タイムシートの指示

私は作画もやってコンポジットもやるので、自ずとタイムシートの書き方には慎重になります。

 

タイムシートの指示上で「いき違い」がないように‥‥と、こと細かくタイムシートに指示を入れるのは、実は「逆にNG」なことも多いものです。

 

妙に気合を入れて、タイムシートに必要以上の細かさで記入するのは、かえって逆効果です。

 

「いき違い」を軽減したいのなら、むしろ「できるだけ質素で単純明快」がよろしいです。

 

 

撮影スタッフ・コンポジターの技量を「標準レベル」と想定して、いわば「信頼して」必要最小限で記入するのが原則です。

 

タイムシートを必要以上に細かく記入しても、決して撮影上がりの品質は上がりません。タイムシートで挽回できる性質ではないことを認識しておくべき‥‥ですネ。

 

私は撮影監督もやってましたから、タイムシートの記述を「どのようなAfter Effectsの実際の操作にするか」をジャッジする役割でもあったので、いくつかの代表的な具体例を挙げることができます。

 

 

厳選して列記しますと、まず‥‥

 

After EffectsやPhotoshopの実際のフィルタ名で指示を書くのは、実質、意味が無い

 

‥‥です。「ガウスブラー」とか「カメラレンズブラー」とか「メッシュワープ」とか書いても、無意味です。なぜかというと、実際に用いるフィルタはその時々で最適なフィルタが選ばれるので、例えば「ガウスブラー」と指定してあっても、実際は「Fast Blur」で処理することも多いです。

 

じゃあ、どう書けば良いかというと、「ボケ」、「ブラー」(=ぼかしの意)とか一般的な用語で書けば良いだけです。あくまで「大づかみ」な表現でOKなのです。ピントを外したボケにしたいのなら「ピンボケ」で十分です。

 

ガッチリした線で描いてほしいから‥‥と言って、絵コンテやレイアウトバックに「三菱鉛筆UNIの4Bで作画」とか記入してあったら、「そんなのは、作業する側が、作業する環境で最適なものを選ぶから、いちいち鉛筆の銘柄まで指定するな」と思うでしょ? ‥‥それと同じです。

 

私はボックスブラーを状況に応じて適宜使うことがありますが、これはカメラレンズブラーの代用品で、四枚絞りバネに似たニュアンスが出せるからです。滑らかにぼかしたいのなら、ガウスブラーなんて使わなくても滑らかブラー(Fast Blur)で十分なことが多いです。「ガウスブラー」と指示を記入した原画マンか演出さんに「なぜガウスブラー? 滑らかブラーではダメな理由を教えて」と聞いてまともな返事が返ってくるとは思えないですしネ。

 

フィルタの指示は「あくまで汎用的な表記」を心がけて、コンポジット作業時に実際に何を使ってオーダーを実現するかは、撮影スタッフ、コンポジターに任せれば良いのです。

 

結果、仮に映像の仕上がりが悪いとしても、「ガウスブラー」や「ベジェワープ」なんてタイムシートに書いたところでコンポジットの質なんて上がりません。細か過ぎるタイムシートの記入など、結局は「悪あがき」なのです。もし撮影・コンポジットのクオリティに不足を感じるのなら、きっぱりと「別のスタッフ」に撒き直すことを検討すればよいです。

 

 

セル(レイヤー)の透明度は「気持ち」

 

タイムシートを書く方も、受け取って読む方も、「素材の透明度の数値はキモチの表現」と心得ましょう。「Cセル50%」と書いてあったら、「半分くらい透ける雰囲気が欲しい」というように解釈します。

 

間違っても、After Effectsのレイヤーの不透明度をタイムシート通りに50%にするようなことを、指定してもいけませんし、実際に操作するのもマズいです。

 

「なぜ?」と思うかも知れませんが、明確な理屈があります。

 

現在はまず、撮出しがおこなわれていませんから、背景とセルを合わせてみて、イメージする透明度にするためには、何%が正解か?‥‥がほとんど先読みできません。ましてや、原画マンに至っては、線画の段階しか関与していないのですから、「まともなパーセント指定ができるはずがない」のです。

 

色彩の知識になりますが、真っ黒の背景に、真っ白なセルを乗せた場合、不透明度が10%でもかなり明るく見えます。逆に、真っ黒の背景に、暗いセルを乗せると、50%でもわずかに見える程度です。

 

