クリエイティブの自我

アニメ制作は、一見、大量生産の製造業のようにも思えて、実際に他業種の製造業のノウハウ・マネージメントを応用できる場面も多いです。

 

しかし、製造業とは全く違う性質があり、その部分を見落とすと、やがて内部崩壊・内部分裂が始まり、ゆえに制作集団は解散と再編を繰り返します。

 

全く違う性質とは、

 

製造と創作の差

 

です。

 

アニメ制作においては、例えば、

 

カット1を300カット大量生産

 

‥‥なんてことはありません。製造業とは全く異なる性質です。アニメ制作は同一内容のカットを何百カットも生産なんてしませんし、製造業においては作り出す製品が1つ1つ全て異なる仕様‥‥なんてないですよネ。

 

アニメ映像制作の根本は製造業とは違うのです。応用できることはあっても、完全一致はしません。

 

この根本的な違いをわきまえずに、製造業のノウハウを導入して組織を立ち上げても、最初の4〜5年までしか通用しなくなります。どんなに環境がホワイトでも、大量生産の現場ポリシーに対して、クリエイティブ担当のスタッフたちが疑問を感じ始めます。

 

そもそも全カットの内容が違う制作状況に、製造業の全てを応用できるわけがない。‥‥と気づくわけです。

 

つまり、5年くらいで、

 

スタッフの心の中で、クリエイティブの自我が目覚め始める

 

‥‥ということです。

 

こうした映像制作スタッフの自我を理解できないと、制作集団は「次のフェイズ」に進めなくなります。

 

アニメ業界が長年作り上げたシステムは、その辺をよく解っており、例えば作画なら、

 

動画の次は原画

 

原画の次は作監

 

作監の次はキャラデザイン

 

‥‥と、大量生産の製造業的アプローチの「弱点」をかわす方法を、先人たちはよく理解していたと思います。

 

製造業アプローチでクリエイティブスタッフの自我を抑え続けておけるのは、例えば作画スタッフなら最初の4〜5年までです。5年目から「自分はアニメ制作現場における規格サイズのボルトやナットを作り続けて、この先にクリエイターとして生き残っていけるのか」と少しずつ疑念が湧いて悩み始めます。

 

組織がいくら「うちの会社は大丈夫。労働条件はホワイトだ。」と言っても、クリエイティブの自我から生まれた焦燥感を抑え込むことは難しいのです。なぜって、アニメはそもそも「作品造り」「創作」という強烈にクリエイティブな一面を持つからです。

 

そこで「原画」という新たなステップアップを与えて、再度「疑念が湧くまでの数年」を稼ぎます。その原動画10年の期間は、多くの人が淘汰される期間でもあります。

 

その後に、作監、キャラデザインと続けるうちに、30代も半ばになります。

 

とはいえ、役職にランクを設けて(=特に金銭面で)、何か新しい役割へとステップアップしても、

 

キャラデザの次は何にステップアップできる?

 

新しい社会変化の中でどう生き残っていく?

 

‥‥という問題が立ちはだかります。

 

しかし、30代も後半になると、新たな別の業種には転向が難しくなり、業界と運命をともにするキモチ‥‥例えるなら、第二次大戦末期の日本国民の感情のようになっていきます。未来が頭打ちでも作業料金が安いままでも、もはや辞めようとは思わなくなります。‥‥これは言うなれば、製造業アプローチが勝利したと言えますが、社会的にどうか?‥‥は、ご覧の通りの業界のていです。

 

個人規模のクリエイティブの自我‥‥で思考すれば、「そりゃあ、ステップアップなんて自分で決めることだし、社会に順応してベターな創作活動を順次展開していけば良いだけだろ」と簡単に解が導けますが、製造業視点・制作集団を統率する立場で思考すると甚だしく難問になります。

 

なまじ、クリエイティブを製造業思考で全て解決しようとすれば、です。

 

実際、アニメの撮影部門では、ステップアップの行き詰まりが発生している事例を何度も見聞きしています。皆がベテランになると、撮影監督の人数が撮影スタッフよりも過多になる‥‥という「逆ピラミッド」状態になり、ある一定の時点から、新人は新人待遇から抜け出せない状況に陥ります。

 

人員の構成が行き詰まって、どんなに技量が上達しても、上が詰まって昇進できない状況が生まれます。(で、それは理不尽だからと昇進させると、ほぼ全員撮影監督という「監督職だらけのセクション」になります。)

 

年功のステップアップを実施した結果、撮影監督と撮影監督補佐が増えすぎて、監督職のほうが一般スタッフよりも多くなるという異常なバランスは、ベテラン側にとっても新人側にとっても、「成長できない現場=同じことを繰り返す消化試合の作品作り」へと直結します。

