作業、その後に。

もしかしたら、紙で作画している結構多くの人は、「描いた後のアーカイブ」に対して、「どのように保管されるか」を思いやったことがあまりない‥‥かも知れません。どんどん溜まって場所を占有していく「強烈すぎる紙の存在」に、あまり意識が及ばないのは、自分の周辺に「作業終了した紙の束」が積まれていかないから‥‥とも思えます。

 

紙時代のかつての私がそうでしたから、容易に想像できます。実際、原画を返却してくれたのは、S社だけでしたから、自分が紙で描いた原画や設定は、コピー機でコピーしておかないと目の前から消え失せます。

 

紙と鉛筆はコストが安いと思われがちですが、本当にそうなのかな?‥‥と、作業終了作品のダンボールの山を見かけると考え込んでしまいます。

 

 

 

私は、1996年に描いたゲーム攻殻機動隊のイメージボードを今でも保持していますが、それは媒体が画像データからです。PICTという今ではほとんど忘れ去られた画像フォーマットのものも多いですが、使われていないだけでちゃんとMacで画像ファイルを開いて表示できます。JPEGやTIFFにおいては、今でもディファクトスタンダードと読んで差し支えないほど良い意味で枯れていますから、iPadですら20年以上前のデータを開くことが可能です。

 

もちろん、紙においては、パソコンなどなくても閲覧可能です。数年前に、実家の大掃除をしてたら、18〜19歳の駆け出しの頃に作画していた某巨大ロボの設定とかが出てきて、タイムスリップしたようなキモチになりました。

 

データも紙も、保存状態が良ければ、20〜30年経過しても閲覧できることには変わりないです。

 

一方、保存状態が悪ければ、データは表示すら不可能、紙はカビたり黄ばんだり破れたりしてコンディションは悪くなります。

 

データは複製したり記録メディアを乗り換えればオリジナルと寸分違わぬ状態を保存できますので、地震や火災などに強い面があります。紙は燃えたら何もかも喪失します。紙ではないですが、クリムトの三部作はナチスによって没収されたのち保管場所ごと焼かれて焼失してしまいましたよネ。

 

 

 

 

よく言われるフレーズで、

 

データは時代とともに読み出せなくなる

 

‥‥というのがあります。

 

しかし、私の感慨で言えば、

 

データを放置するからだろ?

 

‥‥と思います。

 

そりゃあ、フロッピーの中のデータをそのまま20年放置したり、MOの中に入れっぱなしだったら、読めなくなるのも当然。

 

前述の通り、私は1996年にQuadra650で作ったイメージボードを今でも開くことができますし、そればかりか、98のマルチペイント(知ってる?)で落書きしたドット絵の画像まで残ってたりします。

 

私にとって問題は、

 

ちゃんと面倒を見るにしても、その期間の置き場所のコスト

 

‥‥それが最重要です。

 

日本の、東京などの都市部では、なんだかんだ言っても、一番コストがかかるのは「空間」だからです。車をちょっと停めておくだけでも、お札が消えていきますよネ。

 

 

 

私は良いところのおぼっちゃまではないので、子供の頃から決して広いとは言えない家で育ちました。アニメーターになってからも同じです。60歳になる頃にはもう少し広い家に住んでみたいものですが、少なくとも今はモノでいっぱいです。

 

なので、作った絵や映像がデータであることは、必須の条件です。

 

おそらく、私が1990年代から今までWinやMacやPC98で作った画像や映像のデータをすべて集積しても、カラーボックス1段にも満たないです。6TBのHDDをカラーボックスの棚に何個詰められるのか、考えたこともないですが、30個以上=200TBは1段で格納できましょう。

 

しかも、その6TBのHDDは一万円前後で買えます。同じバックアップを2つ作成しても6TBx2で二万円で済み、2箇所に分散して保管しておけば、地震や火事で両方が同時にヤラれることは考えにくいです。

 

紙はそうはいきません。とにかく、場所を取ります。

 

個人レベルでの話になりますが、私は倉庫を借りているので、その年間コストは肌身で知っています。ぶっちゃけ、毎月6TBのHDDが余裕で買えるほどのコストは支払っています。

 

都市部において、空間をどれだけ活用できるかは、切実な問題です。

 

 

 

これがもし、アニメ制作会社となると、個人どころの話ではないです。整理整頓して管理するスタッフの賃金、保管場所など、年間のコストは相当な金額になるでしょう。紙を保管する量は、テレビシリーズのペースならば、どれだけ膨大な物量となるか、考えるのも目眩がします。

 

紙を使って何千何万と作画しまくる制作体制が、2020年代の未来に、どのような「アーカイブ事情」を抱え込んでいくのか。

 

