彩る仕事

何やら、「動画単価は安いから、彩色も一緒に作業して単価を上げる」みたいな話を、随分前から聞きます。

 

え? 計算できない人なの?

 

動画の作業費と彩色の作業費を合わせれば、当然ながら合計額は増えます。

 

そういうのは、「単価が上がったとはいわない」でしょ。合計額が上がっただけでしょ。‥‥マジで、計算ができない人の言い分だよな‥‥‥‥。

 

 

 

私は、以前からこのブログでも書いているように、彩色の仕事は、彩色のプロがやるべきだと思っています。

 

数々の作品経験に裏付けられた、作業の「品質」「精度」が段違いに優れていますから。‥‥私は自費の自主制作でもない限り、彩色を自分でやることはありません。自費の開発研究自主制作だって、本当は知り合いの色彩設計さんに頼みたいところです。

 

色彩設計さん、彩色スタッフさんは、それこそ毎日、彩る仕事をしているのです。

 

線画描きがにわかに、ソフトをちょっとイジってみたからって、太刀打ちできるわけないでしょ。普通に考えてわかるはず。

 

 

 

またこれも、以前から書いていることですが、色彩設計さんには衣裳デザインも担当して欲しいと考えています。もちろん、衣裳デザインの報酬は別途、ですよ。

 

色彩と組み合わせて、最適な衣装を考えられるのは、色彩設計さん以外に思い浮かびません。もしくは美術監督さん。

 

なので、将来的には、色彩設計さん兼衣裳デザインさんには、iPad Proを供給して、日頃からデザインと配色をイメージしていただけるよう、制作現場を整備したいと構想しています。

 

 

 

彩る仕事、なのです。

 

私はこのブログでは彩色の仕事のことをほとんど書きません。なぜなら、私は彩色をプロとして作業した経験がないので、知った口を叩くわけにはいかない‥‥と思うからです。

 

しかし、色彩設計さんや彩色さんは、ものすごく頼りにしています。彩る事を毎日のように考えて作業している人に、まさに仕事をお願いしたいのです。

 

色だけではありません。線の成り立ち、線の最終ルックに関しても、彩色スタッフさんは重要な役どころを担っています。

 

色と線を扱う、数々の経験と知識があるがゆえに、様々なケースに対応し、しかも作業の手がとても速いです。

 

 

 

彩色作業をもし、動画スタッフさんが兼任する場合、当然のことながら、彩色の本職の人と相応の技術を有している場合のみ、です。

 

‥‥嫌な話を聞いたことがあります。

 

簡単なマスク塗りだけデジタル動画で塗って仕上げ料金を請求、塗るのに手間がかかるキャラのセルだけ彩色スタッフさんに押し付けた‥‥みたいな、とんでもなく酷い悪質な事例。

 

あ〜あ、こんなことをしだしたら、デジタル作画もおしまいだな‥‥と思った次第です。極めて稀な悪質な例‥‥だと良いですが。

 

 

 

まあ、とにかく、私は今後もアニメ制作に関わり続ける以上、色彩設計さん・彩色スタッフさんに色彩関連をお願いし続ける所存です。そして衣裳も。

 

「映える色」を「絵のチカラ」にするためには、やっぱり、「色のプロ」に頼みたいですもん。

 

 


みのり

きっかけを何で掴むか、そしてどこに向かうか。なんやかんや言っても、結局は当人の意思、そして呼び込む運次第です。

 

運とかいうとギャンブルみたいですけど、そうじゃなくて、成功の確率を高める行動です。

 

草木の種だって、発芽率100%ではないですもんネ。しかし、発芽率をほぼ100%にするテクニックはあるわけです。一方で、異様に発芽率の悪い的外れな育てかたもありますし。

 

個人だけでなく、集団も、そして業界も、「次のきっかけ」を何で掴んで、どこへと向かうのか。

 

色々な種を蒔いて、発芽させて、育てて、やがて収穫の秋を迎えたいものですネ。

 

*今年は唐辛子が豊作です。キッチンはさみを用意しておけば、ハサミで刻んでトッピングして、何かと重宝する香辛料になります。生でも乾燥させても美味いです。乾燥させると辛さが数倍に跳ね上がります。

 

 


未来は。

4Kはとかく解像度ばかりに目がいきがちですが、アニメ業界的に何よりも重要な点は、4Kをきっかけにして今までの現場の体質を大幅に改善できることです。

 

4KHDRでアニメを作ることは、単にペンタブを導入して画像ファイルの寸法をUHDに合わせるだけでなく、4Kで作るために「作画受発注の1番の元凶」だった「作業報酬のあまりの低さ」が根本から見直される点にあります。

 

制作現場にとっては、何よりもソコが重要なのです。

 

4Kなんて過剰なスペックだ、4Kなんていらない、アニメは今の解像度で十分。‥‥つまり、そういう論調は、回り回って現実として、作画のあまりにも酷すぎる作業単価をそのまま黙認して未来も作り続けろと言うのと同じなのです。

 

2Kの今の時点でも、相当過酷です。

 

女の子を可愛く装飾するために、髪の毛3色ぬりわけでノーマルと影色、ハイライトを足して、合計7色、目の中には様々なディテールが描き込まれ、髪の毛の中は透けて目が描き込まれている‥‥と、その過剰な線の多さを1枚200円ちょいで動画を描く時代です。可愛いキャラのアニメに関わろうものなら、そのディテールの多さから、出来高でカウントしたら散々に低い報酬額にとどまります。

 

「今のままの単価で作り続けろ」とは言ってない。いつか改善したい。

 

‥‥と言うのでしょうが、じゃあ、それはいつ? そして、おいくらに改善するつもり?

 

「いつか」とは、実質的には永遠にやってこない未来

 

‥‥です。憂慮するふりだけみせて、今の制作体制に従順に加担するだけ‥‥なんて、まだ続けるのでしょうか。

 

憂慮する人、「いつか」と言う人は、単価や報酬が「ちゃんと見合う」ように、何かしら向上する取り組みや改善活動をしてますか???

