スタイル探求

アニメのキャラは、アニメーションの制作工程の制限を多く反映し、その制限事項がアニメキャラのスタイルを特徴付けています。‥‥なので、新しいアニメーション技法で制作する場合は、必ずしも、旧来の制限事項に沿う必要はありません。もちろん、新しい技法の制限事項に沿うことにはなりますけども。

 

では、新しい技法において、どんなキャラデザインのスタイルの広がりがあるのか。

 

それはもう、描いた人、次第。‥‥という、中々にワイルドな状況です。新しい技法で実現できれば、何でもあり‥‥ですもんネ。

 

iPadを始めとした「デジタル」で絵を描く利点は、様々な試行錯誤を様々なツールを用いて、様々にバージョンを保存しておけることです。何の気になしに描いてみた一枚の絵を、目鼻のバランスや髪型や色彩など色々とイジくってみたりと、A4用紙程度のiPad Proの中で自在に試作できます。

 

昔から、アニメキャラは鼻と口を非常に小さく描く傾向がありますが、最近のキャラクターはその傾向がより一層顕著です。とある監督さんが「そんなに鼻と口を描きたいくないのかなぁ」とおっしゃっていましたが、描きたく無いかは別として、今の時流の感覚として「人間の生きてるナマっぽさ」「実在感」よりももっと他の部分を引き立たせたいが故に、口と鼻には「遠慮してもらっている」のかも知れませんネ。「存在感」は欲しいけど、「実在感」は不要‥‥的な。

 

時流は時流として、何か違うアプローチはないものか、度々、iPadで落書きがてら試行錯誤しています。みんながみんな、同じ絵を描いて、「前に習え」する必要もないと思いますし(今の絵が好きな人が好きなように存分やれば良いのです)、せっかく今までの制限が消えた新技術においては、色んなスタイルのアプローチを試してみようと思っています。

 

例えば、「くりん」としたまなこの、可愛らしい顔立ちのキャラを、目をアニメっぽく大きくするでもなく、鼻と口を点と線で処理するのでもなく、違うスタイルで表現できないものか、iPadで時折描いています。実は、私の好みだけで言えば、大人っぽくて激しくてズルい女キャラ(Lady Double Dealer的な)のほうが好きなのですけどネ。以下は最近描いたもので、一枚の絵から色々とバリーションを作っています。

 

 

生産性にはほど遠い、いかにもスケッチのような状態ですが、線画からイメージすると「元の木阿弥」になることも多いので、あえて使用するペンは制限せずに、描きたいように描いています。新しい技術を前にした時、時には線画で絵を想像するクセから脱することも必要だとも思うのです。

 

それに、実制作においては一旦は線画の描き方に戻って生産性を確保して、その後のコンポジットの技術でこうした水彩画風・イラストタッチのスタイルで動かすことも可能になるので、キャラクター描写のコンセプトボードという意味合いもiPadで試せます。また、髪型を変えるような場合は、紙の場合は一枚の絵から変更するのは難しいですが(絵の具を除去したり上塗りするのは面倒ですし紙が痛んじゃいますもんネ)、iPadなどのコンピュータベースの絵なら大したことでは無いです。

 

 

去年と今年と、テレビアニメに久々に関わって感じたことは、テレビには絶対に死守すべき放映日という防衛ラインがあって、その中で様々な工夫が凝らされているということです。今の時流の絵は、逆の言い方をすれば、淘汰に生き残ったデザインとも言え、どんなに新しい技術が出てこようと、おいそれとはデザインやスタイルを変更できないし、変更するわけにもいかないのです。内情を知れば知るほど、関われば関わるほど、絵に全部色がついて、放映に間に合うだけでも、相当なものだと思います。

 

しかし一方で、新しい技術の取り組みも不断で続けなければ、世の中の映像技術についていけなくなり、旧式化の一途を辿るのも明白です。いきなりテレビアニメで斬新な技法を全面的に取り入れるのではなく、徐々に地ならしを進めることが肝要でしょう。

 

現在こなしていかなければならない仕事と、未来に生き残るための技術開発と、苦しい両面作戦をどのように展開していくかは、誰にも課せられた命題だとも思います。

 

そんな中で、私は、キャラにしてもストーリーにしても、普遍的なスタイルのものをいつしか志向するようになってきました。現在流行している絵にとびついても、10年後には古くなっていることでしょう。今、20代の人も、20年後には40代です。要は、時代性を象徴するようなデザインやスタイルは、必ずその反動が出て、古めかしくなっていくのです。

 

だったら、極端な味付けは極力抑えて、いつの時代に描かれてもおかしくないような絵柄に落ち着いて、丹念に熟成させるスタイルもあって良いかと思っています。もちろん、全てそうあるべきだと言うつもりはなく、数多いスタイルの中の1つとして‥‥です。

 

まあ、言うなれば、ジャズやクラシックのような絵でしょうかね。Bill EvansやWes Montgomeryのような音楽は、今でも色んなところで耳にしますし、ちょっと楽器のチョイスを変えてアレンジを小変更しただけで現代的な味付けも可能です。

 

音楽にも色々なジャンルがあるように、アニメにもこれからは色々なジャンルがあっていいように思います‥‥って、もう40年前に誰かが言ってたような気も‥‥しますネ。

 



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