Cの習慣

思うに、コンピュータがどんどん制作現場に入るようになって、コンピュータありきで制作が運用されるようになると、当然のことながら、コンピュータの知識や経験が現場にも常時必要となります。コンピュータを総称して「デジタル」と呼んでいるようでは、まだ「他人事」「聞きかじり」のレベルであって、実際にコンピュータでスクリプトやプログラム、ネットワークを活用したシステムを自分たちで作ったり運用したりすると、「デジタル」なんて言葉は紛らわしくて面倒なので使わないようになります。最近「デジタルソフト」なんて言葉を目にしましたが、思うに、現場が「デジタル」という言葉を自然と使わなくなる日が来たら、コンピュータが「根についた」証かも知れませんネ。

 

コンピュータの、特にプログラムを知らない現場の人間だけで、コンピュータ運用の規則を作ると、これまた面倒なことになります。‥‥実は、私が歩んできた道のりでもあり、「現場の人間にプログラムを知る人がいないことの不利益」は、身に沁みて実感しています。

 

かといって、制作現場を全く知らないプログラマー畑の人をいきなり呼んでも、制作現場にはありとあらゆる事情がひしめいていますから、融通が利かないのも困りものです。プログラムの都合のために、制作運用がやり辛くなるのは本末転倒ですもんネ。

 

つまり、「コンピュータ導入と制作運用の狭間で、双方が譲歩できる着地点」を見つけ出すことになります。

 

 

例えば、「カット」。

 

「カット」とは、アニメの本編における、何らかの被写体を捉えた映像の切り替わり(アニメは絵ですが、便宜上「被写体」と表現しておきます)の1単位を指します。もともとは、カメラの1ショットから部分的にカット=切り出した映像を紡いで編集したことに因ると思いますが、アニメの場合はショットという概念は希薄なので、どちらかというとマンガのコマ割りに近いでしょう。

 

まあ、由来はともかく、アニメ制作現場では「カット何々」という感じで、作業単位は「カット単位」になります。表記は、以下のように、

 

Cut 101

c101

 

と記述されます。

 

私は20年以上前、プログラムを習得するまでは、何の疑いもなく、カット番号を表記するときは、「C」を添字として使っていました。しかし、プログラムを覚えて、実際のアニメ制作作業に用いるようになると、「C」の必要性に疑問を抱くようになりました。

 

例えば、作品「アニメの日常=略号an」、話数「6話」、「カット20」を、アニメ業界の慣習で文字列として表記すると、

 

an#06c020

 

‥‥になりがちです。セル&フィルム時代から、「話数は#、カットはc」で書き表していたからです。

 

さて、これをプログラムで処理する際に、作品略号と話数とカット番号を抽出する時、結構面倒なことになります。例えば、JavaScriptですと、

 

//作品略号の抽出

"an#06c020".split("#")[0];

 

//話数の抽出

"an#06c020".split("#")[1].split("c")[0];

 

//カット番号の抽出

"an#06c020".split("#")[1].split("c")[1];

 

‥‥というようになります。

 

作品名(略号)、話数、カット番号を取得するのに、#やcを使って文字列を分解して抽出しています。

 

「全然面倒じゃないじゃん。このくらいやってよ。」と思う人もいるでしょうが、‥‥う〜ん、読みが甘いなあ。テレビのことしか考えてない。アニメには色々な公開形態がありますよネ。

 

劇場作品の場合、話数ではなく、シーンやパートで区切ることがありますから、例えば、劇場作品「アニメの日常=略号anm」、「Cパート」、「カット20」を文字列化すると、

 

anm#cc020

 

‥‥となり、CパートのCと、カット番号の添字のCが並んでしまいます。人間の目視でもややこしいですし、先ほどのプログラムでも問題が生じます。「cで区切る方法が通用しなく」なり、作品の状況に合わせてプログラムをいちいち変更し、使用者に再配布しなければなりません。

 

「c」という「あちらこちらで使われそうな文字」を使って文字列を分割すること自体が危ういです。もし作品略号に「c」が使われていたらアウトです。

 

そもそも‥‥

 

話数やカット番号に、#やcは必要??

