負の相関

アニメ作画の機材やソフトウェアは、アニメ作画の報酬・単価が低いがゆえに、高額な設備は導入できない‥‥とは、前々回書きました。もしソフトウェアを導入しようとしても、できるだけ安く済ませたいのは、巡り巡って、アニメ業界の作画単価が低いがゆえです。

 

前々々回は、アニメ業界がソフトウェアや機材にお金を払おうとしないので、日本のアニメ業界に最適なアニメ作画ソフトウェアは、開発する機運が生じない‥‥とも書きました。アニメ業界のスタッフが霞を食って生きているわけではないのと同じく、ソフトウェア開発会社の人々だって、できるだけ安く、しかもサポートは永年‥‥なんて言われたら、霞を食う前に逃げ出しますよネ。

 

なんという負の関連性。

 

しかし、もう1つ重要な負の要素を忘れてはなりません。

 

「デジタル作画」は、紙作画と同じ内容の結果物なので、価値が同じで、優位性がない‥‥という点です。

 

ハイコスト・ローリターンの原因を、別の面から考えてみましょう。

 

従来の紙の作画と同じ、A4用紙150dpi前後で二値化で、絵も紙と変わらない内容で‥‥という結果物に、「コンピュータを使って描いてますから」という理由だけで、高額で取引されるわけがないのです。

 

つまり、ハイコストの環境を揃えておきながら、ローリターン時代と同レベルの結果物しか作れなければ、ローリターンと同じ価格で取引きされても、致し方ないのです。

 

1・アニメ業界の旧態依然とした安い作画単価

2・作業環境にお金を捻出できない

3・デジタル作画の表現技術面の優位性がない

 

この3つが絡んで、「最強(最悪?)の負の相関関係」が形成されています。

 

アニメ業界の旧態依然を払拭する結果が作れない‥‥ので、また1に戻ってループです。

 

ゆえに、現場は「改善せねば」と思いつつも、身動きが取れないままです。

 

一度でも、現場を変えようと思ってアクションした人なら、痛感しているはずです。この「呪い」にも似た、負の渦巻から、どうやっても脱出できない‥‥と。

 

 

 

思うに、渦の中で体制を立て直そうとしても、無理です。

 

渦から一旦外に退避して、考え方自体を変えて、体制の立て直しではなく、新たな構築を目指す必要があります。

 

例えば、キャラを手描きで描くのは良いです。しかし、煙の全てまで1枚1枚作画する必要はありますか? カットアウトを習得して動かせばいいじゃないですか。

 

2008年には下図のような煙の動きは、カットアウト技術でアニメーターが一人で描いて動かせるまでには、After Effectsは進化していました。原画・動画・ペイントの煙のセル枚数が、たとえ300枚分あろうと、一人で、です。

 

 

アニメーターがパーティクルを使いこなすことも必要です。アニメの動きに関わることを、撮影スタッフに丸投げして、ラッシュチェック時にあれこれ言う前に、アニメの動きの一環としてアニメーター自身が制御すれば良いのです。下図の炎は、作画の技術を応用してAfter Effectsの簡易なパーティクル(Perticle Systems II)で作ったものです。

 

 

煙と炎を組み合わせれば、下図のような粉塵爆発のような表現も可能です。これを普通に作画した際の、特に動画にかかる大きな負担は、エフェクト作監をしていたので、よく知っています。

 

 

まず、ディテールが複雑で作画ミス(割りミスとも)を頻発しやすく、1枚を描く時間もかかり、色の塗り分けミス(ペイントのミスに繋がります)も呼び寄せ、たとえ単価に色付けして貰えても焼石に水で、お金も稼げません。

 

しかし、カットアウトなら、原動仕相当の作業を1人で可能です。しかも、タイミングにメリハリをつけたり、わざと抑揚を減らしたり、飛び散る破片を追加したりなどの表現の操作が、アニメーターの絵と動きの能力によって制御できます。

 

カットアウトは今では当然の成り行きとして、キャラの動きのほうにさらに発展していますし、ToonBoom Harmonyは相当エグいキャラの動きまでカットアウトで実現している事例があります。

 

作画じゃなければ3DCG‥‥という単純な発想を止めることも大切です。簡単に自分たちの大切な表現領域を「作画が大変だから」という理由でどんどん明け渡して良いのでしょうか?

