点で、「アニメ現場の明るい未来」は永久に来ません。‥‥少なくとも私はそう思います。

 

自分のジャンルで大変だった事柄を、他人のジャンルで軽々とこなしている「ようにみえる部分だけ」を見て、「簡単にできちゃうんだ」と考えがちなのは、本当によくあることです。そして、「あんなに簡単にできるのなら、どんどん安いお金で引き受けてもらおう」だなんて考え始めます。

 

アニメーターが下描きもせずに、一発描きで絵をサラサラと描くのを他者がみて、「そんなに簡単に絵が描けるのなら、安く沢山描いてよ」なんて言ったらどうします? 馬鹿野郎!‥‥でしょ?

 

さも簡単そうに見える動作のバックボーンに、色々な技術と経験がぎゅうっと詰まっていることを知っていれば、「サラサラとスピーディーにこなす」ことが「楽」「簡単」「安い」ことと同義ではないのが判りますよネ。自分の結果物が、経験と技術と才覚の結晶だということを知っていれば、他者の結果物にだって同じ思いを抱けるはず‥‥なんですけどネ。

 

 

以前、作画の人がAfter Effectsで撮影まで兼任して独自の映像をコンポジットする‥‥みたいなことに、ちょっとだけアシストしたことがあります。その時、「テクスチャの貼り込みはできないので、やってください」と言われて、驚いて唖然としました。

 

撮影まで自分でやって自分の原画担当シーンをコンポジットしたいのなら、貼り込みの作業も自分でやらないとダメでしょ。

 

そんな事例に限らず、作画の人の中にはどうやら「テクスチャの貼り込みは簡単にできる」「テクスチャの貼り込みはソフトが自動でやっている」と思っている人がいるようです。自分でいじったこともないのに、よくもまあ、他者の作業を「簡単だ」とか思えるよネ。

 

他のジャンルの人間が作画作業に割り込んできて、「自分は顔だけが描きたいから、他の部分は作画さんがフォローしてください」なんて言いだしたら、どう思います? ‥‥そして「エフェクト作画や小物類の作画なんて遊びみたいなもんで、顔を描くのに比べれば楽チンなんでしょ?」なんて、作画の素人が言いだしたら、どうでしょう?

 

未経験で何も知らないお前が、簡単だとか勝手に決めるな!‥‥と思うはずです。

 

 

でもさ‥‥「デジタル」が作画にも及んで来て、各ジャンル相互の理解が深まるどころか、他のジャンルをいっそう軽視して、簡単な部分だけを「つまみ食い」するような状況にすら及び始めているように思います。

 

いかにもダメな「技術認識の甘さ」、「内輪モメ」の典型ですが、これを改善する見込みは、私は「ない」と考えています。江戸幕府が継続する以上、「士農工商」が撤廃できなかったのと同じく。

 

でもまあ、やがて何隻も「黒船」がやってきます。江戸幕府はその際に「新政権」に再編成されることもあり得るでしょう。その時が「変われるチャンス」です。

 

 

思うに、今までの「作業工程生粋で育った人間」が工場生産ラインで繋がっている現場の様相は、一旦終息することでしか、仕切り直しはできないのだと思います。それは具体的に言えば、旧現場感覚の人間たちが「引退」することでしょう。もし現場感覚を変えられるのなら、とうの昔に変えられていたはずですからネ。

 

かと言って、年齢だけ若くても、考え方が旧現場感覚なら、20代でも50代でも同じです。頭の中身がおじいちゃんおばあちゃんならば、新しい現場感覚や意識なんて芽生えようもないです。

 

アニメーション制作の各工程を実際にプロクオリティ(=品質に対する責任)で兼任してこそ、各工程の相互理解が深まります。最初から「自分は何用の人間か」を決めつけるのではなく、あらゆる制作作業の中で「自分が何者か」を確立していくのです。そのためには、セクション単位ではなくジョブ単位でフローするダイナミックな制作管理システムも新しい現場の基盤として必要でしょう。

 

未来に向けてやることはやまほどあります。でもそれは、未来もアニメを作り続けたい‥‥と思えばこそ、ですよネ。

 

 


過去の春と、未来の春

温度差はあって当たり前です。前世紀末も、セルやフィルムと並行してコンピュータによるペイントとコンポジット技術が徐々に進行していきましたし、DVDが出ても相変わらずレーザーディスクを買っていた人もおりましょう。

 

どうやら、理屈ではなく愛着が色々なものに作用して、温度差が生じるように思います。キャリアに関係なく、知識や見識にも関係なく、本人の感情が大きく作用するのでしょう。

 

特に仕事に関わる物品で、当人が何を買うかで、当人の温度を客観的に伺い知ることができる‥‥とも言えます。

 

 

思うに、2KのSDRの季節は収穫の秋が終わり、冬の季節を迎えようとしていますから、今すべきことは「次の春に備えること」です。

 

今、夏に育つ苗を買っても、冬に枯れます。2K SDRの苗を買っても、次の季節には育ちません。自然の摂理を応用して考えれば、すぐにわかるのですが、老いが重なると、もう2度と来ない過去の夏を懐かしんで、秋にひまわりのタネを撒くような行為にふけるのです。

 

体は老いても、心や頭は老いたくないもの‥‥ですネ。だって心が老いたら、哀れですし、ミジメですし、周囲の若い人間や若い心をもった人にも面倒をかけます。

 

来年の夏は2019年の夏であって、1984年でも1999年でも、2010年でもないのです。

 

 

