種を蒔く。事を導く。

ふと思えば、現在行動している「元」は、10年くらい前に行動していたことの結果といえます。ある日突然、思いもしなかったことが実現しようはずもなく、必ず「蒔いた種が発芽して生育した結果」が現れます。実がなるかどうかは、生育の状況次第ですが、とにかく、種を蒔くからこそ、芽が出るわけです。

 

しかし、「今の行動が、未来の種となりえるか」が察知できるようになるには、相当な経験が必要になります。ゆえに、絶対的な「生きた時間」が少ない20〜30代の頃は、10年単位で状況を俯瞰視することは難しく、「今、これをやっておくと、いいかも知れない」という漠とした感覚で行動します。もちろん、若ければ若いなりに当時は一生懸命「合理的に」考えては見るのですが、いかんせん、経験の蓄積途中にあるので、10年規模の発展予想図など、思い描きようがないのです。もし何らかの取り組みと発展の予測を可能にできるとすれば、歴史書から学ぶほかはありませんが、20〜30代の頃は「今を切り拓くのに必死」な状況が続くため、「10年単位でものを扱う」ことなど中々実践できるものではないのです。

 

では、40代以降はどうでしょう。

 

私が今、アニメの旧来制作システムに別れを告げて、新たな「次世界」の一歩を踏み出そうと心から決心できるのは、アニメ業界での状況を見据えることが「私なりの30年間の視点において」可能になったからです。

 

10年間だけでは判断が難しい、20年間だと経験は蓄積できているが複数の可能性から1つを選択するのに迷う、30年間だと‥‥まあ、それなりに判断ができるようになってきました。私は現在40代の終わりですが、今と同じ決心を20年前のアラウンド30の頃にできたかどうか‥‥は、かなり難しいかなとは思います。

 

 

新しい技術と制作体系で切り拓いていく未来には、多くの困難もつきまといますが、多くの明るい希望も見えます。明るい要素の中で、一番わかりやすいのは、「未来映像技術」、そして「お金」です。細かい絵柄=4K8K、滑らかなモーション=60〜120p、濃く深く鮮やかな色彩=HDR、そして、人ひとりに分配される作業費が大幅に向上できます。

 

私は旧来のアニメ技術に対して、どうしても、暗い未来の感情が拭えないのですが、それはまさに上述の「未来映像技術」と「お金」の面で圧倒的に不利だからです。新しいアニメ技術では有利に作用して追い風になってくれる世界規模の映像技術進化が、旧来のアニメ技術ではことごとく不利に作用して向かい風になるのです。アニメ業界の仕事だけをこなしていると「何が不利なのか」も具体的にわかりにくいのですが、2K24p(実質は8〜12fps)SDRで打ち止め状態のフォーマットと、大量の絵を描かなければ映像が作れない技術基盤は、「かなりヤバい」立ち遅れです。日本のアニメで用いる映像フォーマットはまさに前時代の遺物と化そうとしている一方で、制作費は全然足りていない‥‥という、深刻で大きな障壁が立ちはだかります。

 

では、「デジタル作画」と「デジタルタイムシート」だったら、どう改善できるでしょうか。「デジタルの作画とデジタルのタイムシートという種」が、どのように育っていって、10年後にどのような実を結ぶかを想像してみれば、「デジタル作画」が支える旧来アニメ現場の未来も見えてきましょう。

 

その未来、つまりは、

 

デジタル作画とデジタルタイムシートは、アニメーターの作業報酬を根本的に改善できるか?