 

ツイートするだけじゃ現場は変わらんのですよ。

 

 

 

タブレット完全移行と4KHDRとハイブリッド作画。この4Kとカットアウトの組み合わせ以外に作画の現場の改善案を思いつきません。

 

紙で2Kで数千数万動画枚数の作画方式は、既に「今までその金額で作ってきたよね。今後も同じ金額で続けてくれ。」と言われてしまう過去の前例を、各社各人、夥しく大量に作ってしまいました。2Kはもう手遅れです。2Kで作り続ける限り、カットアウトでも従来現場の状況は挽回できません。

 

 

 

正直、私は今、カットアウト作画技術を有する作業者がいなくて、酷く苦労しています。物量のプレッシャーに押しつぶされそうになります。

 

しかし、それでも乗り越えようと、気概は充分にあります。だって、その先には未来があるからです。

 

カットアウトを扱えるアニメーターが日本にも増えたら、状況は大きく改善できることを確信しています。カットアウトで作画部分の70%を賄いつつ、残りの30%を旧来技術で作業する作画スタッフには、格段に向上した報酬額を設定できるでしょう。効率の良いカットアウトと技術蓄積に優れた従来技術のハイブリッド方式なら、未来のそろばんも弾けます。

 

そのためにも、今は事例を増やすことに専心します。

 

 

 

逆に。

 

今までの何千何枚枚と描く旧来技術だけで4Kでやろうものなら、確実に破綻します。お金も時間も手間も、何もかも足りなくなるでしょう。これはキッパリと予告・予言できます。4Kの動画単価を今までのテレビの単価で引き受けたら、それはまさにアニメ業界の「終わりの終わり」を意味します。最悪最凶(最狂?)の業界に成り果てるでしょう。

 

私はそんなこと=旧来技術だけで4Kに取り組むことは絶対にオススメしません。新技術と4Kはペアで導入するのが必定です。

 

 

 

今後のアニメの制作現場、およびアニメ産業について、未来をどのように思い描いていますか?

 

2Kの現在においても、色んな状況を目にしますし、実際に過去に関わったこともあります。

 

後動検、二原動仕、拡大作画の乱発、仮本撮、複合組み・多重組み、ゼロ原から4原、一話につき十数人もクレジットされる作画監督。

 

これらはみな、明るい未来の希望を感じる、発展性の豊かな現場が取り入れたことでしょうか?

 

私はそうは思えません。どんどん、なし崩し的に作業体制が変質したに過ぎないでしょう。この流れのまま、いつしかまともに制作現場を運用できる人間が僅かになって、自滅するように思うのです。

 

自滅して消え去った産業は他にもありますよネ。

 

 

 

自滅したい人間なんていないはず‥‥と思います。ヤケクソにでもなっている人以外は、未来も生き続けたいと考えるでしょう。

 

だったら、生き続けるため、作り続けるために、考えて考えて、たとえ最初の一歩は小さくても、実践しましょう。私の4Kの取り組み開始は、2014年当時の10万円のMac miniとA4の廉価スキャナとAdobe CCでした。

 

「できる手応え」を自分・自分たちで掴むほか、きっかけは得られません。

 

他者が手を差し伸べるにしても、自分たちで作り出す未来の可能性の発露は必要です。そもそも当人が諦めて見込みのないものに、他者は関わろうとしません。

 

当人が可能性を見出して、何らかの結果物を成すからこそ、その次、そしてまた次へと繋がっていくのです。

 

 

 

どうせできるわけない、どうせダメだ、どうせ無駄だ‥‥なんて言い続ける人は、死ぬまでそう言い続けていれば良いのです。そんな「ダメ、無駄、不可能」を思考のベースにしている人と、未来に一緒に仕事しようと思うのなら、ご自由にどうぞ。

 

私は、できそうだ、やってやれないことはない、うまくいく方法はある、扉の鍵は必ずみつかるはずだ‥‥と思う人々と、一緒に仕事をしていきたいです。

 

 

 

 


4Kへの歩み(2)「紙と高解像度のジレンマ」

2019年現在でもアニメ業界の制作現場は紙と鉛筆が主流です。しかし、フィルムと同様、やがてタブレットへの転換・移行は必至です。‥‥なぜ、そんなふうに「言い切れる」かというと、社会の映像技術・映像フォーマットに紙と鉛筆では対応できなくなるからです。

 

「ここへ来て、急に? 今までずっと紙と鉛筆で描いてきたのに?」

 

‥‥と思うのも無理はないです。特にアニメーターでベテランの人はそう思う方も多いでしょう。あまりにも紙の時代は長かったです。

 

でも、実は過去に何度も、アニメーターに直接的な環境変化が及ばなくても、社会の映像技術進化に合わせて、アニメ業界の映像技術も大きく変化してきました。実際、原画や動画の描き方に「社会の技術変化」の影響が出ているのを、何となくでも感じているアニメーターは多いのではないでしょうか。

 

1980年代と2010年代のアニメの絵柄、特に線画の内容はどのように変わったか。

 

「アニメに高解像度なんて必要ない」‥‥なんて言う人もいますが、それならば、Video CDのフォーマットの汚い画質(0.5K以下)で今でもアニメをご覧になれば良いのです。ちゃっかり、地上アナログ時代のD1(720x486)より格段に高解像度なHDで納品されたアニメ(=たとえ1.5Kからのアップコンであっても)を日頃見ておきながら、「高解像度なんて無用」だなんて無知の無知にもほどがあります。

 

テレビのアニメは、1990年代までは、16ミリフィルム、縦480本程度の低解像度のテレシネ、地上アナログ波、録画するのはVHS、しかも3倍モードなんていう今考えるとあまりにも低すぎる画質で録画して見ていました。

 

 

今は、1.5K前後の中間素材、2K/HDサイズでのフィニッシュ、地上デジタル波、録画するのはBlu-rayの2K/HD、6〜8Mbps録画モードの画質でもVHS3倍モードよるも遥かに綺麗な画質で、深夜のテレビアニメ枠を観たり録画したりしますよネ。

 

全然普遍ではないのです。常に変化しています。アニメ業界の技術も機材も環境も、社会の変化に合わせて、段階的に変化しています。

 

フィルム撮影台、セル用紙、セル絵具はアニメ業界の制作現場から完全消滅したと言っても過言ではありません。アニメーターは変化の実質を知らぬがゆえに実感しにくいだけで、アニメ制作技術は10年前後の周期で常に大きく変動してきたのです。

 

紙と鉛筆は、最後の「変化に取り残された工程」です。未来も永遠に変わらぬ、普遍の工程ではありません。

 

 

 

紙と鉛筆は4K放送、4KHDRテレビ、4Kネット配信に、基本性能として対応できません。なぜかと言うと、

 

「用紙」がA4サイズでは小さいので拡大すると絵が粗くなり、加えて、鉛筆の先端を尖らせるにも限界があるので、やはり絵が粗くなる

 

‥‥という深刻な理由があります。そのあたりは、前回の「4Kへの歩み(1)「iMac 5Kの2014年」」で書きました。

 

「絵描きの人間の精神論」でどうこうなる問題ではないのです。単純に物理的な限界が立ちはだかるのです。

 

「スキャン解像度を上げれば良いんじゃないか?」

 

‥‥と思う人はそれなりに多いでしょう。そう考えてしまう人のほとんどは、実際にスキャン解像度を300〜400dpiに設定してスキャンして二値化してスムージングした結果を検証したことがない人でしょう。つまり、想像、憶測だけで留まり、実践はしていないので「解像度を上げればなんとかなる」と考えがちです。

 

