未来と、動画と、

私が欧米のカットアウトを積極的に導入しようとするのは色々な理由がありますが、表現内容ではなく制作現場的に言えば、従来の動画の作業費=単価が、あまりにも現実の生活水準と乖離しているがゆえに、新しい動画技術の導入が必須だと痛感するからです。今のままのアニメ業界の業態では、「人が働く産業」として成立しにくい性質がどんどん色濃くなるだろうと予測します。

 

動画という工程がなければ、アニメは画面に絵を表すことができません。よほどの特殊な処理でもない限り、動画の工程を経て、ペイントされコンポジットされて、映像として具現化します。

 

アニメ業界全般の動画単価は、テレビシリーズ(1.5〜2Kの解像度)でだいたい200〜300円台です。たまに400円台を設定する作品もありますが、平均では200円台です。

 

一方、数年のキャリアを持つ動画作業者は、1日に何枚描けるか?‥‥というと、作品の絵柄にもよりますが、いまどきの可愛く装飾された女の子キャラ(髪の塗りわけが7色とか)ですと、10〜20枚がやっと‥‥と聞きます。簡単な内容のカットが混ざれば枚数が稼げますが、基本的にはどの作品も線が多く繊細で、たとえ2Kであってもコンスタントに何十枚も描ける内容ではありません。

 

例えば、1日15枚としましょう。単価を250円としましょう。

 

250x15=3750円

 

一方、日曜は必ず休むとして、1ヶ月25日とすると、

 

3750x25=93750円

 

‥‥という出来高になります。

 

1日15枚描けない日もあるでしょう。理由は明白で、カットによって内容の重さが大きく変わるからです。作品によっては、7〜8枚平均になってしまう場合もあります。5枚に満たない日もあるでしょう。どんどん手取りの額は下がっていきます。

 

会社によって、ベースの料金を設定して、出来高を上乗せするところもありますが、根本的な単価の設定額の低さは、明らかに重大なアニメ制作産業の欠点です。それこそ、20〜30年も前から‥‥です。さらに近年は絵柄が細かくなったがゆえに、異常さに拍車がかかっています。たまにツイッターで流出する月ごとの支払い明細の額面(1ヶ月の支払額が6万とか8万とか)は、まさにアニメ業界の変わらぬ現実を示しています。

私の動画時代(30年以上前)は「月1000枚を目標とせよ」という時代でしたが、単価は120円前後で「完全出来高制」だったので、1000枚描いても12万円(マイナス源泉徴収で10万円切り)でした。私は10日で300枚以上描けたこともありますが、面接や紹介時に「メカが好きで得意です!」と変なことをアピールしたために線の多い動画が回ってくることが多く、コンスタントに1日30〜40枚など描けるものではありませんでした。当時に手取り20万円を動画で稼ぐには、2000枚くらいは描かなければならず‥‥、まあ、ありえませんでした。1980年代後半でドカンとアニメの線の量が増えた後でしたからね。

同じく30年前の当時、よく言われたのは「以前は2000枚が目標だったんだ。もっと前は3000枚描く人もいたぞ。」という「前の時代はもっといっぱいできた」という文言です。私は純粋に「そんなに描けるのは凄いなあ」と思ったものですが、宇宙大空母とか、巨大メカが二人乗りで巨大バイクに乗るとか、大量に線のある細かい絵を描くことがなければ、枚数もいっぱい上げられるだろうとは今はクールに判断できます。事実、簡略化した簡素な絵柄なら、動画も原画もいっぱい描けるんですよ。今のアニメの可愛い女の子キャラは昔のメカ並みに線が多いです。線の量は直接的に、動画も原画も、作業効率に対して痛烈な打撃となります。だからと言って、未来のアニメは作り手の都合でみんなノラクロのような絵柄にしますか?‥‥できないですよネ。

 

 

つまり、今の一枚ずつ動きを追って描くアニメ技術は、こうした動画作業の苦しみの上に成り立ち続けています。中堅からベテランアニメーターは「動画時代はみんなが通ってきた道だ」とその動画の報酬の異常さを、同じ作業区分の作画の人間でありながら、事実上、容認し続けています。

 

もうほんとにぶっちゃけ、「みんな、一緒にアニメの作画をしようよ」と若い人たちに声をかけられないのです。

 

作画作業に誘えないのです。テレビアニメの動画単価1枚200〜300円で、どうやって、アニメ作りの現場に誘えるというのでしょうか。

 

それとも、動画工程は下積み時代の作業項目とでも言うのでしょうか。‥‥違いますよね。動画はれっきとした必要不可欠な工程であり技能者が必要な部門です。

 

さらには、そうした単価が安くて内容が大変な現状を、大きく改善して打開するアイデアもない‥‥ですよネ。今までのままのアニメ作画技術を踏襲し、今までのままの制作費ならば、未来に大激変して飛躍的に動画の単価が向上することは、普通に予測してありえそうにないでしょう。

 

 

 

手描きで1枚1枚動きを作ることを「美徳」と考える人は、制作者側にもファン側にもいます。たしかに1枚1枚動きを描くのは、楽しいし面白いし痛快で、描く側も見る側もアニメに魅了されます。

 

しかし、その魅力の「内実」は、どのような状況の上に成り立ち続けているのか。‥‥その美徳は、まるで生体から皮を剥ぎ取って毛皮のコートにするかごとくの、残酷な美とは言えませんか?