私はぶっちゃけ、今は個人で映像機器を買う気にはなれません。2Kはもう終焉が目に見えているし、4KでPQで300nitsの環境は個人で購入できるレベルには下がってきていないからです。買う気になれないのは、買えるものがないから‥‥です。

 

個人レベルで言えば、今はiMac 5Kを1台買うくらいに留めて、次の春の兆しが来るまでお金を貯めるのが、ちょうど良い時期なんじゃないですかネ。今ある2K機材にiMac 5Kや次期Mac miniをプラスして4Kに慣れておいて、いよいよ「未来の春」が近づいて4K機材もなんとか買えるレベルまで手頃になってきたら、「タネを蒔く」のが良いと思ってます。

 

まあ、個人ではなく会社規模なら、「ビニールハウス」的規模で、「先もの獲り」を始められることもありましょう。

 

 

2000年にレーザーディスクを買うような行為は愚かしい‥‥と今なら判りますよネ。2009年(=地デジ化の2年前)にブラウン管の720〜1680pxしか出せない業務用モニタを数十万円(下手すれば百万単位)で買うのは愚かしい‥‥とも今なら判りますよネ。

 

同じく、2020年を間近に控えた今、2KでSDRの機材に高いお金を投資するのは、個人なら酔狂、会社なら背任とすら言えるかも知れません。映像制作の専門機材を扱う専門職にありながら、ほどなく旧式化する高価な機材を、自分の過去の経験と思い入れだけを優先し、先進性や時代性(現代性)を顧みずに導入を推した‥‥という点において。

 

故障して補充するのならともかく、2020年代まで2年を切った今の時期に、もはや高価な2K機材のリプレースは不要でしょう。映像のプロなら、個人でも会社でも、お金の使い方にセンシティブになる時期と言えます。今はもう、2018年の9月‥‥ですもんネ。

 

 

とはいえ、アニメ業界の人間は、作画の限界点を無意識にでも意識して、2Kに思い入れてしまう傾向はあるかも知れないです。でも、時代が進んだ後で振り返れば、「あの時、もっと潔く、未来を認めて受け入れればよかった」と思うのかも‥‥知れませんよ。

 

まあ、引退するつもりの人は、過去に咲いた花を押し花にでもして眺めて、昔を懐かしんで余生を送れば良いです。

 

引退するつもりがない、もしくはまだ自分は若いんだ‥‥と思うのなら、次の春を目指して、色々と準備しましょう。

 

 


PQ、1000nits。ピーキー。

1000nitsの、しかもPQの新時代の色彩制御は、「まあ、S字カーブ、つまりピーキーな特性に操作感覚を合わせればいい」とやや軽めに考えていました。

 

しかし。

 

超〜〜難しい!!!

 

でも。

 

 

 

今までのRec.709やsRGBの「鉄板」の方法は、まるで通用しなくなりますが、その喪失分を補って余りある楽しさと美しさに満ちています。

 

1000nitsは「パワーバンド」がめっちゃ広いので、例えば、100nitsリミットで通用していたグロー系の技法は「仕切り直し」、今までの方法だと大雑把過ぎてすぐにコントロールを失います。どれだけ100nitsのリミッターに助けられていたかが、あり余る1000nitsを扱うようになると実感できます。

 

 

ピーキー。

 

そう‥‥まるで、100馬力の2スト400ccモトクロッサー(なんて実在しないし、乗ったこともないですが)のようです。「じゃじゃ馬」も「じゃじゃ馬」。ある一定の回転域からいきなりパワーが出るので、アクセルワークをぞんざいに扱おうものなら、すぐに前輪が浮いてしまう、在りし日の2ストハイパワーバイクのようです。

 

RMXに乗ってた頃を思い出すわ〜。(RMXは40馬力で250ccですけどネ)

 

 

しかし、そんなピーキーな色域のP3/PQ1000でも、12〜16bitの豊かな諧調があれば、簡単にはトーンジャンプなど発生しません。余裕があります。

 

上は伸びるところまでグングン伸びてさらにまだ上まで伸びて、一見狭く思える下の部分も実はタップリある。

 

今までのように255の白までおとなしく明るくなる特性ではないので、コントロールは難しいですが、使いこなし甲斐のある色域です。

 

美術、色彩設計、そしてコンポジット(旧撮影)と、色を扱うセクションは、少なからず戸惑うことでしょうが、ルーチンワークで腰掛けて惰性で作業するのでなければ、必ずや使いこなせるようになるでしょう。

 

実際、四六時中「最大の白」を表示しているわけじゃないですし、バイクや車もそうですが、どんなにハイパワーでも街中で180kmで暴走はしませんよネ。アクセルなどの操作が「ベタ踏み」から「デリケートな操作」に変わるだけでです。同じく、輝度や彩度の扱いを、HDR時代に合わせてデリケートに変えれば良いです。

 

いざという時、ここぞという時に、300〜1000nitsを使えるのは、相当、表現の幅が広がります。明るいシーンだけでなく、ふんわりと柔らかい質感も、今までの100nitsの濁った色彩から精彩な1000nitsに変わることで、自在に表現できるようになります。

 

 

PQ1000nitsは最初は戸惑うことも多いですが、バイクと同じように、跨って走らせてこそ、「体で理解」できる‥‥ということを実感しております。

 

バイクの免許をとって、50ccから250ccのハイパワーなオフローダーや400cc以上のロードバイクに乗り換えると、もう50ccには戻れなくなりますよネ。原付バイクの30kmの速度制限なんて冗談みたいな話ですし。

 