解像度を上げれば、4Kに見合う絵の細かさになる‥‥なんてことはないのです。375dpiでスキャンして描線の入り抜きの部分が多少繊細になっても、元の絵がA4用紙で描かれたものならば、絵の詳細感はほとんどアップしないことを、実際に試してみればお判りになると思います。

 

以下、拡大して判りやすくした図です。線の実寸は、A4用紙のほうは2cmくらいの長さです。A3用紙はその倍の4cmくらいの長さです。

 

A4用紙に描いた細い線の交差を、375dpiでスキャンして二値化&定型処理した拡大図

紙の繊維とカーボンの粒子の限界が、線のアウトラインのデコボコとなって表れる。

 

A3用紙に描いた細い線の交差を、188dpiでスキャンして二値化&定型処理した拡大図

線の太さは同じでも、大きい紙に描くことで相対的に縮小されて、デコボコが少なく抑えられる。

 

私が2014年にiMac 5Kを自宅に導入した後も、紙と鉛筆の限界は「あまりにも大きな障害」でした。大げさな話では全くなく、「運用不能」とさえ思いました。

 

かろうじて「カットアウト目的」ならば、大きな用紙で描いて、相対的に絵を小さくする方法で乗り切れる「可能性」はありました。しかし、何千何万と作画枚数を描く旧来の技術では、紙と鉛筆の高解像度化は「ハナからお話にならない問題外」とジャッジせざる得ませんでした。

 

26cmのレイアウト用紙幅を、4KUHD(3840px)に対応させるには、375dpiが必要だが、絵は決して詳細にはならない。単に鉛筆線の生々しさが増すだけで、しかも鉛筆のニュアンスは二値化でフラットに除去するので、全く意味がない。

52cmのレイアウト用紙幅なら、半分の188dpiで4KUHDに対応できるが、あまりにも用紙が大きすぎる。その巨大なスタンダードサイズの作画を、200〜400円代の動画単価で運用するのは実質不可能。

いずれの場合も、動画だけでなく、彩色のスキャンとゴミ取りなどの整形も格段に手間がかかるようになり、恐ろしくコスト(金と時間と人手)が増大するのは不可避。

 

 

まさに‥‥‥‥

 

進退窮まる

 

‥‥とは、このことです。

 

今までの用紙サイズでは、どんなに高解像度でスキャンしても、4Kに見合う詳細感は向上しない。

 

用紙サイズを2倍にすると、制作運用と作業自体が困難になる。

 

紙に変わる液晶タブレットは、出現していない

 

板状のタブレットは、紙とは異質過ぎて馴染めない人が続出する

 

これは転じて、「究極の選択」を突きつけられたのと同じです。

 

社会の変化、時代の移行、技術の進化に対して、背を向けるか、否か。

 

目的が、「昔、アニメという産業があって、テレビの発達とともに、アニメも花開いたんだよ」と「博物館入り」なら、背を向けて立ち止まっても良いでしょう。博物館に「昔の産業扱い」で陳列されて展示されるのなら、どんなに古めかしくても、現代社会と乖離していても問題はありません。

 

でも、それはアニメ制作の死を意味します。もう未来はないということです。生命活動や代謝が停止して、屍を晒す存在になるということです。

 

 

 

紙でしか線画を描けない現実に対して、行き詰まっていました。iMacの5Kのモニタが目の前にあっても、それをフットワーク軽く活用できないのです。

 

そんな時、まさかのiPad ProとApple Pencilが、2015年の秋に突如発売されました。

 

前回の繰り返しになりますが‥‥

 

なにそれ〜〜〜〜〜!!!!

 

なんというタイミングの良さ。

 

正直、あまりにもタイミングが良過ぎて出来過ぎていて、気味が悪くすら感じたものです。

 

シンクロニシティにもほどがある

 

‥‥と思いました。とはいえ、これで、

 

紙問題が解決できるかも

 

‥‥と思いました。プロ品質の要求に耐えうるiOSのドローソフトが存在すれば、紙から抜け出て、最初から高解像度画像サイズで、Apple Pencilで描けばほとんどの障害を払拭できると感じました。

 

iMac 5Kの4年ローンを抱えたまま、iPad Pro 12.9インチとApple Pencilを注文開始と同時にAppleストアで注文しました。

 

当時の伝票がコレ。

 

 

 

注文開始と同時にローンを申込んだ(手数料無料の24回にした記憶があります)ので、日本でのリアルな発売の日時が確認できます。Apple Pencilは注文殺到だか生産が追いつかずだかで、速攻で注文したのに、すでに5週待ちになっております。‥‥今にして思えば、Apple Pencilだけ即金(代引きなど)で買えば良かったのです。Apple Pencilまで一緒にローンなんて組まずにネ。

 

 

 

こういう「雌雄を決する」場面で躊躇は禁物。

 

Veni, vidi, vici

 

「来た、見た、勝った」と訳されるローマの言葉(日本語訳だとVの韻を踏んでないですが)、わたし的には、iMac 5KもiPad ProもApple Pencilも、

 

来た、見た、買った

 

‥‥です。ダジャレですみませんが、実際、

 

来るべき時にソレが来た、ソレが何かを見てジャッジした、即決でソレを買って導入してすぐに実践を開始した

 

‥‥ということです。未来に勝つために、今買うわけです。お金は使う時に使う、ビジネスとクリエイティブの「ブリッツクリーク」です。

 

まさにその通りで、12月にApple Pencilが届いてから、翌年の2016年の2〜3月くらいには早速iPad Proでプロ仕事を開始しました。1〜2ヶ月もあればApple Pencilには馴染めました。以前の液タブの描きにくさが冗談だったかのように、Apple PencilとiPad Proの組み合わせは「描ける機材」でした。

 

お金。

 

ダラダラズルズルと「後動検」とか「仮本撮」とか「複合組み」とか状況を悪くするためにお金を使う現場もありましょうが、未来を確実に勝ちに行くためのお金の使い方も必要なんですヨ。日本人は先見性にほとほと弱い国民性ではありますが(日和見気質と集団イジメ体質が原因かな?)、全員が全員、弱いわけじゃないでしょう。

 

 

 

では、iPad Pro 12.9インチとApple Pencilで何が劇的に変わったのか。

 

4Kが決して不可能な領域ではなくなったのが、iPad Pro 12.9インチとApple Pencil導入後の流れです。

 

A3用紙の大きな紙で188dpiでスキャンして二値化&定型処理した線と、iPad ProとApple Pencilで描いた生粋の線との違いは、あまりにも明白です。A4用紙の375dpiと比べるとさらに違いが顕著です。

 

大きく拡大しているので両方とも絵の粗さが出ていますが、粗さの質が違うことに注目しましょう。

 

さらには、iPadはこの線を運用可能にするまで10秒とかかりませんが、A4用紙の方は、紙に描いて、375dpiでスキャンして、余計に増えたゴミ取りをして‥‥と、比べ物にならないくらい手間と時間(=金)がかかります。「実を取る」のに、段取りが多すぎるのが紙、ストレートなのがiPadをはじめとしたタブレットです。

