夢のシート確認

アニメ業界の制作現場は、言うなれば、デスクワークの修羅場なので、実写現場のような「ハイ!ここからここまで!」(=撮影地や撮影スタジオの時間制限でネ)というキッパリとした区切りが「見た目」上はあまりなく、ズルズル、ズルズル、ズルズルと24時間絶え間なく進行していきます。

 

もちろん、ケツ(考えてみれば、老若男女「ケツ」「ケツ」言う現場ですネ、アニメ業界は。)は決まっているので、キッパリと区切りはあるのですが、立ってしゃがんで走って登って‥‥という実写現場の「体を動かす系」ではないので、徐々に電流が大きくなっていく責め苦の電気イスのごとくです。

 

アニメの撮影(=要はコンポジットですが)を引き受けると、そりゃあもう、最後のあたりは大変です。「ケツのケツ」(プロダクションのケツ〜ポスプロ前)ですからね。仕上げさんも相当地獄だと察しますが、撮影はさらにその後なので、「間に合っていないことは絶対に許されない」というプレッシャーの中、不眠不休の作業を余儀なくされます。

 

私は数年前に短編の撮影監督を最後に、以後、撮影監督は引き受けていません。‥‥体力的に限界ス。

 

そんな、最後の撮影監督の時に、今だから笑って話せるようなことも体験しました。

 

 

 

まず、夢のシート確認。

 

シートを確認するのが、人生の夢だった‥‥という話ではございません。

 

パクズレのリテークで、再撮するカットのシートを進行さんから「修正箇所は赤で書き込んであります」と言われてカット袋を受け取りました。「どれどれ」とカット袋の中からシートを取り出して、2つ折りのシートを開いて確認するのですが、何だか文字がボヤけて読めません。

 

「?」‥‥と思いながら、何度も何度もシートを読もうとするのですが、緑色のシートの中身がボヤ〜っとして一向に読めないのです。

 

ふと、目が開いて、目が覚めました。

 

‥‥どうやらカット袋を抱いたままイスで寝落ちして、夢の中でシートを読もうとしていたようです。

 

進行さんから、「はい」とカット袋を受け取って、膝の上に乗せてボンヤリしているうちに、眠ったようです。‥‥他人事みたいな言い方ですが、そうみたいです。

 

「そりゃあ、夢の中じゃ、シートは確認できんわ。」

 

‥‥と思いました。

 

 

 

そして、滑らかブラー1時間。

 

アニメによくある超能力的な表現で、色んなAfter Effectsのエフェクトを組み合わせて処理するカットがありました。放射ブラーとか、セルをブラシっぽく見せる何段階かの滑らかブラーとか。

 

何重にも及ぶエフェクト効果で、手間も手数もたくさん、疲労もいっぱいで、意識が朦朧としながら、最後にたまりがちな大変なカット(原動仕的にも大変なカットは後ろに詰まる)を作業していました。

 

深夜に及ぶ作業を繰り返す中、夜の9時ごろに、エフェクトのブラーメニューから「滑らかブラー」を選択して、レイヤーに適用しました。

 

操作の通り、滑らかブラーの効果がレイヤーに追加されました。

 

ふとメニューバーの時計を見たら、夜の10時。

 

どうやら、滑らかブラーを選択して適用するのに、1時間かかったようです。

 

ふと、瞬きをした時に、寝落ちしたのでしょうネ。たぶん、おそらく。

 

猛烈に眠い時は、目を閉じたら最後だよネ。その姿勢のまま、10分は眠れる。なので、1時間もありえる。

 

 

 

この2件の珍事件(?)をもって、「私はもう、アニメの撮影監督は無理だ」と悟りました。

 

技術云々、表現云々ではなく、もう体力が、従来のアニメ現場向きではない‥‥と痛感したのです。撮影に限らず、作画においても、20代、30代の自分ではないことを痛感したのです。

 

技術の積み重ねも、経験の蓄積も、役に立ちません。従来のアニメ撮影の修羅場に必要なのは24時間戦える人間と人海戦術。ピークに合わせて人をたくさん雇って待機させる、コストのかかる構造をどう「やりくり」するかです。

 

今、20代の人は、自分が40〜50代になって、同じ仕事をしている自分を想像できますか?

 

作画も、撮影も、同じ作業ペースで50代もずっと生きていけると当人が思うのなら、アニメ業界には珍しい、恵まれた環境でしょうが、そういう現場はどれだけ存在するでしょうか。ぶっちゃけ、「このままの働きかたで50代まで続けたら、老後前に死ぬだろうな」と思う人は多いんじゃないでしょうか。

 

読むと100日寿命が縮むという恐怖新聞。最後にボロボロになって死んだ、主人公の鬼形礼。昔、子供の頃に読んだ漫画を思い出します。鬼形礼君が、腐っていく自分の体と、自分が生きるか死ぬかの中で、激しく葛藤するストーリーを今でも思い出します。

 

もし撮影セクションが作画と同じ完全な単価制度で、しかもその単価が安かったら、作画と同じ離職率になるかも知れませんネ。

 

 

 

従来のアニメ制作現場で考えれば、もはや品質や作品表現を考えるのはナンセンスなのかも知れません。内情を知っていれば、作画崩壊とか笑う気にはならないはず。

 

しかし、今のアニメ制作現場の作り方では、QCの厳しい未来の映像産業には到底対応できません。今までの作り方を続けるために、QCの緩いクライアント相手の仕事を探すようになっても不思議ではないです。

 

最後にドカドカッと「やっつける」方法では、品質が下がり、QCにもひっかかり、人の消耗も改善できませんよネ。当事者ならわかりますよネ。

 

 

 

なので、新しい技術による新しい道へと進んでいます。

 

正直、新しい道は困難の連続です。

 

一番厳しいのは、新技術を扱える人間が極めて少ないこと。

 

例えば、作画作業の70%を新技術で2人で引き受け、残りの30%は従来技術で10数人で作業する。‥‥いくら新技術の威力が絶大でも、この作業人員の不均衡は如何ともしがたいです。

 

その10数人のうち、数人で良いから、新技術のほうにも分けてくださいよ‥‥と言いたい気分です。

 

2020年代には、「時代の色々な波」におされて従来作画はものすごくお金がかかるようになるだろう‥‥というのが、偽らざる実感です。かと言って、アニメ業界は平成に留まって、2010年代に留まって、過去の技術と品質の中で生きていくわけにもいかないでしょう。

 

もし、新しい技術を扱える人間が増えれば、状況も大きく変わって、お金の面も飛躍的に改善できるのにな‥‥と思いますが、‥‥まあ、この辺りの話はまたいずれ‥‥。多方面に関与する話なので、風呂敷がでかいです。

 

困難はあれど、新技術の先に光が見えるのは良いです。

 

同じ険しい道でも、先が見えずに暗い道より、明るい光が見える道へと進みます。

 

 

 

夢でシートを確認する‥‥なんて、今でこそ、自分自身の笑い話ですけどネ。

 

生きているから、笑うこともできる‥‥というのはあります。

 

2020年代はまさに、アニメ業界の正念場なように思います。

 

生まれ変われる集団、生まれ変われない集団、それぞれの明暗が、嫌でも浮き彫りになる10年間でしょう。

 

 

 

 


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