同じように、HDR PQ1000nitsのパワーを知ってしまうと、SDR 100nitsには戻れなくなるでしょう。たとえパワーは抑えて控えめでも、「底力の大きさ」「馬力の余裕」で「映像作りに幅が出て、融通が利く」ようにもなります。観る側も早々にHDRの輝度や色域に慣れるでしょう。

 

願わくば、300〜1000nitsのPCモニタが、近い未来に「個人のプロ」でも買える値段に下がってくれば良いですネ。ブラビアなどの民生テレビは、500nits前後まで出せる製品も今どきは増えているみたいですヨ。

 

 

 


ループの速度

私が本格的にコンピュータによるアニメ制作に関わり始めたのは、1996年の頃です。その当時、コンピュータの何が一番衝撃的だったかと言うと、フィードバックの速度です。いわゆる、PDCAサイクルやOODAループの回転の速さです。

 

1・エフェクトや画面効果をこんな風に描いて動かせば良いんじゃないかな?

2・そのアイデア通りに実際にPhotoshopやAfter Effectsで作った

3・パーセプション(当時の動画再生システム)でモニタに映して見た

4・良い部分もあったし、悪い部分もあったので、すぐに作業に反映しよう

 

→1に戻ってループ

 

こうしたループが、速い時には1日に2回可能でした。そんな「型破り」な映像経験のフィードバック速度は、フィルム時代は絶対にあり得ないことでした。フィルムでは不可能でも、After EffectsやPhotoshopで直にエフェクトを描いたり動かしたりすれば、数十分のレンダリングを経て、パーセプションに読み込んで、その場で「ラッシュフィルム」が見れたのです。‥‥恐るべきことで、「これなら、どんどん作業内容にフィードバックして技術を発達できる」と武者震いしたものです。「これで上手くいかないはずがない」と成功を沸々と確信していました。

 

表面上のAfter Effectsの機能よりも、そのフィードバック速度の速さこそが、コンピュータ活用の最大の武器だと思いました。

 

 

そして2018年の今。

 

同じことが4K HDRで再演されています。DaVinci Resolve Studioによって映し出されたPQ1000nitsのテスト画像&映像は、「毎日発見がある」と言っても言い過ぎではなく、乗り越えるハードルが飛び越えてはすぐに出現して目まぐるしいですが、猛烈にノウハウを蓄積している実感があります。

 

4Kでは何を描けば良いのか、HDRにはどのような色彩や映像効果が映えるのか、120fpsまで映像が補完された場合に、どんな動きが美しくかっこよいのか。スペックを読んで頭だけで考えるのはなく、過去のアニメの価値観で自分を束縛するのでもなく、実際に自分の目で見て、どんどんサイクルして更新できるのです。

 

20年前、アニメのフィルム撮影技術が素晴らしいのは解っていても、「もうそれではない」という実感に満たされていました。今、2K24pSDRを見て感じるのは、同じキモチです。

 

ほんとに、時代は繰り返すもんだ‥‥と思います。

 

 

今も昔も、黎明期や草分けの頃に必要なのは、「工房スタイル」です。「工場」ではなく。

 

現在「主流になってしまった」工場スタイルでは、セクショナリズムが強烈過ぎて、フィードバック速度なんて鈍足も甚だしいです。‥‥いや、鈍足ならまだ良いほうで、一向にフィードバックなんて反映されない現場も多いでしょう。

 

しかし、新しい技術に関しては、フィードバックなし、PDCA/OODAなしでは成立しません。問題を解決しつつ、新たな可能性を次々に実践して、表現内容に盛り込んでいくには、工場のような「生産ラインだけで繋がった」現場ではなく、各スタッフのノウハウが対流して融合し合う現場=工房的なスタイルが必須です。

 

アイデアがまた次のアイデアを呼び、初めての経験が新たな知識として蓄積され、最新の知識がさらなる新たな経験を呼び寄せる。‥‥1996〜2004年の頃はそんな時代でした。

 

あと1年半で2020年代ですネ。

 

4K 60p HDR 10bit‥‥という新たな時代のフォーマットが、否が応でも、新たな知識と経験の高速ループをアニメーション制作に与えてくれます。

 

 


SMPTE

私自身暫く耳にしていなかった「SMPTE」。エスエムピーティーイーとも、シンプティとも呼ばれるSMPTEは、最近「2084」、つまりPQ=パーセプチュアル・クオンタイゼーションの正式な規格「SMPTE ST 2084」として、まさに私ら制作技術集団の新しい取り組みにおける中心的存在として、頻繁に目と耳にするようになりました。

 

SMPTEは、アメリカの映画テレビ技術者協会の略字とのことで、IEEEなどと同じような「技術関係者の協会」です。SMPTEの詳しい内容はネットで調べるとして、SMPTEの規格は「それもSMPTEだったの?」と驚くほど普及しています。

 

その代表格がタイムコード。その他に「NTSC」「SDI」「MXF」「DPX」などもあります。

 

若い頃、SMPTEタイムコードには随分と憧れたものです。ラジカセやビデオデッキで何かを収録する時、素人だと「せーの」で再生と記録ボタンを手動で押しますが、SMPTEタイムコードで制御された機器だと「マスター」と「スレーブ」でシンクロして再生と記録ができたのです。

 

私はMIDIのシステムでタイムコードを初めて運用しました。当時の私(30年前‥‥)の機材は、MIDIシーケンサーがMC-50、QX-5が2台、そしてオープンリールのFOSTEX Model 80という構成で、Model 80をタイムコードのマスターにして、MIDIタイムコードで制御していました。

