カットアウト雑感

日本のカットアウト技術者の人口は極めて少ないです。私が苦労しているのは、まさにソコで、誰にも仕事を分配して頼めないという点です。

 

中国のカットアウトの記事を見たり、カンフーパンダの10年前のカットアウト短編を見たりすると、日本の状況に悲観したくもなりますが、一方で、各国もかなり苦戦はしているようで、それはそれで「自分だけではないんだ」と妙にホッとしたりもします。動きの知識がまず必要で、さらにカットアウト用に「動きと造形の分解・再構成」を行う技術ともなると、技術的なハードルが高いのは事実ですから、技術者人口も通常のアニメーターの数には全く及ばないのは、現実として受け入れざる得ません。

 

カットアウトと同内容の手法は、日本でも昔から使われていて、ローリングやスライドでキャラに動きを加味するのはカットアウトの一番基礎的な手法です。Flashで動かすのもカットアウトのカテゴリに分類できます。王蟲のゴムマルチも同種の技術ですネ。

 

ではなぜ、さらに進化したカットアウトが日本に出現しないかというと、そうしたローリングやスライドやFlashの表現内容が、手描きの動きと同等かそれ以下のクオリティで、手描きで動かすアニメを凌駕していないからです。

 

これはとても重要なポイントです。

 

10年以上前に、Flashのアニメを見て思ったのは、手描きで動かすアニメの品質簡易版という印象でした。「Flashでもアニメが作れたよ!」なんていうのはアマチュアの言い分であって、「Flashで今までのアニメ以上のことができた!」というレベルに到達しなければ、失笑のうちに終わります。

 

 

 

実はこの状況、「デジタルアニメ」でも黎明期には存在しました。Retasでペイントしたキャラの色がどぎつくて、コンポジットした完成映像はデリカシーのかけらもなくベタッと平面的で、透過光の代替処理はお世辞にも光っているとは言い難い表現でした。

 

私はそうした極初期の業界の「デジタルアニメ」を見て、「こんなふうになるくらいだったらフィルムの方が全然良い」と思っていました。私は最初の頃、コンピュータで彩色してコンポジットしたアニメを全然評価していなかった‥‥のは、自分の今の状況を見ると我ながら意外です。

 

しばらくした後に、故わたなべぢゅんいちさんに「江面君のイメージボードをPhotoshopに取り込んでみたから、見に来いよ」と呼ばれて見たら、質感も豊かな画像データとして表示されており、しかもトーンカーブ1つで色々な表現が次から次へと作れることに、「デジタル=ダメダメ」という意識が180度反転したのです。「これなら、今までのアニメではできずに諦めていたことが、どんどん実現できる」と認識が大きく変わりました。

 

つまり、使い方次第だった‥‥ということです。新しい道具と手段を用いるのなら、今までと同等は当たり前、さらに凌駕するくらいの内容が必須なのです。

 

要点はコレ。

 

従来の代用品ではなく、新しい表現の手段として用いる

 

言い換えますと、

 

今までできなかったことを、可能にする技術

 

‥‥が極めて重要なのです。

 

実際、Retasだけでは無理でした。Retasは「従来のペイントと撮影の代用品」から脱し得ず、アニメの映像表現に新風を吹き込むツールではなかったのです。ただの「コンピュータ移行製品」でした。しかも撮影に関しては、明らかに劣化していました。フィルムの麗しい透過光には全く及ばず、のちにAfter Effectsとの組み合わせが必須となりました。

 

 

 

カットアウトも同じです。

 

今までのアニメと同じデザイン(キャラなどの省略技法)、同じモーション(2コマ3コマの動き)、同じ画面のクオリティ、つまり、今までと同じアニメの内容をカットアウトで作っているだけでは、カットアウト独自の意義を広く問うことは不可能です。

 

代用品、代替品の意識でカットアウトを使うのではなく、カットアウトでしかできないことをどんどん実践しましょう。

 

「こんなの、絶対手描きじゃ動かせねえ‥‥」

 

‥‥と誰もが感じる一方で、

 

「これは3Dにも見えるけど、3Dなのか? 2Dなのか? 手描きなのか?」

 

‥‥と思う「手描き」のニュアンスも必要です。

 

