髪の毛が透ける処理

アニメ制作関係者のちまたの話題で「多重組みに困っている」という話題をよく耳に(目に)します。原画マン(アニメーター)や演出チェックが気づかないのが悪い‥‥という論調になりがちですが、髪の毛のなびきと表情変化の組み合わせでありがちな多重組みの問題は、そもそもキャラクターデザインが多重組みの問題を頻発させる起点である‥‥のは、現場の人ならお判りですよね。

 

アニメのキャラデザインってさ‥‥。そもそも「作画枚数が多いことを最大限考慮」していたはずですし、「セル重ねの限界を考慮」していたはずです。

 

‥‥なのに、今は、原作がそうだからなんていう理由で、安易に髪の毛を透けさせるよね。原作の絵がどうであろうと、アニメ制作技術を考慮した上で、キャラデザインはおこなわれるべき‥‥ですが、そうもいかないのも「大人の事情」なんでしょう。アニメ現場のキャラデザイナーの主張が100%通るとは限りませんしネ。

 

私は作画もやりますしコンポジットもやりますから、今、自分の描いている「髪の毛が透ける処理」の原画が、セルワーク的に非常にめんどくさいことになるのを、描きながら自覚しています。‥‥が、髪の毛が透けるデザインであるがゆえに、そのめんどくささをどうしても回避することができません。できることといえば、髪の毛と表情変化のコマ打ちを揃えること‥‥くらいです。(髪の毛と表情変化の動きがズレていると、アホみたいに多重組みが複雑化します)

 

髪の毛が透けている風に描く処理=目と眉の線が髪の毛に描き込みの場合、考えるだに虫唾が走るめんどくささになります。顔本体をAセル、目と眉をBセルにして表情変化、髪の毛のなびきはCセルでリピート‥‥って、ハイ、多重組みのいっちょ上がりです。

*実際の処理は、二値化の利点を生かして、「合成」ではなく「組み」(=目と眉の部分がヌキになっていて、下のセルが透ける)で処理されることが多いようです。二値化ですと、階調トレスと違ってアンチエイリアスがないので、完全に合致するセル組みが可能です。

 

 

*体と顔の肌がAセル、目と眉と口がBセル、髪の毛がCセルです。

 

Cセルは、目と眉が描き込み(もしくはBセルと組み)なので、下図のような状態です。

 

 

表情変化をBセルで動かすと‥‥

 

 

Cセルも一緒に描き込みの目と眉を更新しないと、下図のように、髪の毛の中だけ、目と眉がズレてしまいます。

 

 

なので、下図のような意図した通りの絵に仕上げるには、

 

 

Cセルの髪の毛の中身も絵を更新しなければなりません。

 

 

‥‥一見、大したことがないように思えるかも知れませんが、髪の毛がなびいて動いていて、かつ表情にも動きがある場合、双方の動きの交差に合わせて合成(組み)をしなければならないので、とても面倒な処理になります。

 

原画マンが多重組みに無自覚な場合、タイムシートも当然、多重組みを反映していないシートになります。動画も髪の毛の中に透ける目と眉は仕上げ時に合成(組み切り)‥‥なんてスルーすると、仕上げさんのところでセル番号を修正する必要が出てきます。

 

で、その修正したセル番号が撮影で通用するのなら良いのですが、私が見た仕上げさんのファイル名=セル番号は例えば、「C_0001-B3.tga」「C_0001-B6.tga」みたいなAfter Effectsで扱えない番号表記(連番になっていない)になりがちです。B3の時のC1は「C1-B3」、B6の時のC1は「C1-B6」みたいな表記になって、イメージシーケンスとして全く破綻した連番になります。しかも、そのセル番号は、タイムシートには記述がないので、撮影時に解析しながら、番号を振り直して、シートを書き換える手間を背負うことになります。

*言葉で書くと、なぜそんなまどろこしいことをするのか、中々わかりにくいのが多重組みの「罠」です。実際に絵が動いてみれば、判るんですけどネ。

 