 

Model 80の8トラック目にMIDIタイムコードを記録し、オープンリールの動作に合わせてMIDIシーケンサーが追随する仕組みでした。‥‥今にして思うと、20歳そこそこの頃に既に「キャラ打ち」(=テープにタイムコードを打ち込む(記録する))をしてたのネ。(て言うか、今の人はQTのデータ運用しか知らないから、キャラ打ちは知らんか)

 

その数年後、私が24歳前後の頃には、今はもう倒産して無くなってしまった会社に、プリロール編集のビクターの業務用VHSデッキがあり、夜になると編集の真似事みたいなことをして、「カットつなぎの研究」をしていました。ほんの1〜2フレームの差でテンポやリズムや躍動感が変わってしまうことに驚くとともに、「これが本式のSMPTEタイムコードかあ‥‥プロ用機材って素晴らしい‥‥自分じゃ絶対買えないけどなあ‥‥」と機材とそのテクノロジーに感動しながら使っていました。

 

で、現在。

 

私ら技術制作グループが関わるSMPTEの直近のターゲットは「2084」。PQです。

 

しばらくソレばっかりやっていたので、かなり頭が慣れました。しかし、油断はしませんしできませんし、油断する気にもならないです。今までとは、ドカンと色彩の扱いが変わるので、それこそイメージボード・ショットボードの時点から、頭を切り替えなければなりません。

 

でも、ログとリニアの運用に慣れた実写の人なら、「ああ、もっと極端なヤツね」とすぐに順応するとは思われます。アニメはログもリニアもなく「リニア=見た目ひとすじ」ですから、PQを現場に導入するのはあまりにも今までとが勝手が違って、各方面で拒絶と混迷の阿鼻叫喚がこだますることでしょう。でもまあ、PQを扱わなければ、自分らで意図的で有意義な色彩をコントロールできないとなれば、慣れて覚えて使いこなすしかないです。

 

アニメ業界がHDRやPQの可否を決めるのではなく、HDRやPQなどの次世代映像フォーマットがアニメ業界の可否〜生死を決めるのです。アニメ業界を中心に世界の映像フォーマットが決まるわけじゃないですもんネ。今までだって映像フォーマットに準じてアニメを制作してきたのですから、これから先の未来映像フォーマットを中心にして「何を作るか」が問われるのは、今も昔も未来も同じです。

 

アメリカの放送技術者協会の規格が日本の規格‥‥というのは、まあ、少なくとも私が生きている間にとどまらず、今20代の人でも、同じでしょう。

 

 

ちなみに、私も「技術者協会」のような仕組みを作りたいと思っています。演出やアニメーターに限定した規模の小さい「寄り合い」のような集会ではなく、各方面の技術者で、出自の新旧問わず、これから未来の色々なアニメ制作の規格を明確に定めて、SMPTEやIEEEやISOのように、基礎をガッチリと固められたら良いなと考えています。

 

私ら制作技術集団では2005年頃から「atDB」、そして最近では新しい技術の基盤を成すために「ASTD」という規格を自主的に運用してきました。例えば、現在作業中の作品はASTD規格の4Kレイアウト用紙(のイメージファイル)を用いています。

 

日本のアニメの「表現の豊かさ」を鑑みるに、「自由に表現技術を拡張できた」がゆえの豊かさだと痛感します。

 

ですから、規格と言っても、あくまで基礎的な作業仕様や用語や取り扱いの範疇です。SMPTEのタイムコードやSDIやMXFが映像表現にクチを出さないのと同じく、アニメ制作技術者の標準規格も技術の仕様であって表現には関与しません。

 

レイアウト用紙やファイル命名規則に規格を制定したって、絵が極端に描けなくなるわけじゃあるまい?

 

むしろ、標準化・ユニーバサル化によって、ストレスは軽減され円滑に事が進むと思います。その標準規格の処理に必要な各言語のファンクション・ルーチンは協会員に公開されるわけですし、困った時は標準規格の「用語辞書」を検索すれば良いのです。

 

日本のアニメは表現をどんどん発展させる特徴を持つ一方で、内部の規格や決め事はグダグダに発展‥‥もとゐ悪化していく特徴も併せ持っています。複合組みとか付けPANの「業界標準の規定」なんて一切確立していないのに、あーだこーだ言っても始まらんのですよ。口約束、口頭伝達、成りゆきの作業習慣を、さも「決まり」のように語るほうが異常なのです。

 

「その決まりごとを規定して明文化しているドキュメントはどこにありますか?」‥‥と聞かれて答えられるのは、「動画&作画注意事項」だけでしょうが、例えばタイムシートの基礎1つとっても、その「作品ごとにコロコロ変わる注意事項」のどこにも明記されていないですよネ。

 

付けPANとFollow PANは違う、いや、同じだ。‥‥その根拠はどこで知ることができますか? 「先輩にそう教えられたから」なのだとしたら、とんでもない笑い草です。規格でも規定でもなんでもなく、ましてや標準と呼べるような状態とは程遠いです。

 

標準として規定された基礎を持たないなかで、いくら「どっちが正しい」かをツイッターで何百何千もツイートしても、時間の無駄以外の何ものでもなく、単なる暇つぶし・気晴らしです。‥‥実際、解決する気なんて毛頭なく、ただ単におしゃべりして盛り上がりたいだけなのは、端から見てればよくわかります。本当に解決したいのなら、ツイートに熱中するのではなく、規格草案をエクセルやワードで書くはずでしょう?

