描線のグローバル化と均質化

直近10年間、2010年代のアニメが、各社皆、同じトレス線に統一されているのは、「アニメ業界が望んだ総意」なんでしょうかね?

 

どの会社もレタスの二値化に対応するために、動画の清書の描き方がどんどん変わって、現在に至ります。レタスの二値化に対応しないと、いざという時の作業力の融通が効かず孤立するので、「レタス線こそ主流」という雰囲気が出来上がって久しいです。2000年代前半にはまだ存在した階調トレスは今や全滅したと言っても過言ではないです。

 

で、それは総意? 望んで得た結果?

 

アニメの描線にニュアンスの差なんて不要‥‥だと、皆、思っているのかな。

 

 

 

フィルム時代。トレスマシン時代。

 

矢吹丈くんと、のび太くんの、主線・トレス線・描線は、明らかに違いましたよネ。素人さんだって見分けがつくほどの個性を発揮していました。

 

会社によっても個性があり、同じ会社でも作品(制作班)によって個性があり、実は監督によっても個性があったり。

 

「ベルサイユのばら」(かなり昔の作品ですが)では、作品制作中の長浜忠夫監督の死去により、途中から出崎統監督にバトンタッチして、ガラリと作品の雰囲気が変わりました。雰囲気の大変化は、描線・トレス線の変化も大きな理由の1つですが、出崎統監督のオーダーに荒木伸吾作画監督が応えた結果‥‥と、その当時のインサイダーの方から聞いたことがあります。内情を知らない人は「杉野さんの絵」と勘違いするのですが、アニメーターがトレス線レベルから変えていたわけです。

*昔から荒木伸吾さんのファンだった私は、ますます尊敬してファンになるのでした。

 

トレス線で作品を語る

描線で作品を体現する

 

かつてのこうした意識は、今はもうありません。

 

2010年代を経て2020年の今、もうアニメ制作現場の皆さんは、トレス線には興味がなくなってしまったんでしょうか。

 

描線なんてどうでもいいよ。業界の作業力をフラット化して大量生産できることが何よりも先決だ。

 

‥‥ということで落ち着いたのでしょうか。その路線を今後も踏襲し続けるのでしょうか。

 

皆がそう思っているのなら、まあ、仕方ないんですが、‥‥本当に興味なくなったの?

 

 

 

二値化を悪者にする人がいますが、そうじゃないです。

 

二値化対応が、いつしか描線の無個性化に繋がっていった経緯に問題があるのです。

 

とは言え、二値化がトレス線の表情を出しにくいのは事実ではあります。同じ線の太さでも、その線が「ベタ1色100%」か「濃淡を含むか」の差で、線のニュアンスは大きく変わります。

 

階調トレス=線に濃淡があると、同じ線の太さでも線が細く見えて繊細になります。

 

2007年のスカイクロラでは、アニモの階調トレスとレタスの二値化トレスを混在させて作りましたが(生産力確保ゆえに)、制作事情を知っていると、「このカットはアニモ。このカットはレタス。」と見分けがつき過ぎてドキドキします。ちなみに、撮影処理・VFX効果は全く同じでも、レタスの線は太く膨張して濃い感じになります。

 

だったら、撮影処理でトレス線のニュアンスを足してだな。

 

‥‥という流れが生まれたのは、かつてのトレス線の存在意義を知る人たちが、現状を打開しようとアプローチしたがゆえです。

 

撮影処理ではなくても、例えばToonBoom Harmonyでは線にテクスチャを貼ることが可能です。テクスチャ付きベクタートレスという選択肢もあります。

 

 

 

しかし、描き手が生み出したニュアンスとは異質なんですよネ。

 

描き手が濃淡や太さの強弱を駆使して描く時、その強弱には意味があるんですよ。一種の「アニミズム」のような感覚があります。

 

そして、その難しい「アニミズムのごとき、描線の強弱をコントロール」するのが、技量の優劣でもあります。描線を自由にコントロールできるようになると、絵を描く喜び・快感が一気に高まり、それが絵の魅力となって受け取る側にもダイレクトに繋がるのです。

 

矢吹丈くんを現在標準のレタス線で描いて塗っても、当時の「絵の熱さ」は画面に表現できないですよネ。今はトレス線の均質化ゆえに難しいのです。

 

 

 

AIによる自動化・無人化の流れを嫌悪するわりに、人間が無機質な作業をおこなっているのなら、考えていることとやっていることが正反対なのです。

 

ご高説は耳にタコができた。理想より現実。量産できなければ意味がない。

 

‥‥という人もおりましょう。たしかに生産力が低すぎるのは問題があります。

 

しかし一方で、作業品質の均質化が買い叩かれを誘発していることも考えねばなりません。皆で同じレベルの作業品質に甘んじておきながら、買い叩かれるのはイヤだ‥‥なんて、「競争原理」という言葉を少しは思い出してみるべきです。

 

理想より現実‥‥と言うのなら、では、今の現実に満足してるんですか?

