技術スタイルの探求

アニメのキャラやメカのデザインは、デザインありきというよりは、アニメ制作の制約ありきで発達してきた経緯があります。どんなにグッとくるデザインコンセプトでも、清書できない、ペイントできない、撮影できないデザインでは、描くだけ無駄だからです。

 

では、アニメの制約とは何か?‥‥というと、「何千何万と作画して動かすための生産性の確保」による制限です。何千枚、何万枚と描くために、デザインを簡略化して「キャラ1体あたりに要する作画時間」を低く抑えることが、アニメ制作の「命題」でありつづけました。

 

また、大人数で共同作業して、同時進行させることにより、完成までに要する時間を短縮してきました。ゆえに、大人数で作画しても絵が崩れにくい=絵を似せやすい工夫を、キャラクターデザインに施しています。

 

いわゆる「アニメ絵」の特徴は、こうした制作上の都合や制限に起因するもので、何の理由もなしに、ただ単に趣向だけでアニメのデザインが成立したのではないことは、作業現場のインサイダーなら承知していることでしょう。

 

昔から今に続くアニメ制作は、上述の通り、「何千何万という作画枚数」「大人数による分散同時進行の作業」、そして「フィルム撮影台の物理的メカニズムによる制限(撮影台が消滅した現在は、フィルム時代の作業慣習の踏襲‥‥というべきですが)」の3つの制約の中で、様々な進化を遂げてきたわけです。

 

もし、その制約、制限が希薄となり、新たな映像フォーマットの上で、アニメを作っていかなければならない‥‥とするならば、アニメの絵のスタイルに、どのような変化が作用していくのでしょうか。

 

言い方を変えると‥‥

 

4K8K時代には、どのようなアニメのスタイルが映えるのか?

 

‥‥ということです。

 

そんな「未来の命題」を、私はしばしば思索します。旧来から続くアニメの絵柄に対して、明らかに4Kは「オーバースペック」です。多くの現場スタッフが「アニメに4Kはいらない」と感じる所以は、まさにそこだと思います。

 

アニメ絵は、4Kを持て余す‥‥のです。

 

iPad ProとApple Pencilは、思いついたらすぐ描いてAfter Effectsまで円滑にフローできますから、そうした「未来の命題」にふとペンをとって、絵を描きながら思索できます。

 

 

ぬぼーっと、テキトーな下絵を描いてみます。作画スタッフなら、どこの誰でも描けそうな、ありふれたアニメ絵のデザインです。

 

こういう絵柄が、4Kに映えるのか。‥‥多分、1.5Kのままでも2Kのままでも、全く変わらないポテンシャルです。大まかに清書してみればわかります。

 

*このくらいの線の量なら、まだ「良心的」ですよネ。

 

昔から現在までのアニメのキャラは、冒頭に書いたように制作作業上の都合で、パーツの「単純化」「記号化」によって成立しています。

 

一方、4KはHD以上の高詳細、かつ60pやHDRもポテンシャルとして秘めています。つまり、単純化と記号化によって生産性を維持しているアニメは、4Kや8Kなどのすぐ先の未来の高品質映像フォーマットと真逆の特性を有しているわけです。

 

記号化によって少ない情報量でも特徴を伝えられるアニメと、膨大な情報量で品質を誇示する次期映像フォーマットの、背反する特性。

 

上図の単純化されたアニメ絵の、どの部分がどのようにして、4Kに映えるのか、まったく想像できませんよネ。「線がちょっと、繊細になりました」程度で、4Kアニメをドドンとアピールできるか?‥‥と考えれば、「NO」です。「描線のマニア」でもない限り、絵柄から感じることは難しいでしょう。

 

そんなのは現場のスタッフなら指摘されずとも判っているからこそ、皆、「4Kはアニメに要らんだろ」と思うわけです。日頃から4KだHDRだとやかましい私だって、上図の絵柄なら、4Kで作ろうなんて全く思いません。むしろ、今の2K解像度で作り続けて、アップコン技術を開拓すべきと思います。

 

もし、4K以上の高品質映像フォーマットで、今の絵柄を維持しつつ、何か「売り要素」を内包させたいと思うのなら、旧来からのアニメの絵柄が4K以上で映える追加要素を盛り込む必要があるでしょう。

 