 

 

アニメ業界は多分に、SMPTEやIEEEやISOのお世話になっています。じゃあ、それら標準規格は自然とニョキニョキと生えてきたものでしょうか? ‥‥‥いや、違いますよネ。ちゃんと、人間たちが考え出して規定したものですよネ。

 

ですからアニメ制作者も、成りゆきに任せて誰かが発した言葉が自然と用語に定着するのを待つのではなく、自分らの明確な思考の制御によって、「運用のための規定」を規約すべきでしょう。いつまでたっても、学生の卒業制作気分じゃ、どうしようもないです。アニメのブラック問題って、実は自分たちのルーズな規定や規格が病巣だと思いませんか。

 

アニメ制作現場は、USBもDisplayPortもSMPTEタイムコードもSDIも使うわけです。アニメ制作はアニメ好きの人間たちが集まって「フワッ」としがちな現場ではありましょうが、「自分たちのSMPTE的なもの」を目指しても良い‥‥と思います。

 

 

 


iMac 5K。Mac mini。

PC・Macの性能は、長い間停滞気味で、モニタの性能は次世代映像に足踏みしている‥‥という現状を鑑みるに、私がパッと思いつく選択肢で誰にも判りやすい「現行機種」は「iMac 5K」くらいです。別にWindowsでも良いんですが、iMacに匹敵する知名度と性能をもつ「固有名」が思い浮かばないんですよね‥‥。

 

iMac 5Kのどこが「推薦できる」内容かを書き連ねると‥‥

 

  • 5Kの解像度を持つ
  • 5Kで60Hzのリフレッシュレート
  • コーデックを工夫すれば、コマ落ちなしで4K60pが再生可能
  • P3らしき色域(「Display P3」とAppleがのたまう‥‥)
  • i7で4コア8スレッドの処理性能
  • 64GBの実装メモリ
  • 外部に4K HDR/PQ 60Hz 10bitモニタを接続可能
  • さらに追加で2Kモニタも接続可能
  • 意外に高速なFusion Drive 2TB
  • 40GbpsのThunderbolt3
  • 実測で秒・2ギガバイトが出せる外部記憶装置の接続(高速な外部SSDはまだまだ高価ですけどね‥‥)

 

‥‥です。

 

上記スペックに近ければ、Windowsマシンでも何の問題もないでしょう。

 

ただ、Windowsマシンは何が厄介かというと、スペックをちゃんと読める人じゃないと、あまりにも選択肢が多過ぎて「必要なスペックを満たしていない製品」を買う危険性があることです。「安さに飛びついて、銭失いになりかねない」のです。

 

エプソンやDELLでiMac 5Kの最上位機種と同じ内容でBTOを組むと、結構いい値段がします。そこに普及価格帯の4K HDRモニタをプラスすれば、20万円台後半にはなりましょう。iMac 5Kの最上位機種と似たような値段になりますから、盲目的に昔の慣習で「WIndowsは安い」と思うのは、間違いの元です。Windowsマシンを買うにも、しっかりと腰を落ち着けてBTOで構成する必要があります。‥‥アニメの映像を作ろうと思うのなら、です。

 

 

なので、手っ取り早く、お金と性能のバランスが良いのは、iMac 5Kなんですよネ。特に、個人で買う場合は、面倒がないです。

 

ちなみに、私がここで書いていることは、自分の自宅や作業場での「実際の導入実績」に基づいています。スペックマニアが実物を知りもしないで予測で書いている‥‥わけではないです。

 

実際、私の自宅の初代iMac 5Kは、購入してからそろそろ4年が経過しますが、少なくともあと2年はイケそうな感じです。

 

職場のiMac 5Kは、EIZOのCG-319XをPQ1000nitsクリッピング・10bit・60Hzで接続し、さらに波形などを見るための2Kモニタも接続して、5Kと4Kと2Kの合計11Kのディスプレイにて、色彩設計の4K HDR作業環境として稼働を開始しました。「こんなに大量の画素数をつないでちゃんと動作するのだろうか」と半信半疑でしたが、ケロリと普通に動作しています。

 

 

そして、Mac miniの新型の噂。2018年の秋‥‥との噂ですネ。

 

iMac 5Kだと、ディスプレイ一体型で色々と融通が利かなくて‥‥という人でも、Mac miniの新型なら、低価格な4K60Hzのモニタを自由にチョイスして構成できますネ。数年後にさらに4K HDRの目視確認作業用モニタ(=普及価格帯では今はまだ良い製品がありません)を買い足せば、4K+4Kの8Kデュアルモニタでの作業環境も構築できましょう。新型Mac miniは幾ら何でも、今のショボすぎるグラフィック性能を刷新するでしょうからネ。

 

そこに、iPad ProやiOSが加わることで(まあ、Apple漬けですが)、個人のスタミナ次第で、他には何も必要とせずに「自主アニメ」「コミック」が作成できます。

 

旧来制作現場のアニメーターはさ‥‥、アニメをまるごとは作れないじゃん?

