紙でもできること

原画・動画をコンピュータでのペンタブ作画に切り替える趣旨の「デジタル作画」。実際は、中々切り替えは進んでいません。

 

要は今のデジタル作画の内容は、

 

紙でもできることじゃん

 

‥‥で済んでしまう面が多々あるからです。

 

もちろん、私自身の感慨で言えば、「デジタル作画」の親戚とも言える「iPad作画」で「紙ではできない様々な利点」を見出しているからこそ、iPad作画に全面的に切り替えてはいるのですが、「紙ではできない」決定的な利点は、少ないと言わざる得ません。「iPad作画」は、「アニメの新技術」と組み合わせてこそ活きてきます。

 

iPadで線画を描く「だけ」なら、ぶっちゃけ、紙で描いた結果と大差ありません。ゆえに、最近でも紙ベースの仕事は引き受けておりますし、iPadで作画した後でも紙出力することで紙ベース運用に戻ってもいけます。

 

 

 

紙作画を極めて大きく凌駕する、「デジタル作画」の決定的なプラス要素とは何なの?

 

ホントにそこ。‥‥ですよね。

 

不可能だったことが可能になるからこそ、大変だったことが楽になるからこそ、人々は動くのです。

 

 

今から10年以上前くらいに、アニメの撮影工程はどんどんコンピュータへと、しかもAfter Effects一択の方式へと雪崩れていきました。

 

何故か?

 

フィルム撮影台ではできないことが、デジタル撮影だとできるじゃん。しかも、たくさん。

 

‥‥ということだったのです。

 

要は、不可能が可能に、大変が楽に、なったからです。

 

技術的には、フィルム撮影台システムでは厄介だったことが、いとも簡単にできるようになりました。

 

例えば、透過光。セルが透過光を背負うたびに、黒い裏塗りをしていたことはご存知ですか? After Effectsをはじめとしたコンポジットソフトウェアは、ペイントしたセルのアルファチャンネルがそのままマスクとして機能するので、透過光がセルの塗料を透過するのを防ぐ必要など皆無になりました。

*細かく言えば、今のアニメ現場の主流は、アルファというよりは、カラーキー(マット色は255の白)ですが、その辺は噛み砕いて読んでくださいまし。

 

日本のアニメ撮影は、「光り物王国」とも言えますから、セルの裏塗りがなくなっただけでも「大変が、楽に」なりましたよネ。

 

その他には例えば、「クロス引き」。

 

ベテランの方は、現在の「どんな方向にでも同時にセルや背景・BOOKがスライドできる」技術は、不可能だったことが可能になった最たるものと感じるでしょう。その他、「オプチカル合成と同等のカメラワーク」「セルごとの撮影効果」など、不可能や困難を払拭した事例は、挙げればきりがありません。

 

そして制作運用においても大きな改善面(=のちにこの改善面が裏目となります)が表れました。

 

フィルム撮影のコスト。そして運用のサイクル。

 

フィルム元来のデリケートな性質による扱いにくさ、そして現像所をも巻き込んでサイクルする「大振りで大仰な撮影サイクル」が、全て木っ端微塵に吹き飛びました。撮影台のコスト、撮影台を置く場所のコスト、すべて、信じられないくらい小規模なコストに収まるようになりました。「現像」が消滅し、極めて高速なサイクルで撮影が上がるようになりました。(‥‥‥もちろん、悪影響も半端なく、良い面が悪い面へと転化する状況が徐々に膨れ上がり、2017年の現在があります)

 

アニメの撮影が「デジタル撮影」に移行したのは、「移行に値する」絶大で画期的な理由が存在したからです。

 

それに比べて、「デジタル作画」の利点は、あまりにも小さいと言えます。「デジタル作画」が「紙でもできることじゃん」のひと言で片付けられているうちは、切り替わりの機運など起きないと実感します。

 

 

最近、iPadで4〜7Kサイズで素材作画をして、カットアウト系の新技術で動かした作品を作り終えましたが(フォーマットは現在の業界標準の2K24p)、コンポジションの設定を変更してレンダリングの仕様を変えて出力した、4K60pフルモーションの映像を見たときに、「これはもう、紙の作画では不可能だ」と我ながら愕然としました。そして新しいアニメーション映像の可能性を、改めて確信しました。残念ながら、その4K60pの映像は、現在の2Kテレビでは放映できませんけどネ‥‥。

*ちなみに、コンポジションの設定を変えただけで、4K60pの美麗な映像が出力できるわけではありません。ちゃんと、4K60pにも対応できる「入念な仕込み」が必要です。現在のアニメ制作現場で作っているアニメは、After Effectsの設定をどんなにイジくって変えても、2K24pの品質どまりです。一方、新技術は扱いは難しいですが、わきまえて使えば、フレームレートを変更するだけで、アニメ作画でいうところの「中枚数」が増えて、60pでも120pでも対応できます。

 

美しく、綺麗、滑らかで繊細。高品質映像フォーマットを高性能な黒モノ家電やデバイスで視聴するのが、ごく普通の情景となる、すぐ先の未来の世界において、ごく自然に馴染むのは、3コマ打ちの低解像能の8fpsのアニメではなく、その未来の状況に応じた高詳細・高解像能のアニメです。

 

その未来クオリティを実現する必要に迫られたとき、はじめて、iPad作画などのデジタルベースの作画スタイルは、「紙ではできない」がゆえに「必要なもの」として、振り向かれはじめるでしょう。

 

 

 

A4〜B4互換サイズの詳細度で、2K24pで8〜12fpsの動画を描いているうちは、「デジタル作画」が紙の作画を凌駕することは、ほとんどありません。ソフトウェアアシストによるベクター線くらいなものです。しかし、線が綺麗なだけでは、歴史を塗り替えることは不可能です。

 

アニメの「デジタル撮影」がそうであったように、新たな技術要素と組み合わせて、旧来技術が不可能だった領域に踏み込んで、ようやく周りの認識を徐々に変えることができます。

 

フィルムが消えていく顛末を、実制作の至近距離で、「終わりの始まり」から「終わりの終わり」まで見てきた私の実感において、そう思うのです。

 

 


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