クロス引き・スーパー

‥‥というのも、今や昔の常識、消えた常識ですネ。

 

現在はコンピュータでのソフトウェアによるコンポジットなので、クロス引きも、タップの干渉も全くノープレブレム。何のことやらさっぱりわからない人もいると思います。

 

でも、もし大判の作画用紙があるなら、数枚用意して、80度、90度、100度、180度とそれぞれ重ね合わせて同時にスライドしてみれば、「タップをどう固定してスライドすれば良いか」わからなくなるでしょう。物理的に現物をスライドさせると、どのような制限が発生するか、紙でシミュレーションすればわかりますよネ。

 

ですから、コンピュータでコンポジットするようになって、何が一番自由になったかというと、異なるスライド方向の混在、そしてタップ位置の制限からの解放でした。

 

しかも、Bセルだけ「TU」=拡大することまで可能になって、「オプチカルに頼らずに済むなんて、なんて凄い」と当時思ったものです。

 

カメラワークの自由度が格段に増したのは、1990年代後半のコンピュータによる彩色とコンポジットの「隠れた大革命」でした。

 

コンポジットの機能でいえば、フレーム内にタップがあろうが、全く問題ありません。現在制作中の4KHDRの作品では、タップのために余白を設けるとそれだけで結構なピクセル数を消費することもあり、また、タップがなくても十分に位置を合わせることが可能なので、タップ自体を廃止しました。それでも全然問題は生じません。‥‥まあ、タップは紙作業との互換性が主たる目的ですから、ペーパレスの現場にはもはやタップがなくても運用可能だ‥‥ということを現在証明し続けて制作しております。

 

 

ちなみに、フィルム時代の昔から、宇宙空間のシーンで、静止画の宇宙船やロボットをTUなりTBして前後移動しているようにみせかける技術があります。

 

これは「スーパー」という撮影技術によるもので、まず1回目に宇宙の背景だけを撮影して、2回目にメカのセルにカメラワークをつけて撮影して実現していました。今でいうと、セルを「スクリーン合成モード」にしたような内容です。

 

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*雑な絵でスマンす。前回、前々回に引き続き、これもiPad miniです。

 

 

しかし、よ〜く見ると、セルの部分だけ星が描いていないのに気づくことでしょう。加えて、何か、メカがかすかに白く浮いて見えることもあります。

 

これには明確な理由があります。背景に星がまんべんなく描いてあると、スーパー撮影した時にメカの中に星が透けて見えてしまうからです。また、黒で塗られた背景部分も、実際は少し明るい黒なので、メカの暗部が影響を受けて明るくなってしまうのです。

 

3.jpg

 

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*スーパー(スクリーン合成モード)だからさ‥‥仕方ないよネ。

*この例は、星の透けだけで、「黒浮き」は再現していません。

 

 

なので、現場の人間が見ると、映像作品中で、星が描いてない部分を見るとすぐに「この部分に宇宙船が近づいてくる」と察知するわけです。

 

‥‥なんだか、壊れる建物だけがセル描きで「壊れる部分が、壊れる前からモロバレする」のと、ちょっと似ていますネ。

 

あたかも、「たまたま、その部分には星が少ないんだよ〜ん」というていで、難局を乗り切っていたのですネ。昔の人々は、ホントにバイタリティがありますよネ。

 

今みたいに、「なんでできないんだ! デジタルなんだろ?!」みたいなコドモみたいなダダをこねるのではなく、「できないのなら、こうしよう」とリソースが乏しいがゆえのアイデアをどんどん生み出していった先人には尊敬と畏敬の念が絶えません。

 

 

 

コンピュータソフトウェアによるコンポジットが導入されて、実は地味に、カメラワークの大革命が起きていたことを、今やもう、語る人は少ないでしょう。‥‥なので、不肖私が、ここに書いておきます。

 

ちなみに、拡大縮小に関しては「デジタルTU(TB)」「D.T.U(D.T.B)」なんて用語をひねり出したのに、「デジタルスライド」「デジタル引き」とは言わなんだネ。

 

クロス引き制限の解消は、アニメ映像表現の大きな転機だったのに。

 

 

 

クロス引きの大きな制限、個別の拡大縮小はさらに大きな制限、セルの透明度が100%でないばかりにセル重ねで色は変化し、セル影も「ニュートン」も出て‥‥と、今では発生するはずもない数々の制限の中、先人たちは名作と呼ばれる数々のアニメを作ってきたのですよネ。

 

凄い。

 

考えてみれば、私も、そうした先人たちの仕事に直接的にも間接的にも感銘を受けて、今の仕事を選んだのです。

 

先人に学ぶべきは、習慣や作法ではなく、数々の技法と表現を開拓した「折れない、強いココロ」です。

 

一方で、お金や労働の問題は、ほとんど改善されぬまま、今まで来ました。思うに、作業習慣がお金の習慣まで引きずり続けているのでしょう。

 

4KHDRの映像データをネットワークで配信して視聴する時代に、昔の16ミリや35ミリフィルム時代アニメ制作の猿真似をしても滑稽です。

 

先人の習慣を学ぶと、変なことになります。

 

学ぶべきは、先人の開拓精神であり、一方で、変えていくべきは習慣〜お金や労働の問題ですネ。

 

 


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