 

3DCGの方がかっこいい!‥‥というのなら良いのです。しかし、作画が大変だから‥‥なんて言い出したら、そのうち、キャラから何から全て「大変だから3D」なんて言い出しますよ。

 

3DCGに頼る一方で、3Dのカメラワークは相変わらず導入できないままです。XYZの3D空間を活用したカメラワークは、欧米のToonBoom Harmonyでは当たり前の機能です。もちろん、After Effectsにおいても、2000年代から可能な技術です。

 

 

上図左枠のBOOKの時間的位置変化を「密着引き」と言い続ける、思考の古さを更新しないまま、「デジタル作画」で紙の作業をなぞるばかりでは、技術的進歩は「タブレットを使うようになっただけ」で終了してしまいます。

 

さて‥‥、カットアウトもパーティクルもZ軸制御も、従来のタイムシートにはどのように記述するでしょうか。‥‥タイムシートの書式自体が、もはや新しい技術導入に対応できないことがわかります。レイヤー数だけで考えても、ABCDEFGセルまで列があろうと、全然足りません。私がタイムシートの「再現」に消極的なのは、フィルム時代の代用技術の呪縛から逃れたいためです。

 

タイムシートも抜け出せない負の渦巻の中にあって、旧式のタイムシートを無理やり使おうとする時点で、再度、渦に引きずり込まれます。

 

 

 

作画の経験や知識は、今までのアニメ用語に限定されるものではなく、絵を描く能力そのものに活きるものです。

 

たとえ、ABCDEセルがなくなって、head、hair、eyes、upperlip、lowerlipと名前を変えようと、作画は作画のままです。

 

画力は、技術スタイルが変わっても生き続けて、有効なままです。

 

絵を描く能力が、時代を超えて生き続けることは、歴史上の日本画や西洋画が証明しています。たかだか100年にも満たない日本のアニメの作画技術を、早々にレトロな伝統に封じ込めてレガシーな存在に変える必要がありましょうか。

 

進化し続けて然るべし。‥‥でしょう。

 

 

 

「デジタル作画」は紙作画を踏襲する一方で、新しい作画的要素の技術開発を進めて、従来のアニメ作画技術との差別化の足場を作りましょう。「紙作画の代用品」のままの技術レベルから抜け出ることで、紙作画と料金も差別化できます。「今まではできないことが、できるようになった」ものに価値が生まれます。価値はお金に直結します。

 

アニメ作画限定の知識から、映像分野全般の知識へと広げることで、ソフトウェアや機材の知識も広がり、「アニメ限定の狭い視点」から脱出できます。他人事だったソフトウェア開発も、自分のリアルとして感じられるようになり、コストに関する考え方も変わってきましょう。

 

紙や絵具やフィルム時代のスタイルを継承する作品はあっても良いです。しかし、それだけ‥‥では発展しません。技術だけでなく、お金も境遇も色々なものが、模倣を続けている限り、代用品扱いに甘んじる限り、停滞します。

 

負の相関関係から抜け出すには、新たな価値を創出することです。

 

「デジタル作画」をきっかけとして、映像制作と絵画全般を見据えましょう。アニメ業界だけでなく、様々な映像と絵の産業や収益を意識しましょう。

 

 

 

実際、アニメ制作会社だって、今までのスキームのままでは未来はキビしいですよネ。

 

ハイコスト・ローリターンからの脱出は、個人から団体組織に至るまで、今後直面するハードルです。

 

ハイコスト‥‥なら、せめて、ハイリターンにしたい‥‥ですよネ。

 

 

 

 



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