 

ちなみに、iPadでは故意に描線のアウトラインをデコボコにして、左図のA4用紙風の線すら、プリセットを変えるだけで描くことができます。ストロークのテクスチャをアニメートできるドローソフトもあるくらいです。‥‥おそるべし、iPadとApple Pencil、そしてiOSのドローソフトの数々。

 

紙に頼らないことで、4K時代のアニメ制作は初めて可能になることを、しっかりと再認識した2015年でした。

 

そのあたりを、次回に書きたいと思います。

 

 


Trinstan und Isolde

私は20代の頃、ワーグナーの「トリタンとイゾルデ」に猛ハマりして、原画を一日中描いた後で、疲れも知らずにトリスタンのスコアを見ながらCDを聴く‥‥というような日々を過ごしていた時期があります。ゆえに、所有するスコアの中で、一番痛んでいるスコアはトリスタンのDoverのスコアだったりします。

 

*AmazonでKindle版がお安く販売されてて驚きました。Kindleは便利でいいな‥‥と思う反面、スコアのKindle版は微妙な出来のものが多く(余白が異様に広くて、肝心の音符が小さくて読みにくい‥‥など)、買うのを躊躇しています。印刷版は普通に良いですよ。

 

 

当時、つたない音のMIDI音源で、トリスタンのスコアの気になる箇所を打ち込んだり、前奏曲の出だしの部分(主要動機が詰まった部分)はピアノ用に簡素にアレンジして「デジタルピアノ」で弾いてました。私の90年代前後=20代はトリスタンと切っても切り離せない時期でもあります。MIDIの打ち込みでも、オーケストラのスコアを1パートずつ打ち込むと、かなり勉強になりますヨ。トリスタンが息絶えるシーンで「松明の動機」が鳴り響く箇所がありますが、CDでは聞こえにくい様々なモティーフが絡み合う様子は、スコア研究ならでは理解できるものです。

 

ライトモティーフという作曲法は、映像にも活かせるのではないかと当時考え、故わたなべぢゅんいちさんと熱く語り合ったものです。今にして思えば、カラースクリプトそのもの‥‥ですが、「構図や色彩の示導動機は絶対にできるし映像作りに有効だ!」と90年初頭にひとりで盛り上がったのを懐かしく思います。‥‥まあ、それを今、そのまま仕事の一環としているわけですけどネ。

 

いつもそばに置いておく本はジャンルごとに色々ありますが、トリスタンのスコア、バッハの平均律やフーガの技法は、当座必要なくても、「いつもそばにいてほしい」存在なのです。

 

ただまあ、トリスタンの音楽を聴くと、自分自身の存在すら肯定できず危うかった20代を思い出すので、まさに「死の動機」の示す感情に支配されそうで、今になって聴くと気分サゲサゲになりそうでコワいキモチもあるのです。

 

 

 

現代はアマゾンでオイレンブルクのスコアシリーズも簡単に手に入りますし、せっかく時代が進化した今に生きるのなら、若くて吸収力が高いうちに、いろんな可能性を試してみるのも良いですヨ。

 

*マーラーと比較され「興行的」とも揶揄されるR.シュトラウスですが、何を言うても、近代オーケストレーションの雄ですので、ストラヴィンスキーやマーラーやラヴェルとともに、スコア研究は是非しておきたいですネ。

 

 


思い立ち

思いつくことは、実現できる可能性が高い。‥‥と、私は経験上でしみじみ感じます。

 

逆に言えば、思いつかないことはできません。

 

普通に考えて、自分の脳内で想像できないことは、やらないし、できないですよネ、

 

しかし、想像できることは、できそうな予感がします。さらには、今の時代を生きる世界のどこかの人間は、同じことを考えていて、それが「同業者の共時性」みたいな状況となります。

 

10年以上前に、カットアウト(当時はそうは呼んでいませんでしたが)に取り組み始めて、個人所有の性能の低いPowerMac G4で格闘していた頃、海の向こうの欧米で会社規模で作ったカットアウトの短編を観た際、「‥‥やっぱり、同じことを考える人はいるよな。だって道具はあるんだもんな。」と驚くと同時に、日本のアニメ業界の「内弁慶」な状況に悲観したものでした。日本は個人規模の研究、あちらは着実に会社規模でコマを進めてビジネスの機運を伺っており、日本はいつも「こうなんだよな」と悲しくなったのを思い出します。

 

でもまあ、日本人の特性を恨んだところで何のプラスにもなりません。夜はなぜ暗いんだ!‥‥と叫んだところで昼になることはないです。合理性や先進性よりも精神性を重んじる「お国柄」を嘆いたところで、アニメ業界がどうこうなるものでもなし。

 

むしろ、「思い立てた」こと、「想像できたこと」を純粋に喜ぶべきでしょう。「できそうだ」と発想できたことを、今までの経験の積み重ねゆえと、感謝すべきです。

 

 

 

ただ、人間の人生は短いです。思い立ったことを全て実現して完成させられるほど長くはありません。

 

また、人間には「旬」と「熟成」ともいうべき、「実行するには良い時」が確実にあります。思い立ったら吉日とは、昔の人はよくいったものですネ。

 

人生100年の時代とは言われますが、その100年の間の時間は等価ではありません。楽器や絵画を覚える時、身体能力を身につける時、思考能力を身につける時‥‥と、自分の中の「最適」な「旬」の時期は確実にあります。「旬」を逃すとうまくいかないことも多々あります。

 

しかし、「旬」を過ぎても、実は「熟成」の時期が一定期間の後にやってくるので、その時も「チャンス」なのです。

 

そして、自分の中の多様な要素は、それぞれ旬と熟成の時期が時間差で波状で到来します。春に咲く花もあれば、冬に咲く花もあり、夏野菜もあれば、秋野菜、冬野菜、春野菜もあります。唐辛子は収穫したのちに熟成させることで旨味と辛さが増す‥‥そうですヨ。

 

 

 

一番マズイのは、

 

26歳の時に、「自分が16歳の頃にやってみたかった‥‥」と後悔し

36歳の時に、「自分が26歳の頃にやっておけばよかった‥‥」と後悔し

46歳の時に、「自分が36歳の頃にやるべきだった‥‥」と後悔し

56歳の時に、「自分が46歳の頃にやらずのままだった‥‥」と後悔し

結局、自分自身の無難路線の枠から一歩も出ずに、66歳を迎えて「自分の人生は何だったのか‥‥」と呆然とする

 

‥‥ようなことです。後悔が10年ごとに繰り返される人生。

 

過ぎ去った時間に未練だけが残り、結果に後悔してばかり‥‥という状況は、まるで自分が乗るべき電車を間違えて、予定とはまるで違う場所にたどり着いて途方にくれるが如く‥‥でしょう。その時々の自分の「旬」と「熟成」を懸命に見つけようとしなかった結果を受けて、さらに今の自分の「旬」を見失う最悪のループ。

 

もし電車を乗り間違えたのなら、見も知らない場所で、逆に何かを獲得すれば良いのです。

 

皆が同じレールで同じ目的地に向かっているのですから、考え方によっては、自分の想定外の到着場所は「皆が知らない物事が盛りだくさんで豊富」とも言えるわけです。私は一時期、アニメ制作現場から干されたような実質の期間がありましたが、今思えば、アニメ制作現場では得難い貴重な体験と知識を得ました。実写作品に関わって、本当に良かった‥‥!

