4Kの線質

4Kテレビも随分と手頃な価格に落ち着いてきた2017年。HDMIを経由して、4Kムービーの映写も可能になり、4Kを自主的にテストするための機材的な敷居が徐々に低くなっています。

 

以前のブログで書いた際に用いた「トラディショナルスタイル」の絵柄は、手描きで動画を描くのではなく、コンピュータで動画を動かす(=解りにくい表現ですが)技術前提のデザインで、極端に今のアニメ絵から逸脱した内容でした。絵柄の源流は、アニメというよりは日本画に近く、制作工程こそトレス・ペイントではありますが、「執念の線画作業」が必要になる非常にユニークなスタイルです。

 

実は、描いた私も、「トラディショナルスタイル」は技術的に(描くのが大変で)キツいので、もう少しライトな表現で4Kを活かせる路線を模索中です。動かすことに関して言えば、もちろん「動かすことを前提にデザインされた」絵柄なので可能ですが(=描いている時点からリグの計画をする)、「動かす元の絵を描くこと自体」が、「似せにくい」「線が繊細で神経がすり減る」「モーション時のアンチエイリアスのボケを抑制するために5〜6Kの解像度が必要(=そのかわり、8Kにも対応できそうな予感ですが‥‥)」と大変なことだらけです。

 

i7の4コア6コアの4GHzで動作し、32GBのメモリを積み、SSDの記憶装置を持つマシンですら、ヘナチョコな体感速度となり、「重さ爆発」な制作作業となります。まあ、2000年前後のプアな環境で劇場を作っていた頃を思い出せば、耐えられないことではないですが、動作が重くて「大変」なのは正直なところです。

*‥‥でも、6KでもiPad Proでの作業時は全然重さを感じないんですよネ。コンピュータの処理速度・体感速度って、単にハードのスペックでは語れない部分が多いですよネ。

 

でもまあ、いろいろな可能性を探るのが、「こういう時期=状況の移行期」のポイントです。技術でお金を稼いで飯を喰っていきたいのなら、誰でも選択するであろう安易な妥協をせずに、未開拓分野の経験値とノウハウをむしろ積極的にどんどん蓄積していく必要があります。実現困難で未知なものごとは誰でも避けたがるので、逆に返して言えば「皆が無理せず落ち着ける場所は、皆が殺到し、レッドオーシャン状態に陥る」のです。

 

最初に苦労してブルーオーシャンで商売するか、最初は楽に受け流して後で煉獄の苦しみを味わうレッドオーシャンで商売するか‥‥は、自分の意思と行動で決めれば良いことです。

 

 

生産効率の高い絵柄の探求はこれからの模索の「お楽しみ」にとっておいて、まずは今年初めに何気なく描いた「トラディショナルスタイル」の絵を、以前のコンポジションに組み込んで、4Kの高詳細な線質のルックを試してみました。

 

最初に、iPad Proが来る前に鉛筆で描いてコンポジットしたフィックス絵です。以前にもここで載せました。寸法は3840ではなく、4096の4Kです。このブログの横幅に表示サイズを合わせていますが、クリックして別ウィンドウで画像を等倍サイズで表示し直せば、お使いの環境が4K〜5Kならば詳細感をリアルに見ていただけます。

 

 

この女の子の舞台セットを流用し、キャラを今年初めにiPad Proで描いたキャラに差し替えて、情景の完成画像として出力して、線質の「具合」を見ます。

 

 

寄りサイズのほうは、照明効果を変化させつつ、軟調フィルタがやや強めです。

 

4Kで繊細に線を仕上げると、線が溶けて太らずに、「本来の軟調効果」が威力が発揮されます。

 

この現象は、実は2Kでも表れます。昔に存在した「アニモ」というアニメーション制作統合環境では階調トレスがベースだったのですが、線自体に濃淡の強弱があるので、軟調効果(フォギーやソフトン、ディフュージョンのシミュレーション)のかかりかたが「上品」でした。二値化したレタス線だと、どんなに細くてもブワッと滲んだ汚いニュアンスになってしまい、移行期に苦労したのを思い出します。

*おそらく、レタス線のにじみが汚い理由は、トレス線の濃度が完全なベタで、画具に例えると「インクが濃いので、滲み出しが多い」のが原因と考えています。水性の画具を使ったことがある人なら想像しやすいと思いますが、もともとインクの量が多いので、水でぼかした際に溶け出す量も多い‥‥というのと似たようなことでしょう。

 

「トラディショナルスタイル」は原画が5〜6Kで線も細く、階調トレスなので、かなり強い軟調効果をかけても絵が溶けにくい特性を持ちます。

 

以下、かなり強めの軟調効果をかけた状態です。空気感のニュアンス表現目的では過多な軟調表現ですが、テスト目的であえて濃い目に処理しています。それでも、線が太らずに細さが維持され、軟調感だけ追加されているのが見てとれます。

 

*湿気の多そうな過多な軟調効果でも、些細な描線の性質の差が、効果を強くかけた際に大きな差となって表れます。

 

レタスの二値化線に対して上のような大量の軟調効果をかけると、トレス線が鈍く肥大してNGになります。二値化トレスにおいて、大量の軟調効果が必要な場合は「ソフトン」系ではなく「フォギー系」の「明るさだけに反応する軟調効果」を適用して難を逃れます。

 

4K対応の階調トレスは、あえて造語を作るのなら、「スフマートダイナミックレンジ」が広い‥‥とでも言いましょうか。

 

難点は、4Kのモニタで観ることが前提の描線なので、2Kにダウンコンバートすると、線が画像補完で鈍って、やや「腰が抜けた線」になることです。

 

でもまあ、この問題は、社会の主流の移行とともに徐々に「状況の方が変化」していくものなので、さほど深刻なことではなく、「時間が解決してくれる」問題です。

 

 

とは言え、4Kが「線の繊細さ」だけを「売りもの」にするのはもったいないことで、真逆の方向性の、荒々しく筆致がほとばしる描線を緻密にディスプレイに映し出す手段としても有効でしょう。

 

iMac 5Kを買った時に、初めて「ドットバイドット」で鉛筆のラフ画のスキャン画像をみたのですが、かなり良い感じのニュアンスでした。‥‥だからねえ、鉛筆も「鉛筆の描線の真骨頂」を活かす作風の作品なら、実はまだ活躍の機会があるようにも思うのですが、‥‥‥みんな二値化しちゃうから、鉛筆の黒鉛のほとばしりなんて、全部消え失せちゃうんですよネ。

 

 

描線1つとっても、4Kのポテンシャルを導き出すには、様々なノウハウが必要になります。

 

ノウハウはネットを掘っても溜まるものではなく、簡単には蓄積されていきません。‥‥が、実際に扱ってみれば、扱った分だけ蓄積されるものでもあります。

 

旧来のアニメ制作技法を、単にコンピュータに移し替えるだけの取り組みは、なんの新しさも広がりもなく、旧来の限界すら継承することになるやも知れません。

 

4Kは2Kではない。60pは30pや24pではない。HDRはSDRではない。‥‥恐ろしく簡単な新旧の違いに目を伏せ、昔のままを踏襲することだけに終始する未来は、なんとも味気なく絶望的なことよ。

 

新しい広いキャンバスには、新しい大きなビジョンを描きたいじゃないですか。

 

 


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