口パク

新しいアニメーションの技術〜アニメーターが描いた絵を、アニメーター自身によってコンピュータで動かす技術は、色々な技術面が従来とは異なります。最近ツイッターで見かけたクチパクやBG組みも大きく変わる要素です。

 

口パクの中割りの絵は閉じ口寄りか開き口寄りか。‥‥というお題を見かけました。

 

‥‥。

 

新しい技術では、どっち寄りでも可能‥‥といいますか、「無理に枚数でカウントせよ」と言うのなら、口パクは24fpsだと24枚ありますので、閉じ口寄りから中間、開き口寄りまで、「芝居にあった口の動きを使えばいいじゃん」というだけの話です。

 

よほどロングサイズでもない限り、「う」の口まで作りますので、昔の合作アニメのAからG(H)の口まで(‥‥と言っても、解る人はどれだけ居るか)みたいに口のバリエーションは豊かです。

 

しかもタイムリマップでいくらでも微妙な中間の絵は作れるので、口のバリエーションは実際のところ、24枚どころの枚数ではないのです。大袈裟に言えば、無限です。

 

口パクの話題は、2020年を前にした現在、レガシーな技術の象徴とも感じるのです。

 

 

 

「常識」という言葉ほど、移ろいやすいものはないです。

 

開き口寄りか否か‥‥は、作風に合わせて各所が好きにやれば良いことですが、セルワークに関してはコンピュータ導入前後で大きく変わりました。

 

レイヤーは100%の透過率である!‥‥というのが、まさにコンピュータを導入したアニメ制作現場の大革命とも言えました。

 

「何を言ってるのか」わからない人も今はどんどん増えているのでしょうが、昔、現実のセル用紙(アセテートフィルム)は無色透明ではなく、かすかに、しかし確実に目に見えて、濁っていました。

 

つまり、A,B,C,D,E‥‥とセルを重ねていくと、一番下のAセルはどんどん色がくすんで濁って、色が変わってしまったのです。これを逆利用して、「空セル数枚重ね」という色馴染ませのテクニックまで存在したほどです。(昔、監督・演出のわたなべぢゅんいちさんがよく使っていました)

 

例えば、横顔の口パクがあったとします。iPad miniで描いたラフなので、精度はご勘弁ください。

 

s1-2.jpg

s1-1.jpg

 

 

こうした動きを実現する際のセルワークは、現在では「かぶせ」による構成が一般的です。

 

pc-a.jpg

 

pc_b1.jpg

pc-b3.jpg

 

 

頰周辺で分割しても、同色の肌色なので一体化します。

 

しかし、フィルム撮影台時代、セル用紙&セル絵具時代は、このようなセルワークは「論外」「非常識」でした。

 

なぜだか、お解りでしょうか?

 

肌の無地部分で分割してしまったら、AセルとBセルの肌色がセルの濁りによって微妙に変化して、「被せてあるのがモロにバレる」からです。

 

現在の常識は、昔の非常識だった「典型」と言えます。

 

では、どのようなセルワークだったのか。

 

film-a1.jpg

film-a3.jpg

film-b.jpg

 

 

こうすれば、肌がそもそも1つのセルに収まっているので、難無きを得ます。

 

「なんだよ。いっそのこと、全部Aセルにして合成にしちゃえば良いじゃん。一枚削減できるし。」

 

‥‥というのは、フィルム時代&トレスマシン時代を知らない世代ならではのセリフです。

 

参考図では省略していますが、影のトレス、白目の境界線のトレスなどは、色トレス=ハンドトレスでした。トレスマシンが使えるのは実線トレスのみで、色トレスは枚数があるだけハンドトレスで作業していました。

 

つまり、どういうことか?‥‥というと、色トレスは「同トレスブレ」を発生するのです。セルワークが雑で、むやみに合成に頼ると、口パクのたびに、色トレスがふにゃふにゃ動いてしまうわけです。仕上げさんのハンドトレスの作業量も増加します。

 

神業のトレス精度を持っていたと言う伝説の仕上げさんの話は耳にしたことはありますが、それすなわち伝説レベルであって、ほとんどの色トレスは「同トレス」すると「同トレスブレ」が出てしまいました。

 

どこの誰が、0.1ミリも違わず、トレス線を同トレスできると言うのでしょうか。ほとんどブレて見えないという高い技術力はありましょうが、やっぱり、まるでコピペしたようにはハンドトレスはいきません。

 

不要な同トレスブレを防ぐには、セルワークの巧妙な構造が求められました。それは作画だけでなく、演出のスタッフの必須の知識〜常識でした。

 

「描いてある内容だけ、作画基準だけで判断せず、総合的にジャッジして最適解のセルワークを目指す」のが、求められました。

 

‥‥というか、ソレは今でも同じか。

 

 

 

興味深いことに、フィルム時代とコンピュータ時代では、口パクで用いるセル=ABセルが反転していますよネ。

 

常識というものは、その時代ごとの基礎技術によっては、180度逆転することなど、よくあることです。

 

「BG組み」という用語も、新しい技術では「懐かしさ」すら感じる古い言葉です。

 

レイヤーの構成で背景と人物(など)の前後関係が破綻しないように組むのは、新しい技術ではアニメーターの極めて基本的な知識です。「BG組み」は背景美術の書き味によっては簡単にズレますから、レイヤーの前後関係やマスクワークにて「昔のBG組みと同等の効果を得る」のがレイアウト作業時のアニメーターの技術です。

 

アニメーターがコンポジットの基本構造を知らずして、なぜレイアウトや原画を描けることがありましょうや。

 

作画はわかるけど、コンポジットのことはわからない‥‥なんて、建材・パーツは作れるけど建物は組み立てられないと言うに等しいです。組みあがった姿を思い描けないのに、どうやって、ピッタリと組み上がるパーツを作れるでしょうか。どうなるかはわからないけど、習慣と惰性で作る‥‥なんて、新しい「ものつくり」の技術では通用しません。

 

まあ‥‥レイアウトが、第2原画の下書きだと思うような風潮が蔓延しているので、レイアウト=画面の構成および舞台の設計図だなんて思いもしないアニメーターも中にはいるでしょう。結果、背景とセルの前後関係が破綻して、泣く泣く彩色と撮影のスタッフが「チカラワザ」でリカバーする‥‥という図式が出来上がります。

 

私はね‥‥、もうそう言うのは止めたいんよ。

 

コンピュータがこれだけ社会に普及して新しい技術を実践することはいくらでも可能なのに、昔の常識で自らを縛り続け、面倒で大変でお金を浪費する現状に甘んじて、「業界は金がない」だなんて、窮状の自作自演と言われても言い返せません。技術内容もお金も、時代からどんどん乖離する一方なのは、多くの人が実感していると思います。

 

ただ、常識を変えたくない人々が相応に存在するのもアニメ業界。

 

旧来の現場を立て直して改革するのは、「昔のままでいたい」人々が存在する以上、無理だと悟っています。

 

なので、新しい技術に取り組んでいるわけです。

 

 

 

口パクが三枚だと思い込んで疑わない、技術の習慣の限界。

 

本当に、2020年代以降は、技術の根本〜意識の根本が問われると思います。

 

 

 

 


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