 

旧来技術の作画工程が生み出せるのは線画だけです。

*「デジタル作画」になってペイントを兼任するケースもありましょうが、作業クオリティや経験による障害回避がペイント工程のプロにどれだけ匹敵するのか、疑わしいです。実際、作画の人間の塗った荒くて雑なペイントを仕上げさんが尻拭いしたり、簡単なペイント(透過光マスクとか)だけやって面倒なのは仕上げさんに回す‥‥なんていう酷い事例も耳にします。

*ペイント工程を兼任するのなら、仕上げさんと全く同等の教程を実施し、ペイント工程に対する責任と品質管理が必要不可欠です。「デジタル作画だから動画だけでなく仕上げもやると稼げる」なんていう甘い考えは、少なくとも私は絶対NGだと思います。私はお金のでない自主開発では自分でペイントもしますが、制作費の出る商業作品ではペイントと色彩のプロに任せます。知識と経験が、専門職だと段違いですからネ。

 

でも、アニメーターが、iPad ProとiMac 5Kを手にしたら、線画だけを作り続ける「工場の工程の1役職」から解き放たれ、様々な可能性が現実のものとなります。「未来のアニメーター」が「旧来のアニメーター」と同じである必要は全くないです。むしろ、変わっていくべきでしょう。

 

旧来とは違う方法で手描きのアニメーションを作る方法は、旧来の現場では無理です。新しい技術が旧来の現場から生み出せないのは、まさに旧来現場の実情が証明しています。新しい技術を生み出せるのは、まずは自分の所有する映像制作環境です。そこから前例や実績を作って、ようやく次のステップに進めます。

 

 

iMac 5Kに加えて、秋にはビデオ性能とプロセッサを強化したMac miniが出るとの噂は、個人や仲間たちで何かを始めるきっかけにもなるでしょう。新しい何かで未来を切り拓こうとする人たちには、セレンディピティや共時性が味方してくれますよ。

 

私自身を振り返るに、4年前にiMac 5K、3年前にiPad Proが出ていなかったら、現在の開発プロジェクトにたどり着けなかったかも知れません。しかし、「時代性」をよくよく考えれば、iMac 5KもiPad Proも「出るべくして出て」、そして私が「ここぞとばかりに」飛びついたのです。‥‥共時性の為せる技に、まんまとハマったわけです。

 

まだまだ、コンピュータのお楽しみはこれからです。

 

それにしても、久々のMac miniの更新は楽しみ‥‥ですネ。

 

 


フィルムの凄さ

フィルムの真価は、4K HDRでようやく人々の目に届けられる‥‥のだと思います。Rec.709(SDR)のHDではフィルムの性能は著しく損ねられていた‥‥と言っても、言い過ぎではないでしょう。

 

フィルムカメラ時代に、ポジフィルムで撮影して、現像上がりのポジをライトボックスとルーペで見たことがある人は、映像業界にどれだけいるでしょうか。おそらく、35mmライカ判の一眼レフカメラが現役だったころに20代だった人は、本業はアニメやビデオでも、趣味でポジフィルムに馴染んでいた人もそこそこいると思います。

 

まあ、ライトボックスにもよりますが、35mmポジフィルムをルーペで覗いた時の鮮やかさは、印画紙のプリントとは大きく異なります。Rec.709やsRGBも「発光体」を見ている状況は同じでも、ポジフィルムを覗いた時に比べて、色の発色が大きく異なります。

 

 

しかし、フィルムカメラが市場の表舞台から姿を消し、キャリアの最初からデジタルデータのアニメやビデオカメラしか知らなければ、sRGBやRec.709が、光学画像の経験の全て、映像経験の全てにもなりましょう。

 

つまり、現在の若い世代〜中堅の世代は、狭い色域の世界しか知らない‥‥のです。全員ではないでしょうけど、大半は‥‥です。

 

特に、ここ20年近くのアニメ業界は、sRGBとRec.709しか知りません。若い人は状況的に、sRGBとRec.709、Adobe RGBだけが、映像や画像の全てだと、無意識にも思い込んでいるでしょう。

 

でも、世界はそんなに狭く、チョロくはないです。映像の世界は、まだまだ深いエリアがたくさん存在します。

 

世界が今や見捨てた‥‥と言っても過言ではないフィルムでも、実は、Rec709なんてショボくて失笑するくらいの、幅広いレンジを内包しています。

 

ぶっちゃけ、私も今までのデジタルデータでそこそこ十分だ‥‥と思っていました。しかし、HDRの色域で10bit以上の映像を見ると、今までのSDR時代のフィルムスキャンは「すべてスキャンし直し」が良いんじゃない?‥‥と心から思えます。

 

 

とある技術者の方が、「Rec.709はもはや映像のワーストケース(=最下位品質)」だと言っていたのを思い出しますが、それは、新時代の映像技術を誇張して喧伝するためではなく、実際のHDRの映像実物が雄弁に物語っているからこそです。Rec.709と2100を並べて比較した際の、その無残さと言ったら、まさに「筆舌に尽くし難い」ものがあります。

 

HDRの取り組みを本格的に始めて、フィルムの魅力はまだ死んでいない‥‥と強く思うようになりました。フィルム作品は4K HDR時代に「生まれ直す」のだと思います。

 

私は今後、フィルムを使うことはないと思いますが、フィルム時代の作品は敬愛して止みませんし、フィルム一眼レフカメラ時代の撮影経験は私の基礎の大きな部分を占めています。

 

フィルム時代の作品が、今後、4K HDRのコンテンツとして、フィルムスキャンからやり直して、どんどん発売されることを望んでいます。

 

 

アニメ業界もRec.709に縛られた狭い了見で色彩を扱うのではなく、新しいHDR時代の色彩感覚を意識し始めるべきです。Rec.709なんて、人間の知覚からすればホントにショボさ爆発なのです。単に旧時代の放送や機器の都合でレンジが定められたに過ぎません。

 

今の若い世代が、Rec.709しか知らないのは、実は、今後の発展における大問題・大障害なんだよね。

 

