4Kへの歩み(1)「iMac 5Kの2014年」

4KHDRの情報が徐々に公開されています。4Kでアニメを作るというのは、ぶっちゃけ並大抵なことではありません。簡単に作れるのなら、皆で今頃、作りまくっているでしょうしネ。4Kはおろか、2Kのドットバイドットでも危うい、日本のアニメ業界。

 

4KHDRをプロダクションで制作するまでに、どんな過程があったのか。

 

決してお膳立てが揃ってなくても、自主的にでも、4K時代を見据えた取り組みは可能なんですよ‥‥と伝えたくて、何回かに分けて、記事を書こうと思います。

 

私が「4Kを始めよう」と決意したのは、2014年に入った頃でした。当時、私の自宅の機材は、Mac mini / i7 / 16GBメモリで、2Kをやるには充分でしたが、モニタは1920pxのいわゆる2KのHDサイズで、4KのUHDサイズを等倍(ドットバイドット)で映し出す場合は部分的(1/4の面積)にしか表示できない痛烈な制限がありました。

 

Mac mini本体も、4Kをまともに映し出すビデオ性能ではなく、さらにはタブレットは板タブで20年近く馴染めず、当時私が手にできた液タブは2Kに満たない1.6K前後のモデルでした。

 

なので、2014年当時は4Kの線画を紙で描きました。しかしA4サイズはいかにも小さく、4Kドットバイドットでスキャンするには375dpiになり(レイアウトフレームの横幅が26cmとして)、単に鉛筆や紙の粒子や繊維を克明にスキャンするだけで、4Kらしさ=精細感とは言い難い状態でした。

 

そこで、すでに2000年代からカットアウトを研究していたこともあり、カットアウトなら分割作画でもいけそうだと目測をたてました。A4用紙で分割して作画して、スキャン後に合体させる方法を採りました。

 

手順は非常に手間のかかるもので、

 

  1. A4用紙で全体を作画(清書前の状態)
  2. スキャンしてデータ化
  3. Photoshopで分割作画用に大判化と分割処理
  4. A4用紙にPhotoshopから分割したごとにプリントアウト
  5. A4用紙で分割ごとに清書し、A3〜A2相当の原稿サイズを確保
  6. 分割清書したA4用紙をスキャンしてデータ化
  7. Photoshopでごみ取りなどしつつ、分割して読み込んだファイルを合体
  8. カットアウト用の4Kドットバイドットの線画が完成

 

‥‥のような、「うげげ‥‥」と思うような段取りですが、まさかA2用紙を常用して描くわけにもいきません。そもそも私の自宅にA2などイッパツでスキャンするスキャナーなどありません。私の所有するスキャナは普通のA4サイズです。

 

紙本体にしても、A2はもちろん、A3の用紙ですら、ちょっと傾けただけで机からはみ出して絵などまともに描けたものではないです。アニメの線画は、油絵や一点ものの水彩イラストを描くのとは事情が異なります。

 

大きい紙に1枚で描くよりも、A4用紙で分割作画してスキャンすることで、ようやく「4Kにふさわしい」サイズの線画を紙ベースで実現しました。

 

巨大な大判用紙のスキャンの大変さは、解る人は解ると思います。結果物が同じでも、A4分割のほうが取り回しは良いです。

 

とはいえ‥‥

 

これは‥‥相当に手間のかかることだ‥‥。カットアウトならまだしも、従来の何千何万枚単位の作業で、紙を用いることは実質不可能だ‥‥。

 

‥‥と実感したものです。‥‥というか、誰でもそう思いますよネ。A2やA3が標準フレームだったら何千枚なんて無理過ぎますもんネ。

 

加えて、苦労して描き上げた線画を、等倍(ドットバイドット)で全体を見渡せない‥‥という、Mac mini&2Kモニタの厳しい制限がありました。そこはどうにも解決できないフラストレーションとしてくすぶっていました。

 

何度もこのブログで引き合いに出していますが、まさに2014年当時に4K&カットアウト目的のテストで作ったのが、以下の女の子の絵です。クリックすると、別ウィンドウで絵だけ表示されますので、等倍で見ていただくと、鉛筆線のナマの質感がお分かりになると思います。

 

*今見ると、ゴミ消しや線の継ぎ足しが粗いです。鉛筆線のニュアンスは思った通りの感じです。

*2014年当時のMac miniでも出来たんです。2019年の今、1枚絵を描くくらいのテストができない理由はそんなにない‥‥はずです。

 