つまり、背景の色と、セルの色の、それぞれの素材の明るさ暗さや色彩によって、レイヤーの不透明度など「いくらでもルックが変わってくる」のです。

 

だったら、「20%くらい〜うすく見えるくらいに」とか、「ほとんど後ろが透けない程度で〜90%くらい?」と書いておいた方が、コンポジターにイメージが伝わります。

 

妙に具体的な数値を書くより、「%くらい」とイメージを伝えるだけにとどめ、実際のコンポジットの質はコンポジターの解釈の能力に預けて、映像の仕上がりの「実」をとるべきでしょう。

 

 

カメラワークのイーズは許容を広く

 

カメラワークの加速減速など「フェアリング」とも呼ばれる操作を、自分のイメージ通りに、今のタイムシート標準の記述法で書くことは困難です。そもそもイーズのカーブの記述法が制定されていません。

 

なので、カメラワークは「ストライクゾーン」を広めにとっておいて、大まかなA-B-Cなどのフレーム指定と「加速減速」の添え書きで「よし」とするか、目盛りで指定するかの2択で、「手打ち」にしておきます。

 

A-Bのフレーム指定でも、イーズ次第でいくらでもカメラワークの雰囲気を操作できますが、それを現在のタイムシートに指定することは無理なので、作画しか関われないのであればなおさら、大まかな指定によるイーズでカットが成立するように設計しておくのが肝要です。

 

‥‥実は、このあたり、結構「根深い」問題を孕んでいるので、別の機会に採り上げたいと思います。

 

 

まだ色々とありますが、ひとまずこの辺で。

 

 

絵コンテで原画作業のこと細かい指示ができないのと同様、撮影に対してタイムシートで指定する際も、過剰な記入は単なる情報のオーバーフローに過ぎません。

 

「必要なことだけを書いておけば」良いのです。

 

「でもそれだと、思った通りに上がってこないんだよ」とやきもきしても、それはタイムシートの記述ではなく、当該のスタッフの技量です。絵コンテにどんなに丁寧にト書きを書いても、絵コンテを素晴らしく綺麗に清書しても、実際は担当する原画マンの技量によるじゃないですか。それと同じです。

 

あまりにも色々なことが書き込んであるタイムシートは、それだけで「ああ、つまりは頭の中で映像の設計の折り合いがついてないので、思いつくままに書いてるんだな」と悟られてしまうのです。タイムシートにやたらめったら書き込めば、映像がゴージャスになると思うのは、残念ながら「NO」です。

 

まあ、ごくごく稀なカットで、どうしてもシートが複雑で書き込みも多くなることはあります。しかし、一般的には、タイムシートはシンプルで明快なのが一番です。

 

 

BOOKがどのセルの上にくるか‥‥とか、T光が含まれるのは何セルなのか‥‥とか、そういう基本的なことを書かずして、「ガウスブラー」とか書くのって、それだけで担当原画マンの経験の浅さ(もしくは手抜き)をタイムシートから読み取られてしまうのです。

 

必要なことは最低限踏まえて全部書いてある。撮影技術上の伸びしろや采配は撮影担当者に任せてくれている。‥‥私の考えるタイムシートの「スタンダードとしての理想」はそんな感じです。

 

 

 

要は、タイムシートに頼って運用している以上は、タイムシートの限界の中で工夫して作るべき‥‥なのでしょうネ。

 

アニメーターが、どうしても複雑な撮影・コンポジットを経て、完成させたい映像イメージがあるというのなら‥‥‥‥、それはもう、自分でコンポジットまで担当するしかないのです。

 

なぜかって、タイムシートに「そこまでの許容はない」からです。

 

タイムシートに書けないことを映像で表現したいのなら、本人がコンポジットするしかありません。

 

もしその「現状の限界」に「限界を感じる」のなら、タイムシートを捨てて、タイムシートに代わる新しいシステムを作るのが肝要です。私は半々で、タイムシートをベースとした仕事と、タイムシートの存在しない仕事をやっていますから、決して無理なことではないと実感します。

 

 

 

ただ、タイムシートは、長年の運用に耐えてきただけあり、さすがによく出来ております。コストの増大を抑制する効果すら盛り込まれていますしネ。

 

タイムシートをどのようにして使うか。

 

原画を「デジタル」で描くようになっても、タイムシートはまだまだ当分は、カットごとの「設計のキモ」になりそうですネ。

 

 


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