かと言って、2018年現在にフィルムを経験することは中々難しいです。35mmのポジフィルムと一眼レフカメラを購入して、現像してポジを覗いて‥‥なんて、今では、酔狂でしかないもんネ。

 

なので、一番てっとり早いのは、自宅や職場に4K HDRのテレビを入れてしまう‥‥ことです。HDRでPQにも対応し、500nits前後で10bitのスペックの映像体験環境を、安価に入手するのは、ソレしかあるまい。

 

‥‥で、ネット配信のHDRコンテンツや、UHDでHDRのブルーレイを見て、今までの暗く寝ぼけたRec.709から「自分の目を解き放つ」べし!‥‥です。120fps補完の実態にも目を背けずにしっかりと自分の目で確認しましょう。

 

「未来の現実」を自分の目で見定めるのです。逃避するのではなく、です。

 

頭の中で、いくら300nitsだ1000nitsだ、HDR10だHLGだ、PQだと、「文字」だけで考えても、自分のナマの目で見なきゃ本当のところは判りませんヨ。

 

 


数値がわからなくなったらアレクサに聞こう

今から20年前以上の昔。各色8bitのRGBで自由にセルの色が決められる「デジタルアニメーション」は、「なんと、セルの色数が1670万色も使える!」とも言われて、当時のアニメカラー(=セルを塗る塗料)の200〜300色の制限とは比べものにならないと思われたものです。

 

でもまあ実際は、アニメカラー時代も、フィルム銘柄の特性によって色に変化は生じましたし、パラやフォギーフィルタなどの撮影処理を加味することで実際のアニメカラーの色数よりも遥かに複雑な色数を実現していましたから、アニメカラーとRGB各色8bitの色数を比較すること自体がナンセンスではありました。「色数が多い」というよりは、「アニメカラーの色数ではなく、自由に「調色」して色を決められるようになった」というべきでしょう。

 

その「いかにも十分過ぎると思えた1670万色」も、今では「ワーストケース」というべき「最低限のスペック」扱いです。実際、1670万色=1670万諧調と言っても、明るさが半分の薄暗い赤色照明のシーンでは、128諧調以下になってしまい、トーンジャンプの危険性と隣り合わせです。どんなシチュエーションでも1670万諧調があるわけでなく、最大1670万‥‥というだけです。

 

RGB各色8bitで全ての色を使った場合(現実的にはあまりないですが)

 

R:0-255

G:0-255

B:0-255

256x256x256=16,777,216

 

薄暗い赤い照明(=赤のモノトーンで半分の明るさ)の場合

 

R:0-127

G:0-0

B:0-0

128x1x1=128

 

総天然色で色鮮やかで明るい部分も暗い部分も同じ画面に収まっているような絵ですと、1670万諧調を発揮できますが、トンネルの中で水銀灯だけが照らし出すようなシーンですと、薄暗いオレンジのモノトーンに多少の色が垣間見える程度になり、色数はぐっと減ります。

 

ゆえに、擬似的な多色処理、そして10bit以上の諧調が必要になってきます。

 

10bitは単色で1024諧調、12bitはその4倍で4096諧調になります。8bitの256諧調より、数値がどんと増えます。

 

しかし、暗算では中々パっと数値が出て来ません‥‥というか、それは256諧調でも同じですが、8bit=256に関しては長年の作業経験で暗記していますが、10、12、そして16bitになると、暗記だけではおぼつきません。

 

16bitの諧調は6万5千‥‥‥なんだったっけ?

 

そんな時はアレクサさん

 

 

「アレクサ。2の16乗は?」

 

6万5千5百36、です。

 

「アレクサ。65536の3乗は?」

 

281兆4749億7671万6百56、です。

 

 

‥‥まあ、281兆の下りは、アレクサさんがどんどん読み上げても、1回で聴き取って覚えきれる数値ではないですが、281兆であることはわかりますネ。

 

同じく、「1024の3乗は?」とか、「4096の3乗は?」と聞けば、それぞれ「10億‥‥‥」「687億‥‥‥」と答えてくれます。聞き取るのが面倒なので、末尾は割愛しますが。

 

アレクサさんはコンピュータですもんネ。このような単純‥‥だけれど数値が巨大な計算はすんなり計算しますし、電卓プログラムにありがちな「2.8147498e+14」なんていう表記ではなく、末尾1桁まで読み上げてくれます。

 

10bitRGBの諧調は10億色、1bit増えて11bitだと85億色、さらに1bit増えて12bitだと687億色‥‥と、アレクサさんに聞けばすぐに答えてくれるので、やがて、10bitや12bitの色数を、8bit=1670万‥‥の時と同じように暗記するようになります。

 

 

 

256で色を考えるのは、基礎としては今でも有効です。会話の中で256で呼び表して容易にイメージするのは、たとえ10bit運用になった時でも「伝わりやすくて」良いと思います。

 

しかし一方で、256では済まない状況も、ボチボチ周辺に出始めています。After Effectsでは256のドラフト表示のままですが、データとしては10〜16bitを扱うのが主流になりますので、時には1024〜65536=10〜16ビットの諧調で話すことも必要になります。

 

でも、数値はどんどん大きく細かくなります。‥‥なので私はよく、アレクサさんに聞いて、数値を計算してもらいます。

 

‥‥とはいえ、こんな聞き方だとダメみたいです。

 

 

アレクサ。16ビットの数は?