 

 

今後、未来のアニメ制作現場においては、スタッフ構成が「ベテラン過多」になる「逆ピラミッド」現象は、どんどん増えていくように思います。今のままの技術基盤で、作り続けるならば‥‥ですが。

 

作業工程の監督職になって、その後、どのようにさらにステップアップして、自分の一生を豊かに広げて人生を全うするのか、アニメ業界の現システムに尋ねても、答えはありません。

 

撮影や作画の人間だけでなく、アニメ業界のクリエイティブ関連の多くのスタッフは、自我に目覚めれば目覚めるほど、未来を考えれば考えるほど、鬱とした感情に苛まれるでしょう。

 

アニメ業界は、従事するスタッフの「人生の標準モデル」を示せぬまま、産業として成熟しないまま、令和の今まで来て、どのような未来へと進むでしょうね。「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」ばかりが、業界の「人生のカタチ」であるのは、今後も続くことでしょう。

 

 

 

では、どのような解決策があるでしょうか。

 

それが簡単に解れば、アニメ業界とて、ここまで「ブラックブラック」言われ続けないですし、アニメに限らず日本の社会全体が希望に満ちているでしょうが、そうはなっていませんよネ。社会全体がアニメ業界のようになり始めている‥‥という人も多いですし。

 

「作品と商品のジレンマ」を解決できないのは、実は絵画や音楽の世界では何世紀も前から‥‥とも思えます。

 

だからお手上げ‥‥ではなくて、ベストにはならなくてもベターな方法はないか、思考の転換はできないか、考え続けて実践します。

 

製造業思考でアニメ制作をがんじがらめにすると、中堅初期の頃に「この会社には未来を感じない」と会社を辞めて他の会社に移るスタッフが出てきます。「このままでよい」と安定思考のスタッフもいますが、確実に「他のクリエイティブの可能性」を求めて他所へ移るスタッフは存在し、怖いことにそうしたスタッフは作品にエッセンスを与えていた「クリエイティブ度の高い」スタッフだったりします。

 

思うに、製造業アプローチは会社を運営するために必要ですが、同時に「クリエイティブ枠」もちゃんと用意しておかないと、そもそも作品であり商品でもあるアニメの「製造と創作の2面性」は両立できないでしょう。その2面性を両立できないと、必ず、せっかく育ったクリエイティブスタッフが辞めて、他の場所に移る結果となります。その際に「ゼロから育てたのに」と恨み節を吐いても、製造業重視でスタッフを見ていた大きなツケを払うことになるのです。

 

また、製造業アプローチに徹したとしても、製造業におけるクリエイティブ=製品開発を怠ると、その制作会社自体の魅力と価値は低くなります。

 

製造業アプローチとクリエイティブなフィールド。

 

この2つは、現場を長く存続する上で、どうしても必要になりましょう。どちらかだけではダメです。エクセルで管理するだけでアニメが作れるわけないですよネ。漠然とクリスタで作画してたらいつのまにかアニメが完成してた‥‥なんてこともないです。

 

どちらが欠けても、制作会社・制作集団はやがて解散するでしょう。過去のクリエイティブ資産を有した超大手でもない限り。

 

この難しい2極の要素を、どのように両立できるか。そしてその2極は、ちゃんと社会の技術進化と足並みを揃えて一緒に歩めているか。

 

アニメ制作会社が、2020年代、2030年代、2040年代‥‥と未来の社会で生き残っていくのは、相当な「知恵と勇気」が必要ですネ。

 

 

 

アニメーターは、なぜ、アニメーターになるのか。

 

これは、「労働条件を改善した」「理想的な作業環境にした」という話だけでは語れません。

 

アニメーターは、絵を描いて動かしたいから、アニメーターになる‥‥のです。紙と鉛筆だけでなく、タブレットやカットアウトでも、自分で描いて動かすからこそのアニメーターです。

 

つまり、

 

アニメである以上、クリエイティブが必要

 

なのです。

 

そこを軽視すると、「流れ作業で消化試合のアニメ制作」となり、やがて人は去っていきます。なぜ人が集まるのか、なぜ人が去っていくのか、アニメ制作にはアニメ制作なりの特性があり、工業製品を作る製造業とは根本の性質が異なります。

 

制作集団がクリエイティブの自我について、どのように向き合うかが、2010年代の作画崩壊と乱造の時代から抜けて、4KやHDRドルビービジョンやアトモスなど「品質重視時代」の未来に生き残る鍵だと、私は思います。

 

QCが普通のように存在するようになった時、製造業のノウハウからヒントを得つつ、クリエイティブをどのように両立するかは、少なくとも私は、重要重大な未来のアニメ制作の要素だと感じるのです。

 

 

 


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