 

‥‥ってことです。コンピュータの中まで持ち込む必要性は本当にあるでしょうか

 

なので、私らの作業班では10年以上前から、

 

作品名_話数・シーン・パート_カット番号

 

‥‥という基本規則を定めて運用しています。この方法ならば、

 

an_06_020

anm_c_020

ccc_c_020c

 

‥‥と、「区切り文字を除いたどんな文字でも」使用可能になります。‥‥まあ実は、OSのファイルシステム的にNGな文字は使えませんが、アニメ制作現場で用いる文字なら対応できます。実際、この方法で困ったことが全くありません。

 

アンダースコアで分解して、配列の第1要素は作品略号、第2要素は話数・シーン・パート、第3要素はカット番号という決まりを作れば、テレビだろうがPVだろうが劇場だろうがゲーム用ムービーだろうが対応できます。もし仮に「Cパートのシーン2」なんていう細切れが発生するような作品でも「an_c-2_020」と記述すれば対応可能です。

 

こうした文字列を要素で区切る文字を、デリミタとかセパレータと呼びます。「カット名やファイル名は単に名前であるに留まらず、基本情報を直列で文字連結して表したものだ」と考えれば、自ずと、デリミタで文字列を連結する発想に繋がります。

 

つまり、

 

プログラムの経験がないと、区切り文字と添字を混同して運用しがち

 

‥‥になります。作業カットの名前の付け方一つで、現場のコンピュータ活用スキルがバレてしまうわけです。

 

これは知識不足を非難しているわけではなく、前述した通り、私もプログラムを習得して使うようになるまでは「無自覚」でしたので、マズいのは「プログラムを扱える人間が存在しない現場で、コンピュータの運用を決めてしまう」ことです。

 

プログラムでの処理を知らないのに、なぜファイル名やカット番号の命名規則が決められるんですか?‥‥という話です。

 

プログラムを度外視して、単に作業習慣を文字列に置き換えるだけなら、作品の都度の都合に合わせて、延々と手作業でファイル名を打ち替えていくしかありません。さらには、大量の情報処理も全部エクセルで手書きで更新していくしかありません。プロジェクトマネージメント(PM)のソリューションで制作運用と進捗管理を支援‥‥なんて夢のまた夢です。

 

カット番号の「c」に特別な情報(バージョンや種別などのメタ情報)があるのならともかく、単に慣習で「c」をつけているだけなら、そんな慣習をわざわざ無理してまでコンピュータに持ち込む必要はあるでしょうか。

 

コンピュータを導入するときに、まさかカット番号を2進法や16進法に変えろ!‥‥という話ではないのです。

 

 

なので、現場の人間は、とっとと、プログラムを覚えてしまいましょ。

 

プログラマーとして飯を食うレベルになろうというわけではないのです。例えば、5000個のファイル名を一部変更するとか、EDLのテキストファイルを読み取って、編集点を抽出してAfter Effectsのキーフレームに変換するなんてことは、1〜3年のうちにできるようになります。

 

今のアニメ制作現場の弱点は、作業者がプログラムにあまりにも弱く、ソフトウェアをどう使うかだけに偏り過ぎていることです。プログラムに関しては、与えてもらうだけで、自分からは作れない。

 

誰かに頼り切るのではなく、自分でも多少のプログラムを作れるようになる。‥‥それがまず何よりも必要です。これから先、コンピュータを現場でもっと有効に機能させたいのなら‥‥です。コンピュータを知らずして、ソフトウェアのTipsだけ覚えて、どうやって、根本から効率的な制作運用が可能になりましょうか。

 

MacもWinも、色々なスクリプト・プログラムの入門があります。AdobeのPhotoshopやAfter Effectsを使っているのなら、JavaScriptくらいから始めるのも良いですよネ。

 

 

 


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