 

「すみません。わかりませんでした。」

 

 

わからないんだったら、仕方ない。

 

あくまで、質問する側が、1bit=2値ということを踏まえて、「2の16乗は?」と聞かなければ、いまんとこ、ダメっぽいです。

 

加えて、アレクサは「京」の桁の末尾まで細かくズンズン読み上げる「人間に優しくない」部分もありますから、すぐに大まかな数値を知りたい時に、アレクサにサクっと聞く程度が良いです。

 

丸いディスプレイをもつ「Echo Spot」も登場して、充実するアレクサさんのラインアップ。

 

 

 


2K24pSDR8bitと4K60pHDR10bit

現在、作業場のほぼ全ての装備を4K HDR 60p仕様に改変して、あと1つ2つの発注済みの物品が到着すれば、いよいよ名実ともに「未来の環境」が完成することになります。‥‥とは言え、技術は「イタチごっこ」ゆえに、これで環境構築が終了したわけでなく、今後も順次、作品ごとに強化していくことになりましょう。

 

そうした中、頭で考えているだけではわからなかったことが、しみじみと肌身で、実感としてわかるようになってきました。アニメ制作現場の未来は、新旧の2派に分類されるだろう‥‥ということを、ハードやソフトが暗示するのです。似たようなことは以前にも「予想の範疇」で書いてきましたが、目の前のハードやソフトの振る舞いを日頃から見るにつけ、「詰み将棋」のように「未来がの成り行き」が具体的に見えてきます。

 

技術、装備、そして慣習を古いままで更新できない集団=「新旧の、旧の現場」は、おそらく、未来も古いままで続けるしかなく、未来技術のエッセンスを取り入れるような「部分的な現代化」すらままならないだろうと思われます。紙の作画を「デジタル作画」に更新した段階で進化は終了し、未来社会への対応は、ポスプロのアップコンに頼り切ることになるでしょう。要するに、旧来のアニメ技術は進化が終了し、老化をできるだけ食い止めるために、新時代の映像技術を「介護技術」として用いる‥‥という未来です。

 

絵を1枚ずつ描いて動かす方式で、2K24pSDR8bit。‥‥これが旧来の技術を主体とする現場の最終形態です。

 

2K

24p

SDR

8bit

 

‥‥あらたに「8bit」というキーワードが付随しましたが、実は8bit問題は相当根深いです。After EffectsもQuickTimeも内部では10bit以上を扱えますが、表面に映し出される映像は、実は8bitです。どんなに16bitモードに変更しても、12bit素材を読み込んでも、10bitモニタを買って設置しても、After EffectsやQuickTime Playerでは8bit表示です。システムスタッフが改めて検証してくれたおかげで、私も再認識できました。

 

ですから、撮影作業などで10bitの高価なモニタを使っていても、実はほとんど役にたっていません。ムービーファイルのデータ構造もグラフィックカードもケーブルもモニタも10bitの条件を満たしていても、出力するソフトウェアのGUIが8bitなら全く意味がなく、安価な8bitモニタで十分なのです。

 

一方、新しい技術の当面のターゲットは‥‥

 

4K

60p

HDR

10bit

 

‥‥です。12bitを表示できるモニタは恐ろしく高価なので、10bitが現実的ですが、内部的には16bitの運用(これはAfter Effectsの都合でもありますが)を進めることになりましょう。

 

iMac ProやCG-319Xは10bitです。iMac ProはいまのところPQカーブに対応していませんから、HDRでPQを運用するのなら、CG-319Xなどの相応の設備が必要になります。モニタに限らず、様々な機材改変や技術改革が必要になるのは、今まで散々書いてきたことなので、繰り返しません。

 

 

「4K60pHDR10bit」の現場に環境を移行するのは、相当にハードルが高く、ゆえに「無理だから、昔のままでいく」会社は続出すると予測されます。もちろん、昔のままの体制で作り続けるので、出来上がる映像も昔のまま、作業者の報酬も昔のまま‥‥です。ポスプロでHDRグレーディングしても、映像の「アイデアの源が2K24pHDR8bit意識のまま」なのですから、後付けの映像処理にも限界はあります。

 

現段階では「60p」は置いとくとしても、「4K24pHDR10bit」に対応できる会社は、相当体力が必要ですし、出資者の増援も必須となりましょう。

 

私だけなく、現場の映像表現に関わるスタッフ、機材を多種取り扱うシステムスタッフ、皆が、「これ(=未来)って、大変なことになりますね」と、ことあるごとに話します。

 

でも、ふと冷静になって考えれば、未来が大変なのって、今に始まったことじゃないです。いつだって、そうだったんですよネ。未来を生き抜くことはいつだって、大変なのです。

 

過去の技術から転換できずに歴史に埋もれていく人々、頭角を表す人々など、様々な世代交代劇が繰り返されてきただけです。

 

ですから、今回の四半世紀規模の映像技術転換〜アニメ制作技術転換は、「あるべき姿〜必要な世代交代」と思えます。

 

表面上の「可愛いキャラ」はともかく、今のアニメ技術はどんどん老朽化しています。「萌えキャラのラッキースケベ」をファンに提供するばかりで、どれだけアニメ業界の技術や体制は維持できるでしょうか。

 

もし、老いたままで良い‥‥というのなら、「要介護」の準備を整えておくべきです。一方、技術世代を交代して転換を図るのなら、「デジタル作画にすれば安心」と考えるのはあまりにも浅はかです。

 

もし現代社会とともに歩みたいのなら、今はすぐに全部は無理でも、「4K60pHDR10bit」をそろそろ意識して、着手できそうな部分から行動開始すべき時期‥‥ですヨ。

 

 



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