 

 

 

原因の根本は、アニメーターです。アニメーターがなすがままに流されて、自分たちの描く線が変わっていくことに、無頓着過ぎたのです。

 

描線を直に扱う人間が、無批判になりゆきの状況を受け入れて、むしろ無機質化の後押しまでして、結果、まるでアニメ業界が国営化された1つの会社みたいにフラット化しても、当然の結果でしょう。それを受け入れたんだから、なるようになった‥‥わけです。

 

2020年代も、今までと同じく、なりゆきにまかせ続けますか?

 

どこかで、「なりゆきに流される流れ」に歯止めをかけませんか?

 

描線の多彩な表現力を取り戻しましょう。アニメーターが主導して。

 

アニメーターも開発に関わるべきなのです。新時代・新世代の、技術開発に対して、積極的に。

 

4K時代になれば、描線のニュアンスはより克明に映し出されます。

 

二値化によるインクのように均一なトレス線は、それはそれで良いのです。「それしかない」ことが行き止まりなのです。

 

行き止まっている状況を乗り越えたり迂回するには、新たな方法・道筋が必要です。

 

自分たちではソフトのことはわからない。誰か面倒見て。

 

‥‥なんて言い続けているから、流れに流され続けるのです。

 

まさに描線と毎日向き合って、嫌というほど知り尽くしている人間が、絵の道具たるソフトウェアの使い方を「絵のプロではないアドバイザー」に頼ってどうすんの?

 

ペンタブによる新しい作画の時代は、作画する当人=アニメーターが開発にも取り組み、自分たちで切り開くのです。初期はソフトウェアのアドバイザーに頼ることもあるでしょうが、やがて自分たちで独り立ちすることが必要です。

 

でなければ、トレス線の「肝心な部分」はいつまでも「他人の手の中」です。いや‥‥、トレス線だけでなく、アニメの作画技術まで、他人が窓口で他人経由です。

 

 

 

 

まずはアニメーター=線画を直に描く人間が、まさに直にペンタブで線画のニュアンスに触れないと、話が始まりません。紙で描き続けても、一向に事態は進展しません。

 

CintiqやiPad Pro 12.9と、自分の好きなドローAppで絵を描くところから始めましょう。

 

以下は、このブログで徒然に描いてきた絵です。Procreateの描線が、面白いように自在にコントロールできるので、自分の好きな画題で描いてます。

 

 

 

誰かがiPadとAppleのアカウントとAppを用意してくれるまで待って、しかも「使い方教えて」と言うのなら、もう見込みはないです。

 

自分で動き出さない限り、トレス線はおろか、アニメ制作の未来も危ういです。

 

 

 

2010年以降にアニメ業界入りした人は、「アニメの線はレタス線」と思い込んで疑問も持たないかも知れませんが、かつては作品ごとにトレス線の表現が多彩で、コンピュータが導入されても階調トレスの表情豊かな描線が存在しました。レタス線も、レタス線ならではの特徴を活かした作風を考えたものです。

 

しかしいつしか乱造濫作の津波に巻き込まれて、トレス線の表現力は失われました。2010年代とはそういう時代です。

 

失ったものは簡単ではないにせよ取り戻せます。「再興」という言葉があるように。

 

無関心、無頓着、他人事で済ますことをやめれば、道筋は見えてくるものです。

 

 

 

ちなみに、アニメーターがトレス線の表現力を広げて、アニメ制作に導入しようとする時は、いつもペアで色彩設計さんと行動を共にしてください。

 

描いても塗れないんじゃ意味がないです。

 

ギターだけあっても蝉の鳴くような音しかでません。アンプだけあってもギターが繋がっていなければ音はでません。ギターとアンプはペアなのです。同じように、線と塗りはペアです。

 

ギターパートの音はギターとアンプで決まるように、キャラ部分の絵は線と色で決まりますよネ。

 

 

 

でもまずは、線画を描く張本人がアイデアを貯めることです。それが出発点。

 

4Kの映像キャンバスには、トレス線を表現できる豊かなスペックがあります。1.5Kとはわけが違います。アイデアを受け止める許容があります。

 

先回りして「じゃあ、その細かいトレス線をいくらで描かせるつもりなんだよ」と農奴根性を発揮させる人もいましょう。すでに雇われ根性満載の人。‥‥違うんですよ。こちら側から商売を仕掛けるんです。戦う‥‥とは、200円の単価を210円にすることじゃないでしょ。

 

 

 

アニメーターが今後、自ら行動するか。否か。

 

2020年代で道が分かれるように思います。

 

 

 

 


関連する記事

calendar

S M T W T F S
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
<< January 2020 >>

selected entries

categories

archives

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM