インチ、ミリ

ペーパーレス運用におけるレイアウト用紙のフレーム寸法を、紙時代、フィルム時代の名残りで、何ミリ・何インチかと規定するのは、やはり思考の出発点が「紙ありき」だからだと思います。フィルムカメラ時代は撮影台にセルと背景をセットして「スキャン」と同等の行為(=フィルム記録によるアナログデータ)が含まれていましたし、紙ベースの現在の現場もスキャナーによるスキャンが必須ですから、「現実世界の実寸ありき」で思考する癖がどうしても付きまといます。

 

しかし、その「癖」「慣習」は、オールデジタルデータ運用においては、もはや不要であり、いちいち「何ピクセルは何ミリ相当か?」みたいな慣習を引きづり続けると、状況把握の相違や混乱を招きます。

 

タブレットでアニメ作画(=映像作品)を描き始めたのなら、もうA4用紙やB4用紙のことは忘れましょう。

 

自分たちが扱うピクセル寸法の中で、どのような合理的なフローを形成するか、そこに注視すべきです。

 

 

 

スライド幅を「ミリ指定」するのは、紙時代の用紙の実寸が存在したからです。ピクセル寸法で全て取り扱われる運用においては、指定の際に旧時代のインチやミリを持ち出して、わざわざ変換計算で遠回りする必要はないでしょう。

 

スライド幅を指定したいのなら、範囲指定で全て解決できますし、何の不都合も生じません。もし不都合が生じるとすれば、ピクセルの相対感覚に疎い人、どうしてもミリで指定したい人です。

 

 

紙やフィルムの時代は、まず実寸のインチやミリがあって、その現実の寸法を、どのようにデジタルデータにするか?‥‥でした。

 

しかし、最初からコンピュータ機器で描く「ピクセル寸法」ベースのフローは、最初にピクセル寸法ありきです。なによりもまず実物の実寸があった昔とは、考え方が大きく異なります。

 

例えば、3840ピクセルの映像出力寸法が、iPadでは12.9インチや9.7インチ、4Kテレビでは50インチ等、iPhone Xでは5.8インチと、様々な実機の寸法で再生されます。リアルな実寸が存在するとすれば、映像制作の「後」なのです。

 

*「AST.1801」勧告による3Kレイアウト基準用紙(ファイル)‥‥ですが、Web用に縮小してあります。作品の品質基準に合わせて、2K、2.5K、3K、3.5K、4K、5K、8K‥‥と各サイズを制定してあります。私らの技術グループでは、この勧告による基準をもとに、作品制作作業を実施します。タップ穴はありません。

 

端末の性能によって、ダウンコンは当たり前の状況です。様々な機器や端末で作業し閲覧する現在の状況を鑑みれば、ピクセル寸法だって絶対的な指針にはなり得ません。

 

もしどうしても、絶対的な指針や基準が欲しければ、それはフレームでしょう。HD/UHD作品ならば、16:9のフレームの中に映像を収めることになりますから、1秒でフレームの半分だけ移動するレイヤーは「1/2fr/sec」ということになりましょう。

 

 

「でもさ。ミリやインチを仮想的にでも設定して、作品ごとのピクセル寸法の差異に左右されない、絶対的な描画空間を確立するのも、方法論としてはありじゃない?」

 

‥‥というのは、確かにそう思います。しかし、絶対的な基準を設定するのなら、私はミリやインチでなく、フレームの方が良いと思っています。

 

なぜかというと、ミリやインチは、それそのものは絶対的になり得ても、結局はフレームサイズが各社各作品でバラバラだったら、ミリやインチの寸法も流動的になるからです。

 

一方、最終出力のフレームは、16:9やシネスコなど明確にフレーム縦横比が規定されています。作業時に、10インチフレームだろうが、260ミリフレームだろうが、1920ピクセルフレームだろうが、4096ピクセルフレームだろうが、「フレームの半分の長さ」と指定すれば映像の中身が一致します。どんな会社のどんなレイアウトフレームにも、フレーム比率で指定すれば、同一の結果を映像上で得られます。

 

 