単純化、記号化を踏襲しつつ、絵の情報量を4K時代に合わせる。‥‥まあ、順当に考えて、作画上の細部の表現をアップして、仕上げや撮影の処理を激化させる‥‥という路線が思いつきます。

 

上掲の女の子の絵をもとに、処理を足してみました。

 

*色トレス線が交差しまくって、わけわかんなくなってきたので、途中でやめました。なので、顔だけです。

 

こんなのは苦笑いのジョークにとどめておきたいですが、実は既に、こういう絵を量産して自滅寸前の状況もあったりするのが、アニメ業界だったりします。

 

作業の労力は格段に増え、4Kではファイルサイズも大きくなるので、冗談抜きでかなり深刻な状態を引き寄せます。こうした絵を1万枚近くテレビシリーズで作り続けて、さて、制作費はどれだけ増えるのか? ‥‥と予測すると、おそらく、たいした増額は見込めないでしょう。

 

お金をもらう側でなく、お金を出す側の身になって考えれば、わかることです。絵に処理を細かく入れたところで、今までのアニメの延長線上で既視感たっぷりのマンネリ化した絵柄に、どれだけお金を出す気になれるのか。‥‥今までのアニメと同じ絵柄ならば、今までと同じお金で作って欲しい‥‥と思うんじゃないですかネ。日頃、お買い物をする我が身を思い出せば、品物を作っている側の労力なんて、価格の前には帳消しにしているでしょ?

 

昔からの絵柄を、4K時代に対応させるために、こんなにも処理を増強して大変になった‥‥のを、お金を出す人々にどうやってアピールするのか。

 

‥‥それはもう、単純に、最終的な品質の良さ、作品の面白さ‥‥ですよネ。

 

どんなに髪の毛の塗り分けやブレンドを増やしても、線を倍以上に増やしても、最終的な品質が粗雑だったら「何が大変かも理解してもらえない」と思います。

 

アニメは趣向品であって、野菜や肉のような生命を維持するために必要なものとは、決定的に違うと思います。実際、世界中にはアニメを1秒も見なくても、生きている人はそれこそ膨大にいるでしょう。

 

「生活必需品」である趣向品を選択する際の基準は何か‥‥と考えると、品質と、その品質を保証するブランドです。

 

個人消費に限らず、受発注という仕事の視点においても、高い品質を具現化できる制作グループならば、4Kの時代に移行しても、有利に展開できる可能性をもちますが、一方で、どんなにお金を用意しても結局は安い作りしか具現化できない制作グループは、信用を失い、安く買い叩かれ、徐々に追い詰められていきます。

 

買い叩かれたい人間なんて、どこにもいないはず‥‥ですよネ。これからの課題は山積みで、「品質を保証するブランド」をどのようなコンセプトと実践方法で形作っていくか‥‥が、各制作グループに問われていくことになるのでしょう。

 

つまりは、「ブランドとしての技術スタイル」です。

 

さて、その技術ブランドはどのようにして、今後、内外にアピールしていけばよいでしょうか。

 

今までのアニメの絵柄とその技術体系、そして制作システムには不可侵で、増強だけで生き延びていくのか。

 

または、今までの路線はラインの1つとして存続させながらも、全く新しいアニメ制作のコンセプトに基づく新しいラインを開拓していくのか。

 

私なら、迷うことなく、後者です。何度も書いてきたことですし、冒頭にも書きましたが、今のアニメの技術体系やシステムが、次の主たる映像フォーマットについていけなくなることが明白だからです。

 

「古き良きアニメスタイル」は存続させながらも、新しい映像フォーマットには新しいアニメの作り方が必要になります。それは技術的にもお金的にも。

 

何千何万と描く作業が頭から離れないのだとすれば、キャラはどうしても極度な単純化が必要でしょう。しかし、動きや絵柄の中枢をアニメーターが掌握するとしても、実際に絵を動かすのはコンピュータならば、絵柄の制限は大幅に解除されます。

 

上掲の女の子を絵をもとに、私が「トラディショナルスタイル」と呼んでいる、日本画にもどことなく通ずるスタイルで描いたのが以下です。今のアニメ絵が流行る前の、日本の木版画や肉筆画の美人画の美意識に基づいたスタイルとして、数年前から描き始めた技法です。このブログで前にも、同じスタイルで描いた絵を紹介しましたが、今回も同じ技法で描いてみました。

 