 

‥‥かというと、まあ、できませんよネ。なぜかというと、

 

  • デジタル作画で可能になる細部の描きこみによって、今よりも一層、1枚を描くのに時間がかかるようになる
  • デジタル作画とデジタルタイムシートに移行しても、3000〜8000枚の作画と仕上げが必要なのは同じ
  • よって、制作費を分配する構造には変化が生じず、作業者ひとりに分配される作業費は、抜本的な改善が困難

 

‥‥という様相が、見えてきます。

 

今、デジタル作画とデジタルタイムシートを推進している人々の頭の中には、どのような「10年後のビジョン」が見えているのでしょうか。

 

私なりに、「デジタル作画」から見える10年後のビジョンを文字にすると、

 

  • テレビ作品の原画単価5000〜6000円
  • テレビ作品の動画単価300〜400円前後
  • テレビ作品の作画枚数4000〜8000枚
  • 4K対応の細かい絵柄を描くことにより、上記単価の向上は実質打ち消される
  • 作画の労力をカバーするための、今以上の随所にわたる撮影のテクスチャ貼り込み
  • 1話あたりの制作期間、作画〜撮影で1.5ヶ月
  • マシン環境を標準化するために、更新されずに固定されたソフトウェアとハードウェア
  • 24pのまま

 

‥‥という感じです。

 

中々、厳しい未来です。‥‥わたし的には「絶望的な未来」です。作業の金額だけでなく、作業期間の短さは、人件費を低く抑えるための常套手段なので、絶対に外せないでしょう。

 

作業内容が今でも釣り合っていないのに、さらに作業状況が過酷になっても、作業費は現在の1.5倍くらいがせいぜいでしょう。過去10年セグメントで、どのように社会とアニメ制作現場が「経済的に」変わってきたかを振り返れば、大体の予想はつきましょう。

 

デジタル作画とデジタルタイムシートの目指す10年後の未来は、道具がコンピュータに変わりこそすれ、作業者の苦しさはあいも変わらずの未来‥‥だと私は強く思います。「デジタルワークによって、効率化が図られて」と言う人もいるでしょうが、私の知るところの実例では、デジタルも紙も同じ単価で、同じだけ時間もかかるようなので、「効率化=お金」という図式は「デジタル作画」には当てはまらないようです。‥‥でもそれは当然で、数千枚も細かい絵柄を描いてれば、紙だろうがペンタブだろうが、作業内容が厳しいのは変わるわけがないのです。

 

「だからこそ、制作費を2倍に」‥‥というのは、実現性の乏しい主張です。

 

それを言うのであれば、「国家予算がせめて2倍あれば」「給料が2倍になれば」と誰もが思うでしょう。「制作費を2倍に」できる「根拠」がなければ、決して2倍にはなりません。祈ってれば成就するような空想物語ではないのです。

 

 

 

「どんどんデジタル作画の機運が高まっている。これからは作画もシートもデジタルだ」

 

‥‥と盛り上がるのは、20代の若い人ならある程度しょうがないです。しかし、30代後半から50代にもなろうとする人間ならば、「種を蒔いた後の10年後」は想像できるはず‥‥ですよネ。

 

 

「絵コンテがあって、作打ちして、まずレイアウトと1原を描くよね。その時に使うのはペンタブか。‥‥で、2原を描くときもペンタブで‥‥まあ、ペンタブなのは、慣れるとして、‥‥‥‥で、お金は? 作画する内容は?」

 

 

アニメ業界の、しかもアニメーターは、世間からブラックと呼ばれている現状から抜け出したいわけですよネ。

 

なのに、不思議‥‥ですが、なぜ、道具を変えて、同じことを繰り返すのか

 

10年後にブラック構造から抜け出たいのなら、今、「ブラックから抜け出すための、未来の元」を作り出す必要があるのですが、それが「デジタル作画」と「デジタルタイムシート」でしょうか? ‥‥私には、全くそうは思えないのです。

 

「デジタル作画」と「デジタルタイムシート」のどこに「ブラックからの解放」の要素が内包されているのか、正直、私には全く見えないのです。「ブラック状態から抜け出す画期的な要素がデジタル作画には欠けている」と感じます。道具をコンピュータにすげ替えたところで、今と変わらぬ未来がアニメーターには待ち受けています。‥‥本当に、現場はそれ=今と変わらぬ未来を望んでいるのでしょうか‥‥‥ね?

