エッセンシャルオイル

オタク疲れ。‥‥ああ、確かにそういう面はありますネ。

 

 

 

まあな‥‥。アニメを制作するという本質が、リアルな世界(世間一般的な世界)から少し距離を置いているような部分がありますから、何とも。

 

「主人公の性格的に、こういうポーズでこんな演技は云々」なんて、少なくとも私の両親が熱く議論しているのを見たことは一度もありませんでしたからネ。50歳近くになって、美少女キャラのハイライトのフォルムの変化に、After Effectsのディストーションエフェクトを駆使する‥‥なんて仕事、あまりにも特殊だもんネ。

 

 

ちょうど今日、作品に滲み出す表現というのは、大量に知識がある中から絞り出されてくる一滴のエッセンシャルオイルのようなものだ‥‥と話していました。

 

たまに、「とってつけたような表現」ってあるじゃないですか。‥‥あれって、自分の中からは絞り出てこないから、「型」を誰かのどこかの作品から拝借した結果だと思うのです。そんな話を仕事仲間と話しておりました。

 

例えば、ハードな香りのするミリタリー表現って、ネットでいくら検索しても醸し出せるものではなく、本人がどれだけミリタリー関連の知識を貯め続けて、そこから絞り出てくる「数滴」のエッセンシャルオイルを垂らせるか‥‥が、「雰囲気」のキモになってきます。

 

エッセンシャルオイルって、大量の材料から驚くほど少量しか抽出できなくて、ゆえに数滴でアロマディフューザーで香りが拡散できるのです。作品の中に滲み出す「香り」も似たようなものだと思います。

 

知識の蓄積って、何段階もあって、例えば音楽で表現すると‥‥

 

  1. この曲いいな。‥‥と気になって、好きになり始める
  2. 一般的な「ベスト盤」を買う
  3. 各アルバムを買い集めるようになる
  4. 演奏者のソロアルバムなんかにも手を出す
  5. 演奏者と同時代のアルバムにも手を出してジャンル全体に興味が湧く
  6. そのジャンルのアルバムもアレコレと買い始める
  7. 好きになった演奏者や楽曲が影響を受けた楽曲にも興味がわく
  8. 音楽の「潮流」的なものにも興味が湧く
  9. 何十年にも渡る音楽の変遷を知るようになる
  10. 買うアルバムがどんどん増える

 

‥‥とまあ、嗚呼、まさに「オタク疲れ」の世界。

 

でもこうした蓄積があってこそ、ほんの1パッセージで時代性も聴き分けられるようになります。モーツァルトの時代に、ラフマニノフスクリャービンのフレーズや和音が登場しない理屈がわかりますし、モーツァルトの前にJ.C.バッハがいて、J.C.バッハのお父さんは「大バッハ=J.S.Bach」みたいな、ポリフォニーからホモフォニーへと変遷していく流れも、楽曲の音使いで解るようになってきます。

 

もしアニメで、フランス革命前夜の貴族の館で、いかにもSteinwayのような鋼鉄フレーム製ピアノの響きが流れてくるシーンが出てきたら、「ああ、このシーンの香り作りは諦めたんだな」と感じるでしょう。平均律でどんな調でも響きが一律で、産業革命の申し子のような近代ピアノの響きは、音色だけで時代を表現できます。ハープシコード、フォルテピアノ・ハンマークラヴィーア‥‥といった鍵盤楽器の変遷を知っていれば‥‥です。

 

ミリタリーも、イーグル1機で表現できるニュアンスというものがありますが、そのニュアンスを自由に操作するには、付け焼き刃の知識ではどうにもならんのです。スパローかアムラームか‥‥なんてところでも色々と表現できますが、「ミサイル」としてしか認識していないんじゃ、香りもへったくれもないです。

 

「そんなの、世界の人間の全員がマニアじゃないんだから、関係ねえよ」と思いがちなのですが、あくまで「香り」として作用するものなので、ぽたりと落ちたエッセンシャルオイル単体に目を向けて議論しても埒が明きません。むしろ、世界中の人間がマニアではないからこそ、香りを嗅がせる手練手管を如何に駆使するか‥‥という話です。

 

作品の「香り」を諦めてしまうか否かは、制作者サイドの知識量から滲み出すエッセンシャルオイルの有無が深く関わってきます。

 

マニアと同等の知識を持たない人でも、なんとなく解るニュアンスというものがあって、「なんか、妙にリアルな物々しさがある」とか、「理屈はよくわからないけど、劇中の独特の雰囲気を感じる」みたいな、作品中の「香り」を嗅ぐことができます。

 

制作者側としては、いざという時に、最適なエッセンシャルオイルを垂らせるのが理想ですよネ。

 

 

なので、制作側のスタッフには、いろんなジャンルの「好き者」が必要なのです。皆が戦闘機・戦車オタクばかりではジャンルが狭過ぎてアカンですが、服飾、トラディショナルな模様、時計などの工業製品、武具、ドレス、髪型、制服、絵画、歴史、動物、鳥類、魚類、etc‥‥と、色んなマニア・オタクがいてこそ‥‥です。

 

まあ、だから、「XX作品のOOというキャラが大好きです!」なんていうアニメオタク要素は現場にはさして有効には作用しません。それは自分の胸のうちに秘めておけば良いことで、仕事にそれを持ち出す機会もないでしょう。‥‥まあ、間接的には影響する(自分の技術スタイルの根っこなどに)とは思いますけどネ。私は自分自身の中に、永井豪さん、松本零士さん、吾妻ひでおさん、水木しげるさんと言った幼少の頃に読んだ漫画家さんからの強い影響を感じますし、旧作ど根性ガエルのAプロ系の動きに今でも深い愛着がありますが、それは胸の内で良いのです。

 

制作サイドのスタッフであれば、ぜひ、「好き者一直線」を貫いてもらって、色々な知識の集合体として作業現場を形成できたらいいな‥‥と思っています。

 

 

ちなみに「こだわりのモノたちばかり集めても、そのアイテムが日の目を見なければ意味がないかも・・・」なんて診断されてますが、その辺は大丈夫。日々、次から次へと、繰り出しておりますから。

 

‥‥私の歳くらいになると、蓄積から放出へと向かうのかも知れませんネ。

 

 


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