‥‥まあ、Bloodのパイロットフィルムを作った時もそうでしたが、今までのアニメでは不可能な表現を見ると、特に通ぶった人はすぐに「これは3Dだ」とか言うんですよネ。理解不能なものは全て「3D」って、映像表現の技術者としてはかなり恥ずかしい反応なのですが、そうした手合いは放っておいても、せっかくの手描きですから3Dとは違った表現をいつも心に留め置くべきでしょう。

 

 

 

ちなみに、カットアウトは手間がかかります。

 

カットアウトだと楽に動かせる‥‥というのは、「言い方」次第ではありますが、半分当たっていて、半分外れています。

 

動かす効率が抜群なので、従来の送り描きの動かし方に比べて、未来の映像フォーマットとの相性が優れています。そういった意味では「楽」とは言えます。24コマフル、60フレームフルのモーションなんて、なかなか手描きでは効率的に難しいですが、カットアウトなら可能です。

 

しかし、効率こそ優れてはいますが、動きの知識と技術が「猛烈に必要」なのは、手描きとなんらかわりません。特に、60フレームフルモーションは動かす表現そのものがかなり難しいです。

 

むしろ、感性だけで絵を動かしている人は、その自分の感性を分解して体系化してカットアウトに利用できるように再構築しなければならないので、余計手間取って難しいかも知れません。なので楽ではないです。

 

カットアウトは、楽になる部分もありますが、手のかかる大変な部分も増えます。

 

しかし、そのハードルを超えれば、自分の手で絵を描くだけでなく、コンピュータまでも自分の分身のように使いこなせるようになるので、‥‥まあ、いやらしい話、稼げるようにはなるでしょうネ。今は希少な技術でもありますし。

 

 

 

現代のカットアウトは、コンピュータのソフトウェア上で実現します。

 

つまり、「切り紙」ではないです。「カットアウト」と呼び続けているのは、今でも「セル=セルロイドフィルム」「ログ=丸太」と呼び続けているのと同じで、慣習の名残りです。

 

コンピュータのテクノロジをふんだんに導入できる現代のカットアウトは、もはや、切って動かすだけのカットアウトではありません。三角メッシュ、ボーン、グリッドのメッシュ、トランスフォーム、XYだけでなくZ軸、必要とあらばパーティクルやフォームやポリゴンメッシュなど、あらゆるコンピュータの映像表現手段を盛り込んで、「カットアウト」できます。

 

 

 

足りないのは、実際に使える技術者。ホントに少ない。身近にいません。

 

ぶっちゃけ、弊社では私一人だけ。御社はどうですか? ‥‥なんとかならんもんですかネ、この技術の立ち遅れは‥‥。

 

コンピュータを所有しているアニメーターはやまほどいるだろうに、なぜ、カットアウトをやらんのか。

 

カットアウトができるようになれば、商業作品では難しい自分オリジナルの作品を短編とはいえ、フルに動かして作れるようになりますよ。

 

カットアウトを習得すれば、新たにアニメーションを作るチカラを自分の手で掴めるのに、プロダクションの助けがないと10秒のアニメすらすぐには作れない弱い自分に留まり続けます。

 

他人の原作で、他人のデザインしたキャラで、他人の執筆したシナリオで、他人が考えた演技で、他人に色を塗ってもらって、他人に背景を描いてもらって、他人に編集してもらって‥‥と、線画しか描かないアニメーターが「何の著作権を主張する?」のか、そもそも無理があるでしょ。冷静に考えればわかることです。

 

だったら、アニメプロダクションの仕事はそれはそれで引き受けつつ、「この映像は自分の著作である」と完全に言い切れるものを作れば良いです。その際に、何百何千何万と手描きで描くのは不可能ですよネ。

 

それにアニメプロダクションの商業作品にしたって、今後4Kに移り変わって、今まで通りの手描きで何千何万も描く路線で、本当に上手くいくと思ってます? だとしたら、相当計算に弱い人です。

 

一方で、アニメは1.5Kくらいで十分だ‥‥というのなら、それもまた相当、情勢に疎い人です。

 

NABINTER BEEの情勢を見れば、2Kなんてもはや過去のもので、4Kは当たり前になっています。アニメプロダクションはそうした世界的な情勢に目と耳を塞いで2020年代も経営していくんでしょうかね。4Kのビジネスチャンスを延々と逃し続けて。

 

