ペーパーレスとインフラ

ペーパーレスの制作運用は、思うに、本人たちが「紙を使いたくない」とココロの底から思うことが、推進の原動力だと思います。「やっぱり紙のほうが使いやすい」と心のどこかで思っていれば、ペーパーレスは単に「やせ我慢」にしかなりません。

 

これはつまり、「運用上で紙が混在すると、コンピュータとネットワークで作業の流通が完結せずに面倒なことになるから、紙を介在させるのはイヤだ」と当人たちが素で言えるほどの「インフラの整備が不可欠」とも言えます。インフラが整っていないのに、無理にペーパーレスをスタッフに強要しても、それは単に「面倒地獄」でしかないです。

 

インフラが整備され、自由にコンピュータのデータを作業のニーズにあわせて取り回せる状態でなければ、「紙を使いたくない」とまで思うに至りません。ごく普通の日常として、自分用のPC/MacとiPad Proが連携し、サーバやクラウドサービスにアクセスして他者とストレスなくやりとりできるようになってこそ、「紙はオフラインで取り扱いが面倒な存在」として認識するようになります。

 

コンピュータを導入しただけでは、ただ「絵の素材や運用の情報がデジタルデータになっただけ」であって、洗練された現場環境は実現しません。むしろ、場当たり的なツリー構造やその時ばかりのファイル名で紙以上に混乱するでしょう。「紙の方がマシだった」と漏らすのは、「インフラ未整備」な時に、いかにも聞こえてくる話です。

 

でも、ふと冷めて冷静に客観して考えてみれば、インフラを含めた環境整備って、要素が山積みも山積みで、果てしない気分にもなりましょう。

 

まず、パーソナルコンピュータ

モニタ

場合によってはサブモニタ

マウスとキーボード

絵に関わる作業者にはペンタブ

作業用の高速な外部SSD

バックアップ用の外部HDD

無停電装置

それらをつなぐ接続コード類

 

‥‥で、ようやく個人環境の基礎です。しかし、それはハードウェアだけでソフトウェアはまだ含んでいません。

 

アドビのソフト

セルシスのソフト

Blackmagicのソフト

Autodeskのソフト

Appleのソフト

マイクロソフトのソフト

オフィス系のソフト

セキュリティ系のソフト

etc...

 

‥‥の「作業上」のソフトウェアが必要です。

 

それら個人環境単体ではアニメを作れません。複数人数のワークグループが必要となります。

 

コンピュータ複数を接続するネットワーク配線

コンピュータをネットワーク接続するシステム環境設定

ネットワークハブ

各フロアを接続する配線

ファイルサーバ(SMBプロトコル)

 

これで作業ができそうな感じに思います‥‥が、実際はこれだけではすぐに限界がきます。コンピュータにローカルアカウントを作成して、ネットワークでサーバに接続する際に、どうやって接続ユーザを設定するのか‥‥。メールを使う場合、まさか、Apple IDかGoogleアカウントを取得して、iCloudやgmailのメールを「会社」のメールにするわけにもいかない‥‥。

 

もう「ローカルアカウント」のユーザでは管理しきれなくなります。ユーザアカウントを管理統制するために、ディレクトリサービスやメールサービスを自前で立ち上げる段階に達します。となると‥‥

 

ディレクトリサーバー(LDAPやアクティブディレクトリ)

DNSサーバー

メールサーバー

社内コミュニケーション用のHTMLサーバーやWikiサーバー

ドメインの取得

 

‥‥なども必須になってきます。さらにiOS端末や、訪問者の端末を接続できるようにするには‥‥

 

WiFi

ネットワークのセグメント分割

インテリジェントハブ

 

‥‥などが必要になります。

 

もうお腹いっぱい‥‥ですよネ。私の知識と経験もそろそろこのくらいでいっぱいです。私は2000年代にここらへんの知識の必要性に迫られて、実際に自宅に10数台のマシンを稼働させて(当時はマシン処理性能も低かったので分散させていた理由もあり)、MacOSX ServerやBSDでDNSやLDAP(の前はNetInfo)を実働して基本的な知識を体得しました。しかし、それはあくまで小規模ワークグループでの話であり、100人規模の管理はしたことがありません。

 

つまり‥‥

 

コンピュータ機材のネットワークをメンテして管理制御できる専門のスタッフグループ

 

‥‥が必要になります。

 

最大にして最重要な要素=人間が必要となります。

 