 

手描きの動きを賞賛するのは悪いことではないですが、他のアニメの技術〜手描きの絵を他の方法で動かすカットアウトも導入して技術を発達させないと、マジメに、業界の未来は危ないと思います。

 

未来の映像産業の技術進化と共に歩み、手で絵を描くことをやめずに、動かす技術を進化させるには、タブレットへの移行とカットアウトの導入は必然です。

 

4Kをまさか、何千何万枚もの動画単価200〜300円の延長線上で作ることになったら、いよいよ崩壊します。でも、4Kに限らず、2Kのままでも、1日10枚も描けないような作品の動画単価が200円台なのは、もう大破綻ですよネ。

 

それとも、従来アニメの「美徳」を主張する人は、安い単価で何千何万枚も描く方式を未来も受け入れろと言うのでしょうか。お金が稼げなくても文句を言うな‥‥と?

 

 

 

カットアウトの作画技術は、動画枚数で作業をカウントしません。手描きで描いた絵を動かす際は、Toon BoomなりAfter EffectsなりMohoなりで作るのですから、動画枚数でカウントすること自体が難しいです。カットアウトは、ラフや線画清書やリグやアニメーション(=モーション)などの新しいジャンルで作業が分類されます。

 

では、全てをカットアウトに乗り換えるのかというと、そんな簡単なことではありません。1枚1枚動きを追って描いた方が良い内容ならば、無理にカットアウトで何でもかんでも処理する必要はないです。

 

要は、従来作画とカットアウトのハイブリッドです。

 

カットアウトでカット数を稼ぐ傍で、従来の作画が向いているカットは動画作業も並行しておこないます。カットアウトによる高効率化の恩恵を、従来作画の報酬増強に充てるのです。

 

枚数でアニメのものごとを測る方法は、もう未来はダメです。枚数ではなく、作業内容の重度軽度で測る方法に切り替えれば、1枚1枚動きを描く作業の「大変さがはじめて評価」されます。

 

動画スタッフが「こんなに技量を高めて、こんなに働いているのに」という実質を、作業体制側がちゃんとお金に表して評価していくことが必要です。それが今までのアニメ制作ではできていないからこそ、アニメ制作に絶望する人が後を絶ちません。私も若い頃に絶望しかけてダメになる寸前までいったことがあるのでネ。

 

 

 

カットアウトは絵柄を選びません。いわゆる萌え系のキャラだって動かせますし、リアル系のかっこいいキャラもイケますし、私はラッカムやデュラックのような絵柄で日本限定よりは世界に向けて作りたいとも思っています。

 

表現の広がりに加えて、産業としてのアニメ制作を発展させるには、まずはカットアウトを日本に広めつつ、従来の動画の価値を正当に評価した金額にアップすることです。

 

動画スタッフを20万円台の月給で雇用している会社は、その動画スタッフの「動画1枚単価換算」はいくらなのか、月々の集計で簡単に算出できますよネ。相当良い額になりますよね。‥‥なのに、外注に出す時は、まさか200〜400円? ‥‥あんまりですよネ。

 

 

 

今のままのアニメ制作現場の状態で、動画単価を10倍近くも跳ね上げる「策」をもっているのなら良いですが、‥‥実際どうでしょう?

 

動画を請け負うちゃんとした技量を持つスタッフが最低でも10万円台後半、普通に考えて20万円台以上の月額報酬を得る秘策をお持ちでしょうか?

 

私は今ままでの制作技術では無理だと思います。新しい制作技術を導入しない限りは、単に日々の不満と状況を受け流し続けたアニメ業界のままで停滞するのは、目に見えています。

 

なので、カットアウトをやりましょう。

 

日本人の素晴らしい性質である「可能性を各所から見いだし、オリジナルよりも発展させる」能力を、カットアウトでも発揮するのです。

 

アニメ制作現場を、「アニメ好きゆえに、貧乏を我慢して関わり続ける」現場から、「専門の技術に対して正当な報酬を与える」現場へと、明確に変えていきましょうよ。

 

 

 

今までの技術のままが良い‥‥というのは、つまりは、今までの貧乏のままで我慢せよ‥‥ということと同義である現実を直視しましょう。

 

世界の映像技術は、今までがそうであったように、2020年代も進化し続けます。進化の潮流の中でアニメ制作を続けるためにも、カットアウトと従来技術のハイブリッドは必須だと確信しています。

 

 

 

 


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