遥かなティペラリー

イマジナリーラインの話題を、業界関係者のツイートで見かけました。私は、フリーランスのアニメーター時代に、制作会社のフリーランススペースで、様々な年長のかたと一緒に作業して、時には作品分析や演出論や作画論を時間も忘れて話したがゆえに、イマジナリーラインはもはや「習慣」になるほど体に叩き込まれております。ゆえに、コミック(特に日本の)の見開きドーンの絵がイマジナリーラインを無視した絵になっているのが(紙面の都合を優先しているのかな?)、どうも苦手になってしまいました。

 

カメラはぶっちゃけ、どうとでも設置できるので、例えば、テニスの試合の両選手を、必ず右向きで捉えることは可能です。しかし、それだと、どっちの選手がどっちに向かってボールを打っているのかわからなくなり、まるでダブルスの選手2人に見えます。

 

いわゆる観客の視点‥‥というヤツです。イマジナリーラインを超えないようにするのは、自然の法則でもなんでもなくて、映画を観ている観客に内容を理解してもらうための、「映画の文法」です。

 

なので、故意にイマジナリーラインを何度も超えて、「道に迷った」「方向を見失った」「混乱している」という効果を出すことも可能です。

 

文法は、文章を作るため、会話するためにある‥‥ので、使いようですネ。

 

イマジナリーラインを始めとした映画の文法は、若い頃に意識して覚えておきましょうネ。

 

 

 

私はこうした映画に関すること、作画に関することを、学校ではなく、現場で学びました。現場の年長の方々は、個性的な人が多かったですが(=アンタが言うか)、知識も豊富であり、若かった私は多大な学びの時間を得ました。

 

最近、ふと「Uボート」というドイツの映画を思い出して、まるであの頃(私の20代にフリーランス部屋で作画していた頃)は、Uボートのような生活だったと懐かしく思い起こしました。

 

 

 

かなりキツイ日々を送っていました。お金が稼げない貧困による、生活の崩壊。

 

前にも書きましたが、あまりにも稼げなくて当時住んでいたアパートのライフラインの一切が停止することが、何回もありました。

 

食事中の人には申し訳ないですが、水が止まるとウンコも流せなくなりますからネ。でも、どんなに屈辱的で惨めな生活を送っていても、人はウンコをして「生きてる」ことを実感します。

 

スチールラックをまるで2段ベットのようにして寝ていたこともありました。そういうことを話すと、今の若い人にはドン引かれるのですが、「寝れるだけマシ」とも当時は思っていました。寝てすぐだと、スチール棚が冷たいのですが、しばらくすると体温と熱交換されて、温まるのです‥‥とか、今だと悲惨な話ですよネ。

 

実際、当時寝ていたスチールラックを「Uボート」とか「潜水艦」と呼んでいた記憶があります。

 

そうしたことを、自分の過去としては、いろいろな意味で、今は懐かしく思えるのです。

 

もちろん、今の時代に、そんなことはやりませんし、真似なんて若い人にはさせません。あくまで、30年前の私の20代の思い出です。

 

Uボートって、艦内の環境が劣悪過ぎますよネ。しかし、Uボートの男たちを、悲惨な奴隷労働のようには描いていません。自分たちの任務が過酷な上に、稼ぎも良いわけでもないけれど、艦乗りの気概に溢れていて、自分の持ち場にベストを尽くします。そんなところが、私の20代の頃の現場とちょっと似ているのです。

 

ちなみに、今でもベストを尽くすのは変わりないですが、昔と大違いで、環境は良いです。

 

 

 

映画Uボートの中で好きなシーンはいくつもあるのですが、敵であるイギリスの歌「遥かなティペラリー」をドイツ海軍乗組員皆で合唱するところは、かっこよくて痛快でスキです。

 

 

 

この歌詞を読んで、今更ながらに合点がいきました。

 

当時の私は、かっこいい車に乗って彼女と休日にドライブするわけでもなかったし、都心の洒落たお店で美味しいディナーを食べるわけでもなかったですが、毎日「自分の好きなことを職業にして」いることは実感していました。

 

世の中の同世代の若者は、おそらく、もっと楽しい休日を謳歌し、ワクワクドキドキな男女交際をしてるんだろう。スキーも海水浴もクリスマスもいろいろお楽しみだらけ。

 

一方、アニメ関連は「オタク」とか言われて、正直、蔑視されていたような時期もありましたよネ。

 

さよなら、お洒落な夕食。さらば、かっこよくてハイセンスな男女交際。

 

遥かな彼方よ。イッツ・ア・ロングウェイ。

 

自分が作りたいと思うアニメ作品への道のりはひどく長い。けれど心はいつもそこに。‥‥歌詞を一部変えると、まるで当時のキモチそのままです。

 

クソ地獄のような中にいて、なぜアニメを作り続けるのか。若い頃には、悩みに悩み抜いた時期がありましたが、今もこうしてアニメを作っています。

 

そして、Uボートのラストシーン。

 

まさにアニメ業界のアニメ現場の顛末を物語っているようにすら、思えます。

 

 

 

美化しようとは微塵も思いません。

 

スチールラックで寝たり、椅子を並べて寝るなんて、2019年の今はすべきではないです。

 

若い人間の「アニメへの憧れ」を搾取するような状況を正当化しようとも思いません。

 

 

 

しかし、私は、私が体験したあの頃が懐かしいです。今の若い人には絶対に同じ思いはさせたくないけど、自分の思い出として懐かしいです。

 

遥かなティペラリー。心はいつもそこに。

 

 


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