仕上げさんは多重組みを解決しようとパズルのような面倒な合成(組み切り)処理を作業する。撮影さんはファイル名とタイムシートを書き換えて正常に撮影できるように作業する。

 

じゃあ原画マンが手抜きをしているのか?‥‥と言えば、実際問題として、多重組みを盛り込んだタイムシートなんて原画時に書きようもないです。演出時にタイミングの変更をおこなえば、多重組みのシートなんてあっという間に崩壊しますもんね。作監チェックOK後でタイミングがフィックスした後でないと、多重組みのシートなんて書けません。

 

動画マンがシートを変更すれば良いのか‥‥とも言えそうですが、仮にラッシュチェック時に演出さんが「表情変化のタイミングの位置をズラします」なんて言ったら、「え〜〜〜!」という事になりますよね。多重組み対応のシートや合成(組み切り)はすべてオジャンです。

 

要は、髪の毛が透ける処理自体に、かなり問題がある‥‥ということです。

 

それにさ‥‥、猫も杓子も髪の毛を透けさせる傾向があるけど、‥‥ほんとにそれって綺麗な処理? もはや、惰性と化して久しいように感じます。

 

「髪の毛が透ける処理」1つとっても、私は「もう旧来の現場はダメだ」と思えてしまうのです。「透ける髪の毛の多重組み」を想像しただけで、頭が痛くなってきます。

 

どこかの誰かがズルしているのではなく、現場の構造や受発注のニーズが関わっている「現場全体の問題」の「エキス」のような存在が、「多重組みの問題」だからです。誰か一人が心を入れ替えて解決できる小規模な問題ではないのです。

 

 

じゃあ、新技術の新現場はどうか?‥‥というと、「いくらでも髪の毛は透けてOK」です。多重組みなど全く必要なしです。

 

なぜかというと、新技術では「髪の毛を実際に透けさせれば良い」からです。「透けてる風に髪の毛に目や眉を描きこむ必要がない」のです。いちいち髪の毛のセルに目や眉を合成するなんて面倒なことは無用です。

 

超簡単。しかも、絵的にも透明感のある仕上がりになります。

 

「拡大作画」もよく話題になりますが、新技術ベースはそもそもキャンバスサイズが大きいので、拡大作画などしなくても絵のクオリティは保たれます。「新型」の技術に拡大作画は無用です。

 

旧来作画現場での「拡大作画」の話を耳にするたびに、旧来品質の崖っぷち状態を痛感せずにいられません。性能不足と練度不足、システム崩壊の中で、バタバタと撃墜されるマリアナ沖海戦=「Turkey Shoot」と呼ばれた旧日本軍機の悲劇を思い起こします。

 

みんなで凄く頑張ってるのに、状況はむしろどんどん苦しい方向へと流れていき、勝つための戦争から、いつしか、負けないための戦争へと消耗の限りを尽くしていく‥‥という点が、太平洋戦争末期によく似ています。

 

 

 

旧来技術で構成された現場は、旧来の限界に束縛されがちです。多重組みや拡大作画などで「付け焼き刃的に」可能領域を広げようとしても、広げた反動でどこかにしわ寄せがいきます。

 

多重組みはその「限界と束縛」の最たる例です。

 

 

戦時中、プロペラ機に補助動力を追加しても、性能不足を解消できなかったように、旧来技術で運用する現場は、例えデジタル作画やデジタルペイントに切り替えても、技術の限界に束縛され続けます。デジタル作画に切り替えても、多重組みは存在し続けるでしょう。

 

私は「ジェット機」に乗り換えて、限界を突破しようと思います。今は色々と問題のあるジェットエンジンも、根気よく改良を進めていけば、必ず主戦力として使い物になると確信しています。

 

プロペラ機だろうが、ジェット機だろうが、パイロットは必要です。‥‥要するに、未来にどちらを選ぶか‥‥ということだけです。

 


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