 

「お金の問題と、デジタル作画は、別枠の話だ」‥‥と言う人もおりましょう。しかし、「作画」の内容はアニメーターのお金(=作業時間)の問題に直結するのですから、切り離して考えるべき問題とは、少なくとも私は思いません。お金と作業のお話はあくまで同列に、双子の兄妹のように扱うべき問題と認識しております。

 

 

私は今から10年くらい前に、いわゆる「カットアウト」「キーフレーム」アニメーションの技術を「実用目的の技術」として取り組み始めましたが、まさに10年後の今、小規模ながら確実に芽を出し生育も進み、実を結び始めています。さらにその10年前、今から20年前に、煙などのエフェクトや鉄柵などのBOOK(切り抜いた背景のこと)をAfterEffectsで動かす試みを既に開始していました。自然界のサイクルのごとく、すべて「物事は時系列で繋がっている」ことを強く感じます。

 

「10年前に種を蒔かなかったら」、新しい技術の草木1本も私の周囲には存在しなかったでしょう。

 

ものすごくシンプルな物事です。種を蒔くからこそ、芽が出て育つ。

 

 

 

「作画をペンタブに切り替えて、タイムシートもデータ化して、旧来の原画動画単価で描く」という種を蒔いたのなら、その通りの延長線上の10年後が待っています。

 

「作画の新しい技術体系を地道に形成しつつ、徐々に作業実績を積み重ねていく」という種を蒔いたのなら、同じく、それに値する10年後が待っているでしょう。

 

 

最近、UHD BDと有機ELテレビのメーカーのデモを見て、一方でNetflixを視聴し始めて欧米のアニメ技術を垣間見て、未来のアニメのカタチが一層明確に見えてきた感慨があります。そして、度々報道される、アニメ業界の「ブラック構造」も、「10年後に、どんな現場で、どんな作り方で、どんな商売をして、アニメと関わっていたいか」という意識を、逆に「ブラックだ」と言われることで明確に自覚できるようにもなりました。

 

デジタル作画が導く10年後の現場で、どれだけのアニメーターが幸福感を感じていると想像していますか?

 

あいも変わらずの「アニメ作品に対するファン心理を人質にとった」ような働きかたを強制し続ける10年後ではないですか?

 

私は心底、そういう「憧れ」「生きがい」を質に入れて、二束三文で労働する「今までのアニメ制作現場」の構造に、疲れ果てたのです。‥‥だから、疲れ果てない、失望しない現場を作り出すことが、どうしても必要なのです。

 

もしかしたら、多くの人は疲れ果てて辞めていくのかもしれません。しかし、私にはまだまだ十分すぎるほど、アニメに対して、キング牧師みたいな言い方ですが「私には夢がある」のです。私は、過去30年の映像制作において何度となく、種を蒔いて育てたことが実を結んで、夢みたいなことが本当に実現した経緯を経験してきました。「夢」「憧れ」「生きがい」「やりがい」は、それを質として、少ないお金と長い作業時間と引き換えに手に入れる方法論だけではなく、「夢」「憧れ」「生きがい」「やりがい」をむしろ直に商売に結びつける方法論も存在することを、30年間の映像制作人生で学びました。

 

我々作り手は、ジョブとワークのことしか頭にないことが多いですよネ。ジョブ=仕事と、ワーク=作業に加えて、ビジネス=商売も、頭の中に常に巡らせておく必要があります。

 

 

 

私はこれ以上、「旧」現場において、加害者にも被害者にもなりたくはないのです。

 

だったら、もう答えはひとつ。「新」現場をつくるしかないです‥‥よネ。

 

 

10年前には存在しなかった、iPad Proも、iMac 5Kも、Adobe CCも、2017年には存在します。なんという「未来の種」でしょうか。この種を活用しない手はありません。

 

セレンディピティ」という言葉を最近テレビ番組で知りました。そのセレンディピティに不可欠な要素として、「準備した人にしか発見できない」とも語られていました。‥‥納得、ですネ。

 

 



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