映画館の存在
最近、ブルーレイ上映をおこなう映画館も出てきて、映画館の存在理由って何だろう‥‥と思いふけることがあります。もちろん、「大画面、大音響」は映画館ならではですが、映像そのものはRec.709だし50Mbps程度だしで、ご家庭感丸出しのスペックです。
しかも、最近の劇場アニメは、ちゃんと端正に作っているものはどんどん減って、テレビシリーズ感丸出しのものも多いです。加えて、1.5Kのレタスの二値トレスは、何を弁明しようが、物理的な要因により、線画のクオリティはどうしても低くなります。1.5Kを2Kにしても、どんぐりの背比べでしかありません。
*私は、超絶に綺麗な動画の線が、レタス二値線で見るも無残に凡庸になったのを、まさに撮影素材ファイルとカット袋の生の動画で、何度も見比べて確認してきました。しかし、それは仕上げさんの責任ではなく、あくまで「二値」というメカニズムの宿命、二値処理の原理ゆえです。私の知る彩色のスタッフさんたちは、二値という技術品質的ハンデの中でも、最良の結果が得られるよう、最善の作業をしてくれる人ばかりであることは、付け加えておきます。
映画館は、あらゆる面で、映像作品の上映環境としてスペシャルであってほしい‥‥と思いますが、現実的には難しいです。そもそも、もとになる映像作品のスペックが、特に日本のアニメは停滞して足踏み状態にありますもんネ。
じゃあ、映画館で上映するアニメのスペックは、どのようなものが未来にふさわしいか。ちょっと私なりに考えてみました。
- 4K以上のビデオ解像度
- 4K以上のビデオ解像度にふさわしい絵柄の密度・詳細度
- 48fps以上のフレームレート
- 500〜1000nitsくらいのHDR
- 非圧縮と同レベルの画質を保つビデオコーデック
- 上下左右前後の立体音響
いくつかはご家庭の4KHDRテレビでも実現可能な内容ですが、映画館でなければ無理だろう‥‥という内容も相応に含まれています。無論、劇場作品の予算でなければ到底制作不可能な内容でもあります。
仮に、「お金はいくらでも集めてくる。だから、上記スペックで映像を制作してほしい」‥‥と言われて、制作できる会社ってある?
‥‥‥‥ないよね。残念ながら。
金をどんなに用意してもらっても、今のアニメ制作会社では無理です。「アップコン」では「作れた」とは言わないですしネ。タイムシートが24コマ縛りなのが、まず最初から「無理」な理由ですし。
私は上記スペックを実現する技術をどんどん進めてはいますが、残念ながら「長尺」はまだ無理です。技術構築や実戦経験が足りないです。
だからといって、テレビのブルーレイで観れる内容を、アマチュアの上映会みたいに、映画館で流す‥‥というのは、やっぱり寂しいものがあります。
狭い国土、資源の乏しい大地。ゆえに、日本は「技術立国」を目指したのではありませんか? そして、過去に成し遂げた時期もあったのではないですか?
その技術立国日本が、ブレーレイ上映会だなんて、私はとても悲しく感じます。映画館どうこうよりも、映画館で流すに値するスペシャルな映像を作れないアニメ業界の現実に、落胆すると同時に、沸々と闘志も湧いてくる想いです。
ブレーレイ程度の映像を作って、「ウチは商売できてる」と思う制作集団は、まあ、そのまま未来もいけば良いと思います。新技術勢力と競合しないので諍いを未然に防げますし、実際には新技術なしではHD24pが「できる範囲の全て」でしょうし。
新技術を今後の主力と定める私は、テレビならテレビ、ネットならネット、そして、映画館なら映画館と、それぞれの特性に合わせて、最適な完成像を作り出したいですし、今、技術が足りないのなら、未来に向かって確実に、技術を高めていけば良いです。
*現在の「デジタルアニメーション」(昔はそう呼ばれていました)の隆盛も、最初はほんの数社が「短尺」で技術と経験を積み上げ、やがて「長尺」も作れるようになった経緯を、まさに実地でリアルに関わっていました。今から20年前のこと‥‥ですネ。なので、「どうすれば良いか」また「どうするとマズいか」はよくわかります。
映像・音像でしか作れない作品を、その時代の最高の映像スペックで表現したいと思うのです。
言葉ですべて言い表せるなら、音はいらない
言葉ですべて言い表せるなら、絵はいらない
映像作品を作る意義は、
言葉では言い表せないものを、絵と音、映像と音像で、表現する
‥‥ことだと思います。それ以外に何か意義があるのだろうか。特に、作り手の心情として‥‥は。
2020年代の映画館、テレビ、ネット、それぞれのスペックを満遍なくドライブしきる映像作品を作っていきたいです。
拡大出力とかアップコンとか、作り手側の侘しい事情で、絵を決めてしまうのではなく‥‥です。打算的で限定的な制作に甘んじ続けるのではなく‥‥です。
ゆえに、限界見え見えの旧来のアニメ制作技術ではない、新しいアニメーション技術体系を2018年の今年もどんどん先に進めていこうと思います。
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がらりと話は逸れますが、1967年生まれの私が今の歳になって、何かしみじみと感じ入るのは、ビートルズ〜マッカートニーの「The Long & Winding Road」〜「長く曲がりくねった道」という曲です。
映像の作品を作って生きていく‥‥というのは、ほんとに、「長く曲がりくねった道」ですネ。
本家ポールだけでなく、ジョージ・マイケルの歌声も、透き通っていて素敵ですヨ。
リアルな恋人を歌ったラブソングではないのは、まあ、歌詞全体を読めば明らかです。歌詞の中の「You」「Your」は「君」というよりは「あなた」。つまり、「創作しようとする何か」、もしくは「創作しようとする自分を惹きつけ続ける何か」と読めば良いです。特に、何かを本当に、真剣に作ろうとしている人間には、です。
でもまあ、今は感傷に浸る時期ではないので、ザクザクと進めて行きますヨ。