「フレームの『4分の1』」という指定ならば‥‥

 

10インチフレームの場合:2.5インチ

260ミリフレームの場合:60.5ミリ

1920ピクセルフレーム:480ピクセル

4096ピクセルフレーム:1024ピクセル

 

 

‥‥というように、どんなレイアウト〜カメラフレーム規格でも、指定と結果が一致します。

 

マスモニを前にして、監督さんや演出さんがスタッフにイメージを伝える時に、

 

1秒で右から左に6cm動くくらいの速度で‥‥

 

なんて指示するよりも、

 

1秒で右から左にフレームの1/4動くくらいの速度で‥‥

 

‥‥と言ってくれたほうが、格段にイメージが共有できます。今見ている「画面=フレーム」の1/4ね‥‥とその場でイメージできるからです。なまじ、ピクセル寸法で言われるより、具体的です。大判フレームだったら、フレームに対するピクセル寸法だって増えますから、ピクセル寸法すら流動的なのです。

 

実写もアニメも3DCGもフレームの幅の比率で指示すれば、うまく伝わります。「人物をさ、真ん中じゃなくて、右寄りに、フレームの3/5の位置くらいにちょっとズラして」と言えば、実写もアニメも3DCGも意思の疎通が容易です。アニメ業界の流儀で、ミリやセンチで言われたって「はあ?」です。

 

まあ、アニメ現場慣れしてれば、センチメートルで言われても、慣習で「レイアウト用紙で言うところの6cmなんだろうな」と解釈するわけですが、一方で、「この作品のレイアウト用紙って、A4だったっけ? もしかしたらB4? あれ? この会社のレイアウト用紙100Fって、何センチの幅だったっけ???」‥‥というような会社ごと・作品ごとの差異をいくつも頭の中で換算・変換しなければなりません。

 

もう、そういうの、終わりにしませんか?

 

新しい時代の、合理的で生産的で効率的な現場を、最大限意識しましょうよ。

 

もっと、映像本位に考えて、その新しい映像作りによって人々が昔のビンボーから脱して、現場を肯定的に受け止められる未来にしていきましょうよ。

 

インチとかミリとか、タップ穴とか、無意識にでも過去の遺物を持ち出して未来の現場を縛ろうとする時、その影響は、決して過去から変わることのできない現場の未来へと通じるでしょう。

 

 

でもね。

 

やっぱり、実際に未来志向の方式でやってみて、「何を絶つべきか。何を継承すべきか。何を新しく考え出すのか。」がわかってくるのです。私だって、10年前くらいは、レイアウト用紙は何ミリの横幅で‥‥とか、考えていましたもん。頭の中だけで考えるだけでは限界があります。実践してみて判ることは、とても多いです。

 

「ああ、自分の考え方は、形骸化していたんだ」と、妙なプライドを捨てて自覚できるようになるまでには、相当時間がかかります。そして、歳を食えば食うほど、頑固で変われない自分になってきます。

 

年長者こそ、柔軟な思考をいつも心がけないとさ。

 

古ぼけた慣習に縛られた、滅びゆく「かつて栄えた業界」になってしまいますヨ。

 

 

昔取った杵柄は、必ず有用であるとは限りません。未来の可能性を阻む災厄にすらなり得ます。

 

年長者こそ平和ボケせずに、戦史に学びましょう。Kindle「デミヤンスク包囲戦」の一節をアマゾンから引用します。

 

 

多くの社会的事業と同様、戦争においても「成功経験」は必ずしも組織の強化や判断力の向上に繋がるとは限らず、逆に特定の条件下における「成功経験」に惑わされてそれを一般化することで、後により大きな「破滅」を生む温床となることもあったのです。

 

 

恐ろしい教訓です。自分の成功経験や知識が、裏目にでることもある‥‥なんてネ。

 

でも、年長者こそ、胸に留めるべきです。数多くの経験を有しているのは、物理的に年長者ゆえ‥‥なのですから。

 

 

インチとミリで現場の基準を作った成功例が、果たして、未来にどれだけ有用か。

 

よく考えてみましょう。

 

 

 

 

 


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