「俺、パソコンを長く使ってて、得意だから」で済むようなレベルじゃないです。専門のスタッフたちが必要です。

 

数年前に業界の寄り合い会合で「作画のデジタル化」「ペーパーレス」などの目標を掲げたのを傍観しておりましたが、コストのことには全く触れられておらず、「なんか、耳障りの良いことばかり言って、中身が空虚だな」と思っていました。

 

ペーパーレスの実現は、イコール「たくさんの準備とお金」です。スローガンを掲げてすぐに実行できるもんじゃないです。

 

ただでさえ、お金がなくてピーピー言ってる現場の運用に、どうやってペーパーレスの環境を築けと言うのだろうか‥‥と、ごくごく普通に感じたものです。「未来を取れる」確信と、相当な覚悟がないと、ペーパーレスなんて実現のスタート地点にも立てないと思っていました。

 

 

システム管理のスタッフさんを、単に「パソコンを整備する人」と思ってませんか? それは作画をする人を「線を書く人」、制作進行さんを「電話をかける人」「物を運ぶ人」と認識するのと同じで、表面しか見ていません。

 

システム管理のスタッフさんたちは、パソコンをしかるべき状態にセッティングすることで、それらを繋ぐネットワーク全体がしかるべき機能を発揮して正常状態を維持するように努めているのです。ごく普通に正常動作しているコンピュータやネットワークは、作画が安定しているアニメと同じです。作画の人間だったら、その「安定を維持する」ことがどれだけの技術と経験が必要なことか、お分かりでしょう。

 

その辺りをわからず、インフラ整備やシステム管理を軽視するのなら、ペーパーレスなんて絶対に無理‥‥ですよネ。

 

 

思うに、「うちはペーパーレスを導入しています」と公言している会社は、相当、その辺を痛感して、ちゃんとシステム整備もしているからこそ、言えるのでしょう。ペーパーレスを真に実現しているのなら、インフラとシステムスタッフに相当にお金をかけている証しです。

 

逆に言えば、インフラの質や機能が低く、システムスタッフにも乏しい状況なら、そりゃあもう簡単に「紙の方が融通が効くよね」という話に決着するでしょう。実際に、完成の域に達している旧来の紙運用の現場で、ヘナチョコレベルのペーパーレスを申し訳程度に導入しても、匹敵することはありません。

 

中途半端に未来を夢見て「ペーパーレス」なんて手を出さない方が「身のため」でもあります。何も得られず、お金を無駄に失って終了です。

 

もしペーパーレスを啓蒙するのなら、耳障りの良いことだけではなく、必要なコストを正直に列挙した上で、インフラと作業環境が次世代レベルに達した時に「何が加速して旧世代を追い抜くか」を話せば良いです。

 

で、一番重要なことですが、

 

ペーパーレス環境では、ペーパー時代と同じ方法をを踏襲するに留まらず、新たな違う方法をどんどん導入して実践する

 

‥‥のが、最大のペーパー環境に対するアドバンテージです。

 

ペーパーレス環境なのに、絵コンテ・レイアウト・原画・動画・ペイント・美術・撮影‥‥という旧来の方法だけを踏襲し続けて、何の大きなメリットがありましょう。違う手法や制作技法が広く大きく実現できるからこそのペーパーレスです。

 

まさか‥‥ペーパーレスを「紙を使わないから節約できる」とか思ってはいませんよネ。

 

新しいアニメ制作手法を次から次へと発展させて導入できる素地・足場が、まさにペーパーレスです。‥‥ですから、何度も書きますが、過去のアニメ制作をなぞった「デジタル作画」は過渡的な技術でしかないのです。

 

 

ペーパーレスを実現すれば、「あれ? こんなこともできるじゃん」とか、「これができるってことは、アレもできる」と、手法のバリエーションが増えて、今までの「原動仕美撮」の決まりきったアニメ制作技法だけでなく、幅広い制作技法をリアルに実現できるのです。

 

ペーパーレスの環境作りにはかなりのお金と労力が必要です。その、苦労の末に手に入れたペーパーレス環境を、今までの刷り直し行為に徹するのか、奇想で野心的な様々な新しい技法を現実のものとするのか、まさに当事者たちの「頭脳」が問われます。

 

ペーパーレスでインフラも作業環境を更新したのなら、自分らの「頭の中身」も更新してこそ‥‥ですネ。

 

 


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