 

人生って、少なからず、フォレストガンプみたいな話‥‥です。

 

 

 

思い立つ‥‥ということは、何らかの片鱗が見えている証しだ‥‥と、嬉しく感じるべきなんですよネ。

 

今、思い立つことを、いろいろと調べて研究して実践してみて、すぐにはモノにならなくても、何かが何かに繋がるように思います。

 

私自身、「普通そんなことはやらない」みたいな言葉ばかりに準じてたら、「普通の枠」に収まり続けて何も新しいことはできなかったと思いますし。‥‥アニメ業界のプリズン・セルに閉じ込められたままだったと実感します。

 

会社や政府に期待して、それで未来に返ってくるのなら良いですが、そんな他人任せよりも、「自分が、自分自身に「旬の収穫」を返してくれる」のを期待した方が確実なように思います。自己同期が一番結果を出しやすく、その結果が新たなフェイズへと導いてくれます。

 

アニメーターなら、iPadなどのタブレットで、自分の絵を、自分のために描いてみましょう。アニメ業界のためだけに絵を描くのではなく。

 

まずはソコから。

 

 

 

 


第7世代の無印iPad

iPadの新しくて安いヤツが出ましたね。32GBで34800円(+消費税)、128GBで44800円(+消費税)で、Apple Pencilの1型(初期型)が使えます。10インチで小さめですが、絵をちょいちょい気軽に描けるので、持っていない人は買ってみるのも良いかもです。最初からプロ仕事目的なら、12.9インチは必須かなとは思いますが、日頃気負いなく軽いキモチで描くのなら、新しいiPadは値段も安めで良いですネ。

 

 

気軽に毎日iPadで絵を描いていれば、妙な気構えがなくなり、絵を描く所作が自分の生活の流れに溶け込みます。「習うより慣れろ」とは、気負いや前置き無しに、「拡張した自分の体」として道具を使う感覚を身につけよ‥‥という事でもあるのでしょうネ。

 

最近、キーボード‥‥といっても「鍵盤」の方ですが、また触る機会が増えたので、指が多少ほぐれてきました。ほとんど弾かないでいると、手はまるで「掘りたての大和芋」のように固まって、まともに弾けるようになるまでリハビリが必要ですが、弾いてさえいれば自然と指は分離して動くようになるのを今さらながら再認識しました。

 

 

 

子供の頃からピアノを弾いていた人は、三つ子の魂‥‥ではないですが、白鍵黒鍵のインターバル・間隔が体に染み込んでいるのか(まるで階段の昇り降りの歩幅のように)、久々に弾いてもミスタッチがそもそも出ないんだな‥‥と感心します。私は覚え始めの時期が遅いので体に鍵盤の距離感が染み付いているわけではないですが、それでも全く弾かないより多少でも弾くようになれば、毎日練習していた頃の感覚が蘇ります。

 

 

 

やれば、やるなりに体に馴染む。やらなければ、馴染まない。‥‥わかりやすいですよね。

 

特に、リアルタイムの操作系は、身体〜手や指を動かせば、自然と自分の体の「一連の動作」になります。iPadも毎日使えば、iPadで絵を描くことに「妙にかしこまった感じ」が消えて、体にどんどん馴染んできます。

 

やっぱり、道具との距離は「日々できるだけ近く」しておくのが良いです。できることができるようになるためにも。

 

できないことをできるようにするには、自分の中でのなんらかのブレークスルーが必要でしょうが、できることまでできなくなるのは、単に道具との距離が開いて疎遠になるから‥‥というのも多分にあるでしょう。

 

 

 

今回のiPadは、iPadを所有していない層が買うのに、色々と魅力的な要素が多いです。

 

  • iPad Proより大幅に安い
  • 10.2インチの持ち運びサイズ
  • Apple Pencilが使える
  • Touch ID(個人的にはiPadではFace IDよりTouch IDが適していると思ってます)
  • スマートキーボード対応
  • 264ppiと500nits

 

 

 

アマゾンの「Fire HD」の10インチでは絵を描いたりPDFにメモ書きを手書きで書き込むことは実質できません。Garagebandのように気軽に音楽を演奏するのも難しいです。Fire HDは「受け身」のタブレットであり、何かを作り出すきっかけにはなりません。ゆえにFireの用途はビュワーに適しています。

 

iPadとiPad Proの差は、通常の用途や落書き用途では、ほとんど差が無いとも言えます。

 

写真を4Kで撮りたい!‥‥という人が、iPadユーザでどれだけいるか。おそらく、4Kの綺麗な写真を撮るならiPhoneのほうでしょうから、iPadのカメラは2Kで良いと思います。本当に「いざ」という時しか私はiPadで写真を撮ることがないです。‥‥だって、そもそもデカくて撮りにくいもんネ。

 

Face IDは、実はiPadでは正直「野暮」ったくて困っています。iPhoneならともかく、iPadの真ん前に顔をいちいち持っていかないとIDを認識しないのは、使ってて面倒です。作業の流れで、机に置いてあるiPad Proに指だけで触れて、あらかじめIDを認識させてロックを解除する‥‥というのが、Face IDだとデキんのですヨ。Procreateからホーム画面に戻る際のスワイプ動作で、いちいち誤動作するし、iPad用途ならTouch IDの方が良いです。iPhoneは本体を持って使うけど、iPadは机に置いて使うので、同じような使い勝手は通用しないことが経験上わかりました。

 

*iPadとApple Pencilがあれば、状況説明図をチャチャッと描いて、すぐにWebにアップすることも可能です。コンピュータネットワーク全盛のご時世、紙で描くのとは、フットワークに歴然と差が出ます。

 

 

Apple Pencilも絶対に2型でないとダメというわけではなく、むしろ充電の方法や場所が選択できて初期型でも使い勝手は良いです。実は私、2型の「ペン軸にタップしてメニューを出す」機能はほとんど使っていません。

 

つまり、10.2インチの大きさで済む用途なら、最新のiPad Proと比較して「実質上の遜色」は感じません。iPad Proの最新型は、単体のスペックをとことんゴージャスにした内容で、基本機能云々というよりは「付加価値」が高いモデルです。

