D問題・2

おそらく、コンピュータ関連の機材や技術に直接関与していない人間ほど、「デジタル」と言いがちなのかも知れません。私の作業集団では「絵を描く」と言えば、iPad Proやタブレットで絵を描くことを指し、いちいち「デジタル作画」とは言いません。逆に紙で描くことの方が今では珍しいので、「紙の作画」「紙のタイムシート」といちいち「紙の」と付け加えています。

 

仲間内で「いつもの場所に置いといて」も、常用するサーバのディレクトリを指しますし、「送る」「受け取る」もネットワーク経由での受け渡しがデフォルトなので、たまに郵送で届くとぎょっとします。

 

良い悪いの話ではなく、当人たちの普通・日常が何なのか‥‥が、使う言葉で透けてみえてくるわけです。

 

私は1996年からコンピュータをアニメの仕事に導入し始めましたが、やはり最初の頃は「デジタル」と自分でも頻繁に言ってたように思います。やがて、ネットワークやプログラムなど、コンピュータの技術要件に関わりはじめると、自然と「デジタル」という言葉は使わなくなっていきました。日常でコンピュータを使うようになり、デジタルデータを扱うのが日常茶飯事になると、「デジタル」という語句を付与する必要もなくなったからです。

 

 

「デジタル化の罪」という言葉を見かけましたが、ちょっと考えてみるとおかしな言葉で、「デジタル」そのものには罪はないですよネ。それを扱う「人々」が罪を生み出したのであって、「デジタル化」=「コンピュータの導入」そのものに罪が存在するようなイメージを言葉に覆いかぶせるあたり、「デジタル」が他人事のような言葉です。

 

1996〜2002年の頃は、「デジタル化」=コンピュータ導入の現場は「ホワイト」だったんですよ。単価もそこそこ高かったし。

 

私は「これでアニメの現場に光明が見えた」と当時思ったものです。フィルム時代の散々な状況を前に、私自身、潰れる寸前でしたから、特にそう思えたのです。撮影は1人で全カットできるほどお金もスケジュールも余裕がありましたし、今のような「二値化一択」でもありませんでした。作画とコンピュータのソフトウェアと掛け合わせて、作画技術にも大きなステップアップが可能でした。つまり、表現技術と制作運用の両面で、希望の光が差していたのです。

 

その光に暗雲が覆いかぶさったのは、2002〜2008年の頃です。あまりの状況の悪化・劣化に、耳を疑いました。多くの制作会社が大した準備も技術習得もせずにまさに「尻馬に乗って」「デジタル」を導入し、早々に「安売り合戦」が始まりました。

 

私は当時、テレビアニメの撮影監督を1クールだけやりましたが、線撮で300カット、追加の線撮とタイミング撮で150カット、本撮300カット、リテーク150カット‥‥と、300カットの作品に最低900カット(もっと増えることもある)を撮影する状況にまで、わずか2〜3年のうちに悪化したのです。

 

「デジタルの罪」‥‥って、導入初期からの経緯を踏まえた上で出てきた言葉には思えません。「デジタル」=コンピュータ導入に罪は無いよ。罪があるとすれば、「デジタル」を安売り合戦に悪用した人間たちです。フィルム時代から抱え続けた病巣が、安売りの悪習慣によってさらに悪化したに過ぎません。

 

 

コンピュータを知らないから、「デジタル」と呼んで、時には「悪人呼ばわり」「罪人呼ばわり」する。

 

コンピュータを知って、プログラムを知って、ネットワークを知れば、「こんなに画期的な能力があるのに、なぜ、現場は悪い方向にしか使えないんだ??? もっと良い使い方、有効で効果の高い使い方ができるはずだ」と思うでしょう。

 

コンピュータを「デジタル」としか呼べない「うわべの理解」のままだから、誤用もするし、誤認もするのです。

 

そんなにコンピュータ、「デジタル」が嫌で「罪がある」と言うのなら、今からでもフィルム撮影台を復活するなり新規制作して入手して、トレスマシンとセル用紙と絵具でセル画を作って、紙の背景と組み合わせて、2階ぶち抜きの大きな暗室で撮影して、フィルムを現像所に輸送して現像して16ミリラッシュフィルムでラッシュチェックして、ネガ編集してテレシネすれば良いです。

 

‥‥と言っても、今では各人各世帯に届けられるのは、デジタルデータ化した映像商品です。それともポジをデュープしてフィルム上映をしますか?

 

実は「デジタルの罪」とか言っちゃう人って、フィルムのこともあまり知らないのでは?

 

私が知るフィルム時代の撮影監督さん達は、「デジタル」〜コンピュータの映像技術のことを悪く言いません。何故かというと、純粋に技術的にジャッジした上で評価しているからです。とあるベテランの方は「俺がもうちょっと若かったら、1からコンピュータを覚えなおすんだけどな‥‥」と言ってたくらいです。

 

 

コンピュータのパワーを「デジタル何々」とか呼んで他人事にするのは、ホントにもう、やめません???

 

それをやり続ける以上、技術のカジュアルコピーも止まらないし、安売り薄利多売合戦にもピリオドを打てないと、私は思います。

 

若い人たちも、コンピュータの秘めたるパワーを、自分の手で解き放って大いに活用しましょうヨ。

 

 

 

 

 


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