*iPad&Apple Pencilとprocreateで線画、ペイント以降をAfter Effects‥‥という私の定番のスタイルです。ちなみに拡大表示すると、服の胸のあたりにトーンジャンプが出ておりますが、JPEG中程度以下の画質で無理やり500KB以下に抑えているので、どうぞご容赦ください。

 

このBlogの制限上、画像ファイルを500KB以下に抑えているのでかなりの高圧縮ですが、詳細感は伝わると思います。画像は縦3840pxあるので、別ウィンドウで開いて拡大表示すれば、詳細感がさらに見ていただけます。

 

こういう絵を見ると「リアル」とかいう人もいますが、実は全然リアルじゃないんですヨ。日本画がそうであるように、完全に制作者の「意識化」の産物です。‥‥目が小さくなっただけで「リアル」とかいう思考、いいかげん、やめなさい。

 

このような絵柄でも、パーツの単純化はしていますし、記号化もしています。要は、今までのアニメスタイルとは違う‥‥というだけです。顔のバランスだって、漫画やアニメと同じように、「非現実」のバランスです。

 

ただ、誰でも描ける極端な記号化を施していないので、あくまで「少人数の制作スタイル」を想定した絵柄です。実際、こういう絵柄は容易には似せにくいのです。

 

詳細度は格段に高く、4K以上で初めて威力を発揮する絵柄です。そして、髪の毛の描写ひとつとっても、今までのアニメの作り方では120%無理な内容です。拡大画像を以下に。

 

 

もちろん、なんでもかんでもこういう絵柄にしようと考えているのではなく、あくまで「詳細感を積極的に活用した絵柄」のほんの一例です。もっと旧来のアニメ絵寄りの絵でも、4Kの詳細度を活かせる絵柄は作れると思いますヨ。今までのアニメの制作技術ではなく、制約が格段に少なくなった新しい制作技術を足場にすれば、絵柄のスタイルなど山ほど作り出せます。

 

メイクを施しても、何千何万の枚数で動かすのではないので、仕上げや撮影に極度なしわ寄せがいくこともありません。‥‥というか、「撮影」セクションは、こういう絵柄を動かす技術体系では存在せず、別の作業領域へと分割されます。

 

*このような「メイク」を施したデザインは、メイクに詳しい女性スタッフ(別に男性でもいいけど少ないよネ)の力を借りないと、今後行き詰まるだろうな‥‥とは思います。私の知識じゃ間に合いません。‥‥まあ、自分なりに資料を見て、研究はしますが、実地での経験はないもんなあ‥‥。

 

こうした、新しいアニメーション技術に基づく新しい絵柄のキャラは、まだ「マネキン」の状態ですが、言葉を喋り、感情の起伏を身振りで表現し始めた時、どのようなニュアンスが劇中に生まれるのか、未来のお楽しみ‥‥といったところです。上図の「トラディショナルスタイル」は、実は描いた本人の私も「かなり難しい」と考えており、もう少しライトなデザイン(描きやすく似せやすい)で4K生粋の短尺を作れたら良いと考えています。旧来のキャラの絵柄と極端にかけ離れた作風なので、描いてみた次第です。

 

技術革新は、新しい技術スタイルを生み出し、新しい絵柄も生み出します。そして新しい「商売」の足場にもなりましょう。

 

私は技術畑の人間なので、「商売なんて売り方次第」だなんて思いません。商売の基礎は、技術に根ざしていると確信します。各作業セクションの高い技術力を結集して丁寧に作ることが何よりも基本であることは、去年に200億を叩き出した作品が雄弁に物語ってくれたでしょう?

 

 

 

アニメはこれでいんだ。こうあるべきだ。‥‥みたいなことを言って、今の作り方を結局は変えようと思わない人がいても、それはそれで良いでしょう。

 

でも、私は、絵柄も制作技術もフローもシステムも、そしてお金も、色々な可能性を武器にして、様々な広がりを得ていきたいと思います。

 

 

 

ちなみに、この他にも色々とiPadでバリエーションを描いてみましたが、フィニッシュまではしておりません。極端な2例があれば十分だと思いまして。

 

iPadで絵を描くのは、「軽くて薄くて、環境一式をどこにも持っていける」「どんなに描いても紙がかさばらない」のが、「やっぱりとても便利」です。デジタルデータ基盤の映像産業の現代において、紙を使わなくて済むことがどれだけ快適なことか、毎日しみじみ実感しております。

 


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