アニメプロダクションのプロデューサーも監督も、NABやINTER BEEくらいは気にしておいても良いと思いますヨ。玉手箱を抱えた浦島太郎にならないためにも。

 

 

 

ペーパーレス、4K、HDR、手描きモーションとカットアウトのハイブリッド。

 

ごく普通に見通せる未来のビジョンです。

 

私はアニメを古典芸能にはしたくないです。現代とともに歩み続け、未来を生き続けていくのが、テクノロジーの申し子たるアニメ制作の姿だと思います。

 

近代のテクノロジー〜産業革命以後の科学の発展があればこそ、アニメも誕生したことをお忘れなきよう。

 

人畜無害路線で自然とともに生きる‥‥といったって、アニメは工業と産業の申し子ですヨ。野原で動物と戯れていたって、アニメを見るのはガチガチの工業製品ですからネ。

 

なので、アニメーターといえども、映像の技術進化は気にかけるようにしましょうよ。描いている線画が1カットごとのスタート地点になって、やがてアニメの完成映像となり、映像制作分野の1ジャンルをなすのですから。

 

線画の殻に閉じこもらず、外界の映像技術にも目を見開いて直視すれば、アニメーターが未来にどのようなチカラを手にすべきか、実感も湧いてくるでしょう。

 

 

 

ぶっちゃけて言いますが、

 

描きもカットアウトも、両方使えりゃいいじゃん。

 

‥‥ですよネ。

 

せっかく現代に生きて現代のテクノロジの只中にいるのなら、両方使えるのが色々とツブしが利きますヨ。

 

 

メモ

最新で商用の映像は掲載できませんが、古くは10年以上前に作ったカットアウトサンプルを再掲します。

 

*パーツの分割が大雑把なので、動きが少々カタいです。背景(実物を撮影)も含めて4〜6時間くらいでゼロから完成しました。全弾撃ち尽くして、スライドが後退して止まるのは、もちろんスライドを別パーツにしているから出来るのです。

 

*実際に本番でも使いました。2008年くらいの作品だったと思います。いきなり発生するように見えますが、手前にBOOKが乗りますので、コレで大丈夫です。煙の作業自体は数時間で、原画動画仕上げの所用時間と比べて劇的に効率的な上、割りミスは構造上絶対に発生しない強みがあります。

*手でも同じ煙は動かして描けますけど、とにかく大変ですよネ。割りミス・送りミスの巣のようなシチュエーションですし。

 

*作業の合間に、気分転換に遊びで作ったものです。2006年か2007年くらいだったような記憶があります。遊びが転じて、いつかこういう簡素な絵柄のアニメをオリジナルで作ってみたいと思っています。

*故意にクマの動きを3コマにポスタリゼーション(3コマのタイムシートの動き)しています。カットアウトの場合、素だとフルモーションなので、任意に動きを停止させて旧来の2コカ3コマの動きを作ります。

 

*3コマ動き+1コマPANの「ガタ」を説明するために、最近作ったサンプルです。背景もパスで作って、2〜3時間で作りました。10年前と比べて手際も慣れてきたので、このくらいの内容なら「お手のもの」になっています。

*シンプルなデザインなので簡単に見えますが、実際にコレを普通のアニメ制作でやろうとすると、24コマフルモーションなので結構大変です。

 

 

最新のカットアウトによる映像は、そのうち公開される運びとなりましょう。ベースのフォーマットは4KでHDRですし、技術も10年以上の試行錯誤の積み重ねを投入して作っています。‥‥技術の積み重ねは重要ですよネ。作画の技術なんてまさに地道な技術の積み重ねなわけですが、カットアウトも全く同じです。

 

私は「デジタルアニメ」が普及するまでの長い道のりを、リアルタイムで直に関わって経験しましたが、同じような状況を4KHDR、そしてカットアウトにも感じます。

 

最初はごく少数の人々だけが「確信」して夢中になって、他の人々は傍観して日和るだけだったのを思い出します。

 

せっかくアニメーターで絵を動かせる技術を持っていて、しかもパソコンまで使えるのなら、新しい技術をまずは体験してみることをお勧めします。日和ってたって、何も得られないばかりか、日和見層の中に居続けると結局はレッドオーシャンに飲み込まれる運命が待つだけです。

 

After EffectsでもLive2DでもMohoでも、できるところから始めてみてはいかがでしょう。

 

 


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