 

iPhoneの最近のモデルを使っている人は、iPad Proの機能と被っており、iPhoneで済ませることも多い‥‥と思います。

 

 

 

iPadの新型は、「できることを想像」して、ついつい欲しくなります。実際、Apple Pencilを使えるiPadを手にしてから、格段にできることが増えましたし、自分の仕事も大きく発展しました。iPad ProとApple Pencilがなければ、4KHDRのプロジェクトへの道のりも実現しなかったと思いますし。

 

私は春にiPad mini 5を買ったので今回は我慢しますが、iPad未体験の人は是非。

 

まずは毎日、道具を使うことです。たまにしか使わなければ、そりゃあ‥‥道具との距離も遠のきますよネ。

 

 

 

ちなみに、32GBと128GBのどちらが良いかと言えば、128GBがベター‥‥くらいな感じです。32GBの容量を、自分の描いた絵で使い尽くすには相当な枚数が必要ですが、映像なども入れておくのなら、128GBの余裕は魅力です。

 

絵を描く人間、映像を作る人間で、プロとして仕事をする立場なら、いつでもプレゼンできるようにiPadに「自分の過去仕事」を満載して使うのも良いです。

 

絵を描く手段を拡張するだけでなく、自分の可能性や、自分の仕事の幅も、iPadで拡張しましょう。せっかく、今の時代に生きてるんだから。

 

 


イベント前のAppleストア

Appleのイベントが今日未明(9/11)に開催されますが、新製品の紹介に伴って、Appleストアも品揃えを変更するので、いつものように「しばらくお待ちくだい」になっています。

 

 

あ、「少しだけお待ちください。」か。

 

数分の差で、1世代前の製品を買うのも悲しいですもんネ。

 

ちなみに、以前切り替えのタイミングの時に、知らないで「eMac」を買ってしまった時は、後にストアからメール連絡が来て、「新しいモデルに注文変更したら如何でしょう」と提案してもらったこともあります。もちろん、同じ値段で新しいモデルに変更してもらいました。

 

しかし、1ヶ月くらいの開きだと提案してもらえず、悲しく旧製品を使うことになります。FCPの6を買った後ですぐに7が出て、優待割引も何もなくてキツかったなあ‥‥。

 

 

 

今回は何が出るんでしょうかね。Apple Watch 5と、iPhoneは噂されてますが、他はどんなかな。

 

作業しながら中継を見ることにしますワ。

 

 

 

 


4Kへの歩み(1)「iMac 5Kの2014年」

4KHDRの情報が徐々に公開されています。4Kでアニメを作るというのは、ぶっちゃけ並大抵なことではありません。簡単に作れるのなら、皆で今頃、作りまくっているでしょうしネ。4Kはおろか、2Kのドットバイドットでも危うい、日本のアニメ業界。

 

4KHDRをプロダクションで制作するまでに、どんな過程があったのか。

 

決してお膳立てが揃ってなくても、自主的にでも、4K時代を見据えた取り組みは可能なんですよ‥‥と伝えたくて、何回かに分けて、記事を書こうと思います。

 

私が「4Kを始めよう」と決意したのは、2014年に入った頃でした。当時、私の自宅の機材は、Mac mini / i7 / 16GBメモリで、2Kをやるには充分でしたが、モニタは1920pxのいわゆる2KのHDサイズで、4KのUHDサイズを等倍(ドットバイドット)で映し出す場合は部分的(1/4の面積)にしか表示できない痛烈な制限がありました。

 

Mac mini本体も、4Kをまともに映し出すビデオ性能ではなく、さらにはタブレットは板タブで20年近く馴染めず、当時私が手にできた液タブは2Kに満たない1.6K前後のモデルでした。

 

なので、2014年当時は4Kの線画を紙で描きました。しかしA4サイズはいかにも小さく、4Kドットバイドットでスキャンするには375dpiになり(レイアウトフレームの横幅が26cmとして)、単に鉛筆や紙の粒子や繊維を克明にスキャンするだけで、4Kらしさ=精細感とは言い難い状態でした。

 

そこで、すでに2000年代からカットアウトを研究していたこともあり、カットアウトなら分割作画でもいけそうだと目測をたてました。A4用紙で分割して作画して、スキャン後に合体させる方法を採りました。

 

手順は非常に手間のかかるもので、

 

  1. A4用紙で全体を作画(清書前の状態)
  2. スキャンしてデータ化
  3. Photoshopで分割作画用に大判化と分割処理
  4. A4用紙にPhotoshopから分割したごとにプリントアウト
  5. A4用紙で分割ごとに清書し、A3〜A2相当の原稿サイズを確保
  6. 分割清書したA4用紙をスキャンしてデータ化
  7. Photoshopでごみ取りなどしつつ、分割して読み込んだファイルを合体
  8. カットアウト用の4Kドットバイドットの線画が完成

 

‥‥のような、「うげげ‥‥」と思うような段取りですが、まさかA2用紙を常用して描くわけにもいきません。そもそも私の自宅にA2などイッパツでスキャンするスキャナーなどありません。私の所有するスキャナは普通のA4サイズです。

 

紙本体にしても、A2はもちろん、A3の用紙ですら、ちょっと傾けただけで机からはみ出して絵などまともに描けたものではないです。アニメの線画は、油絵や一点ものの水彩イラストを描くのとは事情が異なります。

 

大きい紙に1枚で描くよりも、A4用紙で分割作画してスキャンすることで、ようやく「4Kにふさわしい」サイズの線画を紙ベースで実現しました。

 

巨大な大判用紙のスキャンの大変さは、解る人は解ると思います。結果物が同じでも、A4分割のほうが取り回しは良いです。

 

とはいえ‥‥

 

これは‥‥相当に手間のかかることだ‥‥。カットアウトならまだしも、従来の何千何万枚単位の作業で、紙を用いることは実質不可能だ‥‥。

 

‥‥と実感したものです。‥‥というか、誰でもそう思いますよネ。A2やA3が標準フレームだったら何千枚なんて無理過ぎますもんネ。

 

加えて、苦労して描き上げた線画を、等倍(ドットバイドット)で全体を見渡せない‥‥という、Mac mini&2Kモニタの厳しい制限がありました。そこはどうにも解決できないフラストレーションとしてくすぶっていました。

 

何度もこのブログで引き合いに出していますが、まさに2014年当時に4K&カットアウト目的のテストで作ったのが、以下の女の子の絵です。クリックすると、別ウィンドウで絵だけ表示されますので、等倍で見ていただくと、鉛筆線のナマの質感がお分かりになると思います。

 

*今見ると、ゴミ消しや線の継ぎ足しが粗いです。鉛筆線のニュアンスは思った通りの感じです。

*2014年当時のMac miniでも出来たんです。2019年の今、1枚絵を描くくらいのテストができない理由はそんなにない‥‥はずです。

 

 