今まで発生した紙も膨大に蓄積している上に、昨今のアニメ制作ラッシュで、鬼のように紙がかさんでいきます。紙は物理空間をどんどん占有していきます。

 

紙の一時的な面だけでなく、制作が終了した後のことまで、ライフサイクルコストとして考えると、決して紙は「安いコスト」とは言えません。

 

本当に、紙を使い続けて良いのか、アーカイブの永続的なコストも視野に入れて考えてみても良いですヨ。

 

 

 

アニメーターにとって、紙で描いた原画や動画は、回収されれば目の前から消えて、自分の近辺の空間を占有し続けることはありません。‥‥なので、紙の低コスト面だけを実感しがちです。

 

しかし、アニメ制作会社が産廃としてどんどん廃棄でもしない限り、アニメ制作会社は紙の結果物を抱え込み続けることになります。もちろん、タダではなく有償の保管場所で。

 

紙で保管してあるからといって、いつでも見れるとは限りません。管理がズボラだと、何がどこにあるのか、わかりませんよネ。遠い場所の倉庫に保管してある場合は、すぐには取り出せません。結果、スキャンをしてデータ化することになるでしょうが、オリジナルの紙とスキャンデータの二重管理になります。

 

 

 

アニメ制作各社は紙媒体を、中央図書館レベルの管理と保管によって、永続的にコストをたっぷり支払い続け、2020年も2040年も2100年も継続してアーカイブするのでしょうかね?

 

アニメ制作会社は独自の博物館や記念館を開館するのか。TDLみたいに「アニメ制作会社リゾート」なるテーマパークを、各社が開園するのか。‥‥で、その収支にどのような見込みがあるのか?

 

それとも、単に「捨てられない」という理由で、明確なビジョンもなしに曖昧な価値基準で維持し続けるのか。

 

アニメ制作会社が廃業したら、膨大なアーカイブの紙媒体は、どこに引き取られるのか。それとも、焼却されるのか。

 

 

 

何もコンピュータのデータにすれば何もかも安泰と言いたいわけではなく、保管と管理がずさんであれば、紙もデータも使い物にはなりません。ZIPやJAZZドライブなんて死んだも同然ですよネ。カビて黒ずんで湾曲した原画や原稿は、捨てるのも維持するのもためらいます。参照したい時に良好な状態で容易に取り出せるからこそのアーカイブです。

 

キッチリ管理するとして、紙とデータのどっちが良いか‥‥を考えています。ぶっちゃけ、維持コスト=金の話です。

 

2020年代の来年以降。

 

私は、作る時からデータのほうが良いと考えています。ありていにいえば、作画からペンタブで描けば良いです。

 

データは受け渡しの性質上、複製が常ですから、私の30年余のアニメ制作現場の経験から言えば、「紙は残らないが、データは残る」と感じます。

 

データを保持するのは当人の管理でなんとかなりますが、紙は置き場所の問題ゆえに抱えきれなくなって管理がままならなくなります。

 

私は、どこかの倉庫の片隅で死蔵されている紙媒体よりも、昨日のように絵が蘇るデジタルデータ媒体が良いと実感します。

 

何度も言うけど、データを損失するのは、記録メディアやファイルフォーマットを過信して放置するからです。曖昧に過信せずに「こわれもの」として扱えば、20年以上前のデータも昨日のようにフレッシュに蘇ります。

 

クリスタのClipファイルやAfter EffectsのプラグインやAEPファイルが、20年後に開ける保証はないですが、アーカイブしたい画像や映像は、「枯れた」フォーマット〜JPEGやPNGやTIFFで保存しておけば、20年後でも開けるでしょう。20年前のデータはAPFSやexFATで今でも保存できますし読み出せますもんネ。

 

2004年に作った、とある作品のOPは、当時のテレビ作品としてはハイスペックな16bit/1280px(当時のテレビの規格サイズはD1=720pxで、8bitが一般的でした)で作りましたが、TIFFの連番で保管しているので、今でもAfter EffectsやCompressorに読み込んで再生できますし、1フレームごとに画像を閲覧することも可能です。ダウンコン&プルダウンする前の1280px・24pで保管しているので、状態は最良です。

*本編はどうなっているかは知りません。あくまで私らがメインで関わったOPの話です。

 

 

 

アニメを日本の未来においても、文化として自認するのなら、過去を懐かしんでフィルムだセルだと言うだけでなく、どのようにして「未来に作り続けるか」、そして「記録媒体」「保管の方式」を今一度、考えてみるのも良いと思いますヨ。

 

 


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