 

ちなみに、2014年当時は(いや、今でも?)「萌え系」のキャラがアニメの作風を席巻していましたが、なぜ素直に流行に合わせて「萌え系」のキャラを描かないか‥‥というのは、みんながやっているのなら得意な人たちにまかせて、私は別の路線〜トラディショナルな日本画を思わせる作風でやってみようと思ったからです。日本人のティーンの女の子・男の子キャラに、日本画の繊細な表現は相性が良いと考えました。

 

当時話題になっていたベビメタ(あたたたたーた、ずっきゅん、どっきゅんの)の女の子のスナップをWebで見ながら、もちろんそのまま似顔絵にはしませんが、私の好きな上村松園の日本画をイメージしつつ、4Kで可能と思われる詳細な描写を目指しました。簡略しつつ繊細である‥‥という私の好きな古今の日本画に触発されております。習慣的にアニメ絵を描くのではなく、もっと他の表現を試すべきと思いました。

 

日本は特に‥‥かも知れませんが、流行に対して暗黙のナショナリズムみたいなのが蔓延して、最近だと新海誠監督作品風の絵がもてはやされてると聞きます。しかし、新海誠作品のもつ独自の色彩感〜人間の記憶色ともいうべき隅々までの色彩が溢れた瑞々しい作品表現は、新海誠さんの真骨頂であり新海作品本家が作れば良いのです。思うに新海誠作品のあの色彩感・作品表現は、新海誠さんが周囲の色々にめげずに追い求めて、それこそ20年スパンの結晶とも思います。

 

アニメといえど絵画の表現ですから、表現者・絵描きの各人は流行に合わせてうわべだけマネして日和るのではなく、作品独自の表現を追求したい‥‥ですよネ。まあ、仕事は仕事として日々こなすとして、いつか大成させたい表現は秘めていたいものです。様々な美意識があってこそ、作品表現も様々に広がって豊かになると思うのです。日本のアニメの特徴を1種類に統合する必要は感じません。

 

 

 

話を4Kに戻して。

 

2014年当時はMac miniということもあり、上図の絵を一枚、4K仕様で作業するにも手間と時間がかかりました。線画以降はAfter Effectsでペイントし(自分で塗ったので)、レンダリングして絵を出力しました。

 

気負い過ぎて、4Kどころの解像度ではなく、6Kくらいの寸法になってしまったコンポ設定はこちら。

 

*ビットマップベースのカットアウトでは、拡大した時に線が荒れないように、大きめで作ることが多いのですが、ちょっと大きく作り過ぎた感はあります。ベクターベースのカットアウトは、結局はToon Boomと出会う今年(2019年)まで棚上げとなるのでした。

*この記事のためにCC2019で再出力した際のスクリーンショットです。2014年当時はすでにAdobe CCが運用開始されていて、ようやく個人規模でも全てのAdobe製品を最新版で維持することが可能になっていました。

 

 

1枚の出力に、2分くらいかかりました。最新のマシンだと1分くらいにはなるとは思います。

 

前述の通り、レンダリングした絵が等倍でリアルに見渡せないのは、せっかく作ったのになあ‥‥と、少し心が折れました。

 

だ、が、し・か・し。

 

まさに2014年の当時、秋にiMac 5Kが突如発売されました。

 

なにそれ〜〜〜〜〜!!!!

 

なんというタイミングの良さ。

 

もちろん、すぐに飛びつきました。お金はなかったので、4年の分割払いにしました。分割手数料は中々のもんでしたが、「戦時公債」と思って呑みました。

 

届いたiMac 5Kで、はじめて前掲の女の子の絵を表示したら、

 

2Kモニタとは全然違う

 

粒だちが違う

 

何もかもがクリアに繊細に映し出されている

 

‥‥と、完全に新時代の解像度に魅了されました。

 

他の300dpiでスキャンした線画も、iMac 5Kで見ましたが、

 

こんなに鉛筆の線って、繊細で躍動的で、チカラに溢れていたのか

 

‥‥と思いました。私だけでなく、高解像度のドットバイドットの世界を、色んな友人・知人のアニメーターさんに知ってほしいと素直に思いました

 

5KのiMacに見慣れた後ですと、2Kや2.5Kのモニタはみなボケて見えます。良い悪いの価値観ではなく、単純に画素密度の差としかいいようがありません。

 