ちなみに、2014年当時は(いや、今でも?)「萌え系」のキャラがアニメの作風を席巻していましたが、なぜ素直に流行に合わせて「萌え系」のキャラを描かないか‥‥というのは、みんながやっているのなら得意な人たちにまかせて、私は別の路線〜トラディショナルな日本画を思わせる作風でやってみようと思ったからです。日本人のティーンの女の子・男の子キャラに、日本画の繊細な表現は相性が良いと考えました。

 

当時話題になっていたベビメタ(あたたたたーた、ずっきゅん、どっきゅんの)の女の子のスナップをWebで見ながら、もちろんそのまま似顔絵にはしませんが、私の好きな上村松園の日本画をイメージしつつ、4Kで可能と思われる詳細な描写を目指しました。簡略しつつ繊細である‥‥という私の好きな古今の日本画に触発されております。習慣的にアニメ絵を描くのではなく、もっと他の表現を試すべきと思いました。

 

日本は特に‥‥かも知れませんが、流行に対して暗黙のナショナリズムみたいなのが蔓延して、最近だと新海誠監督作品風の絵がもてはやされてると聞きます。しかし、新海誠作品のもつ独自の色彩感〜人間の記憶色ともいうべき隅々までの色彩が溢れた瑞々しい作品表現は、新海誠さんの真骨頂であり新海作品本家が作れば良いのです。思うに新海誠作品のあの色彩感・作品表現は、新海誠さんが周囲の色々にめげずに追い求めて、それこそ20年スパンの結晶とも思います。

 

アニメといえど絵画の表現ですから、表現者・絵描きの各人は流行に合わせてうわべだけマネして日和るのではなく、作品独自の表現を追求したい‥‥ですよネ。まあ、仕事は仕事として日々こなすとして、いつか大成させたい表現は秘めていたいものです。様々な美意識があってこそ、作品表現も様々に広がって豊かになると思うのです。日本のアニメの特徴を1種類に統合する必要は感じません。

 

 

 

話を4Kに戻して。

 

2014年当時はMac miniということもあり、上図の絵を一枚、4K仕様で作業するにも手間と時間がかかりました。線画以降はAfter Effectsでペイントし(自分で塗ったので)、レンダリングして絵を出力しました。

 

気負い過ぎて、4Kどころの解像度ではなく、6Kくらいの寸法になってしまったコンポ設定はこちら。

 

*ビットマップベースのカットアウトでは、拡大した時に線が荒れないように、大きめで作ることが多いのですが、ちょっと大きく作り過ぎた感はあります。ベクターベースのカットアウトは、結局はToon Boomと出会う今年(2019年)まで棚上げとなるのでした。

*この記事のためにCC2019で再出力した際のスクリーンショットです。2014年当時はすでにAdobe CCが運用開始されていて、ようやく個人規模でも全てのAdobe製品を最新版で維持することが可能になっていました。

 

 

1枚の出力に、2分くらいかかりました。最新のマシンだと1分くらいにはなるとは思います。

 

前述の通り、レンダリングした絵が等倍でリアルに見渡せないのは、せっかく作ったのになあ‥‥と、少し心が折れました。

 

だ、が、し・か・し。

 

まさに2014年の当時、秋にiMac 5Kが突如発売されました。

 

なにそれ〜〜〜〜〜!!!!

 

なんというタイミングの良さ。

 

もちろん、すぐに飛びつきました。お金はなかったので、4年の分割払いにしました。分割手数料は中々のもんでしたが、「戦時公債」と思って呑みました。

 

届いたiMac 5Kで、はじめて前掲の女の子の絵を表示したら、

 

2Kモニタとは全然違う

 

粒だちが違う

 

何もかもがクリアに繊細に映し出されている

 

‥‥と、完全に新時代の解像度に魅了されました。

 

他の300dpiでスキャンした線画も、iMac 5Kで見ましたが、

 

こんなに鉛筆の線って、繊細で躍動的で、チカラに溢れていたのか

 

‥‥と思いました。私だけでなく、高解像度のドットバイドットの世界を、色んな友人・知人のアニメーターさんに知ってほしいと素直に思いました

 

5KのiMacに見慣れた後ですと、2Kや2.5Kのモニタはみなボケて見えます。良い悪いの価値観ではなく、単純に画素密度の差としかいいようがありません。

 

今まで絵描き、特にスキャンに頼っていた絵描きは、モニタの低密度画面に「騙され続けていた」と思いました。‥‥いえいえ、逆恨みはしません。時代の技術ゆえのことですから。

 

*現行モデルを買うなら、中堅の3.1GHzモデルより上が良いです。一番下の3.0GHzモデルは色々とショボいので(メモリの上限が32GB)、中堅モデル以上の「64GBメモリに将来増設」を見込んで買うのがお得です。メモリはほんとに、足りなくなるから‥‥。すぐに増設しなくても、増設の余地は残しておくのが良いです。

 

 

こういうのを、シンクロニシティと言うんだな

 

‥‥としみじみ思いました。

 

必要な時に、なぜか、必要なものが現れる。

 

2014年の当時だけではないです。今まで私が体験した数々のターニングポイントにおいて、時代はいつも「助けて」くれました。もちろん、時代に「辛く当たられる」こともありますが、良い時期も悪い時期も含めて、時間は大きくうねって流れていくんだと感じます。

 

 

 

そして、今は2019年。

 

4Kで絵を描くこと自体は、大きくハードルが下がりました。学生さんでもiPadで絵を描く時代です。目の前にはiMac 5Kや4Kモニタがあります。6万円くらいで4Kで「HDR受け入れ可能」なモニタも売っています。

*「HDR受け入れ可能」とは、本体では細かくHDRの設定をカスタムできない「信号依存」のモニタ製品です。PQ1000nitsシミュレーションなどができるモニタはまだまだ高くて60万円くらいします。

 

新技術開発のプロジェクトは、ひたすらクチを開けて雛鳥みたいに待っているだけで、進行するものではありません。

 

新しい何かは、自分で、自分たちで、能動的に自発的に動かしていくものです。

 

ですから、4Kも、いくらでも自分の意思で研究は開始できます。2019年の今なら、なおさら。

 

ただ待つばかりで、世間話や噂話をしたところで、プロジェクトは何も始まりません。

 

物事は、動かさなければ動かない。動かせば動く。ただそれだけです。

 

実が伴わないと、話だけが一人歩きして肥大化する傾向はあります。噂や憶測の雑談だけに時間を費やすのではなく、実際に4Kで絵を描いて取り回してみれば、色々と手応えを得られるものです。

 

 

 

4Kなどアニメは不要‥‥というセリフも昔から聞きます。

 

考え方が違います。アニメに対して4Kがどうこう‥‥ではなく、世界の映像技術の標準が4Kやその次の技術へと移り変わっていく社会で、アニメ制作産業がどのように生き残りをかけるのか?‥‥ということです。4Kや8Kの時代に移り変わっても、アニメが魅力を放ち続け、現代性も獲得するには、どうすれば良いかです。アニメ産業自体が歴史博物館入りするのではなく、です。