今まで絵描き、特にスキャンに頼っていた絵描きは、モニタの低密度画面に「騙され続けていた」と思いました。‥‥いえいえ、逆恨みはしません。時代の技術ゆえのことですから。

 

*現行モデルを買うなら、中堅の3.1GHzモデルより上が良いです。一番下の3.0GHzモデルは色々とショボいので(メモリの上限が32GB)、中堅モデル以上の「64GBメモリに将来増設」を見込んで買うのがお得です。メモリはほんとに、足りなくなるから‥‥。すぐに増設しなくても、増設の余地は残しておくのが良いです。

 

 

こういうのを、シンクロニシティと言うんだな

 

‥‥としみじみ思いました。

 

必要な時に、なぜか、必要なものが現れる。

 

2014年の当時だけではないです。今まで私が体験した数々のターニングポイントにおいて、時代はいつも「助けて」くれました。もちろん、時代に「辛く当たられる」こともありますが、良い時期も悪い時期も含めて、時間は大きくうねって流れていくんだと感じます。

 

 

 

そして、今は2019年。

 

4Kで絵を描くこと自体は、大きくハードルが下がりました。学生さんでもiPadで絵を描く時代です。目の前にはiMac 5Kや4Kモニタがあります。6万円くらいで4Kで「HDR受け入れ可能」なモニタも売っています。

*「HDR受け入れ可能」とは、本体では細かくHDRの設定をカスタムできない「信号依存」のモニタ製品です。PQ1000nitsシミュレーションなどができるモニタはまだまだ高くて60万円くらいします。

 

新技術開発のプロジェクトは、ひたすらクチを開けて雛鳥みたいに待っているだけで、進行するものではありません。

 

新しい何かは、自分で、自分たちで、能動的に自発的に動かしていくものです。

 

ですから、4Kも、いくらでも自分の意思で研究は開始できます。2019年の今なら、なおさら。

 

ただ待つばかりで、世間話や噂話をしたところで、プロジェクトは何も始まりません。

 

物事は、動かさなければ動かない。動かせば動く。ただそれだけです。

 

実が伴わないと、話だけが一人歩きして肥大化する傾向はあります。噂や憶測の雑談だけに時間を費やすのではなく、実際に4Kで絵を描いて取り回してみれば、色々と手応えを得られるものです。

 

 

 

4Kなどアニメは不要‥‥というセリフも昔から聞きます。

 

考え方が違います。アニメに対して4Kがどうこう‥‥ではなく、世界の映像技術の標準が4Kやその次の技術へと移り変わっていく社会で、アニメ制作産業がどのように生き残りをかけるのか?‥‥ということです。4Kや8Kの時代に移り変わっても、アニメが魅力を放ち続け、現代性も獲得するには、どうすれば良いかです。アニメ産業自体が歴史博物館入りするのではなく、です。

 

2020年代は1.5Kのまま、2030年代も2040年代も1.5K‥‥でしょうか。

 

解像度が大きくなるということは、絵の内容も変わることだと、アニメ業界はハイビジョン地デジ化の際に学んだはずです。もっと遡れば、16ミリフィルムが消滅した際にも学んでいるはずです。

 

なぜ、その学びを、4KHDR時代に活かせないのでしょうか。

 

なぜ、一部の人々は、毎度毎度同じようなことを延々と学習能力欠如で言い続けるのか。

 

日本人は環境の変化に対して、順応力が高いうえに、さらに発達させる能力が秀でていると思います。しかし、その順応力と発達能力はいつも「後手」で発揮されます。ゆえにレッドオーシャンばかりで泳ぎ続けます。

 

たまには、先手でいきましょうよ。決して出来ないことではないはずです。

 

4Kの絵を描いてみるのは、すぐにでも出来ます。2014年に出来たことが、機材が進化した現在にできないわけがないです。

 

やるかやらないかは、当人次第です。

 

 

 

2014年の翌年、2015年には、いよいよiPad Proが新発売されます。まさに、シンクロニシティそのものです。

 

苦労してきた紙のデータ化において、2015年のiPad Proの登場によって終止符を打つ時が来ました。スキャナーを使うのは、年に数回程度‥‥という日常へと変わったのが、2015年の秋でした。

 

というのを、次回に書きます。

 

 

 

 

 



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