 

2020年代は1.5Kのまま、2030年代も2040年代も1.5K‥‥でしょうか。

 

解像度が大きくなるということは、絵の内容も変わることだと、アニメ業界はハイビジョン地デジ化の際に学んだはずです。もっと遡れば、16ミリフィルムが消滅した際にも学んでいるはずです。

 

なぜ、その学びを、4KHDR時代に活かせないのでしょうか。

 

なぜ、一部の人々は、毎度毎度同じようなことを延々と学習能力欠如で言い続けるのか。

 

日本人は環境の変化に対して、順応力が高いうえに、さらに発達させる能力が秀でていると思います。しかし、その順応力と発達能力はいつも「後手」で発揮されます。ゆえにレッドオーシャンばかりで泳ぎ続けます。

 

たまには、先手でいきましょうよ。決して出来ないことではないはずです。

 

4Kの絵を描いてみるのは、すぐにでも出来ます。2014年に出来たことが、機材が進化した現在にできないわけがないです。

 

やるかやらないかは、当人次第です。

 

 

 

2014年の翌年、2015年には、いよいよiPad Proが新発売されます。まさに、シンクロニシティそのものです。

 

苦労してきた紙のデータ化において、2015年のiPad Proの登場によって終止符を打つ時が来ました。スキャナーを使うのは、年に数回程度‥‥という日常へと変わったのが、2015年の秋でした。

 

というのを、次回に書きます。

 

 

 

 

 


新プロクリ。

4KHDRプロジェクトの紹介がネットで公開されたのに伴い、4KHDRに関する制作技術の様々な予測を見聞きします。なにぶん、公開前の作品なので、私の口からは大したことは喋ることはできませんが、動画の単価については制作プロデューサーさんと色々と相談して、「4K時代における極めて大幅な単価の見直し」を実施したことだけは記しておきます。

 

作画の未来を考えるのなら、お金は全てプロデューサー任せではなく、作品における作画のリーダー的存在の人間が、作画の専門分野の見地から、単価の相談をプロデューサーとちゃんと相談して協議すべきです。作画の長が知らんぷりしていると、何も変わっていかないどころか、どんどん状況は悪くなることを改めて認識しました。

 

また、作画のソフトウェアの組み合わせやピクセル寸法に関しても色々なパターンを試しました。それも今はあまり私からはしゃべれませんが、私はクリスタとProcreateとiPad Proで4Kドットバイドットの原画を描きましたし、カットアウトに関してはProcreateとToon Boom Harmonyで6〜8Kは当たり前のサイズで描きました(実写と違ってアニメは大判になりやすいので)。Toon Boomは6Kでも「ケロッ」と何もなかったかのように動作が軽く(macOSなのに)、未来への余裕が感じられました。

 

4Kのレイアウト用紙は、2018年にグローバルな仕様として制定したこれです。

 

 

*まあ、4K(UHD)ドットバイドットなら、誰が作ってもこうなるわな。

*紙での使用は考慮しておりません。ゆえにタップ穴はありません。ペーパーレス運用にて、ピクセル寸法基準のみ(dpiはゼロ扱い)で使用します。

*Procreateに直に読み込めるのは、こちら。(9.7インチの旧型iPad Proだと14レイヤーにレイヤー数が限定されますので、12.9インチがオススメです)>Procreateのレイアウトファイル(ダウンロードしたのちにAirDropでiPadに送ると、Procreateで自動で開きます)

 

 

Procreateは、6Kくらいになると、メモリに余裕のある12.9インチモデルでも、作成可能なレイヤー数が減るので(十数レイヤーとか)、結構苦労しました。最大4ファイルまで分割して描いたものもあります。

 

で、Procreateの「5」。Coming Soonとのことです。

 

 

 

楽しみです。前回のバージョンアップも嬉しさ満載だったので、今回も期待しています。

 

新バージョンはなんと、オニオンスキンまで搭載されるとか。私は今までのProcreateでも原画を随分描きましたが、オニオンスキンに相当する機能は単にレイヤーの不透明度で手作業にてカバーしていたので、純粋に嬉しいです。‥‥まさか、Procreateがそちら(アニメ機能)を拡張してくるとは思わなかったです。

 

 

 

ソフトウェアの伸びしろがある時代って、いいですよねえ‥‥。

 

その昔、PhotoshopやAfter Effectsの新バージョンが出るたびにワクワクしたものです。(なんとなく過去形ですが)

 

今はiOSのAppの更新が楽しみです。純粋に出来ることがどんどん増えて操作も快適になるからです。

 

メディバンを愛用している人もいるでしょうし、私のようにProcreateの他にコンセプト.appにも魅了されている人も多いでしょう。クリスタはBluetoothのキーボード(キー配列に注意!=IOP@[ の並びを選ぶべし=K380とか)と組み合わせると俄然使いやすくなりますし、AdobeはPhotoshopのiOS版もFrescoも期待大です。ソフトウェアの新バージョンが待ち遠しくて使うことが楽しい頃って、新たなムーブメントが台頭する時でもあるのです。

 

 

 

数あるAppの中で、Procreateをなぜそんなに?‥‥というのは簡単な話で、「描きやすいから」です。

 

今やジェスチャーが身に染み付いて、他のAppのジェスチャーをProcreate寄りにカスタムするほどです。油断していると、「ジェスチャー主義者」になりそうで怖いです。いちいち手をキーボードに向けるのが鬱陶しくなるのは、ちょっと危険な偏りです。

 

実際、4KHDRのプロジェクトでは、私はProcreateを多く使って作画しました。さる方はクリスタ、さる方はTVPaintと、ソフトウェアは原画時に自由に選択できるようにしましたが、私自身は「Procreate率」が非常に高かったです。

 

ちなみに、初代のiPad Proでも充分に4Kの線画は描けます。中途半端な環境のデスクトップOS(メモリが少ないとか液タブが小さいとか)で描くより快適かも知れません。初代のiPad Proって言ったら、2015年ですよ。‥‥ガジェットとしては寿命は長いほうですネ。

 

 

 

そういえば、HDR。

 

HDRには、HLG、HDR10(10+)、Dolby Visionがあって、PQというログとリニアに似た仕組みもあります。

 

今回はDolby Vision / PQ1000nitsをターゲットにしましたが、さすがに線画を描く時は、100nitsでも充分過ぎます。作画用紙ファイルの白地を300〜1000nitsで見続けようものなら、目が壊れます。線画作業までは、sRGB/Rec.709やiPad Proの目に優しい輝度で充分です。

 

その辺の制作情報も含め、やがて4KHDRプロジェクトの作品仕様や制作方法などもNetFlixさんから関係筋に公開されるでしょう。

 

 



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